時代に寄り添った取り組みが支持され、華麗に邁進する女性リーダーとして注目されているひとり、パリのアンヌ・イダルゴ市長。今回は「運を味方につけた」伝説やモードとの関係性など、ファッションジャーナリストの藤岡篤子さんに改めて解説していただきます。

時代の潮流を掴んで邁進し続ける女性リーダー、アンヌ・イダルゴ市長

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世界が注目する女性リーダー、アンヌ・イダルゴ市長

「運を味方につける」ということがあるのなら、パリのアンヌ・イダルゴ市長ほど、「ついている」人も稀ではないか。

世界を挙げて男女の格差を無くそうとしている時代にイダルゴ市長は、上級職に女性を増やしすぎ、パリの公共サービス省から罰金を受けることになったことがある。 2018年のことだが、2013年に制定された法律で、公務員の管理職の男女比率はどちらかが、60%以下と定められていた(2019年に廃止)。

罰金9万ユーロの小切手を政府に持参するとき「我々が罰金を受けたことを発表することができて嬉しい」とジョークを飛ばし、「我々は決意と活力を持って女性を昇進させなければならない」とフランスには格差がいまだに大きく、女性のエンパワーメントの必要があることを公に示し、共感を呼んだ。

女性の能力を登用することがどれほど重要であるかという政治姿勢があえて法律違反するという選択で、時代の潮流を掴んだエピソードのひとつだ。

サステナブルを先取りした取り組みが運を後押し

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フランス・パリ市が提供している自転車貸出システム「ヴェリブ」を利用し移動するイダルゴ市長

コロナの蔓延も、結果的にイダルゴ市長の追い風となった。「持続可能な街へ」というサステナブルを先取りしたスローガンのもと、保守層の反対を押し切って、パリの渋滞と環境汚染を減少させるため、歩道と自転車道路を広くする工事を就任とともに着手している。

完成の直後から、大規模なストライキが始まり、それに続くコロナの大流行により自転車通勤や運動が増加するという社会環境の変化を見事に受け止めた。偶然とはいえ、その先明の明に市民が大喝采したのはいうまでもない。現在2期目を迎えている。

ダイバーシティを体現する存在としても支持される

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2019年2月、高田賢三氏が80歳を迎えた際のバースデーパーティの様子

また、世界のファッション都市パリの市長であることも、花を添えている。パリのファッション界に大きな足跡を残した日本人デザイナー、高田賢三氏の逝去にあたって、「パリは息子の死を悲しんでいる」と追悼のメッセージをtwitterに投稿し、パリモードに貢献した彼の死を悼み話題を呼んだ。

このメッセージはとてもパリらしいと言える。日常の中にファッションが当たり前に共存している事実と、多民族国家であるフランスでの外国人に対する懐の深さを明瞭に示しているからだ。

イダルゴ市長自身も、スペインからの移民で、ダイバーシティを体現する存在。現在はスペインとフランスの二重国籍を持つ二児の母親なのだ。

世界中の女性が憧れるパリシックなファッショセンス

東京五輪の閉会式ではディオールのワンピースを着用し話題に

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2021年の東京五輪の閉会式にて

ファッションのセンスも注目の的だ。2021年の東京五輪の閉会式に来日し、2024年に開催されるパリ五輪への引き継ぎ式に登場した。渡された五輪の旗を大きく振る姿は、女性政治家にありがちなスーツやパンツスタイルではなく、フォーマル感のあるフェミニンなワンピースをまとい話題に。

動きに合わせて優雅に揺れる、スカートのボリューム感が美しく、「いったいどのブランドなのだろうか?」と気になった方も多いのではないだろうか。こちらはディオールのワンピースであった。

だが、ラグジュアリーブランドへの特別な関心というより、フランスを代表する知名度の高いブランドを選んだら、ディオールになったということだろう。

イダルゴ市長と“モード”の関係

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シャネルの2017-18年秋冬 オートクチュールコレクションの会場にてカール・ラガーフェルド氏と

パリ市が与える最高位のパリ市大金賞をカール・ラガーフェルドへ授与した時に着ていた白のシャネルコート、ランバンのレセプションに着ていた素敵なブルーのコートなど、いかにもフランスらしいラグジュアリーなファッションに身を包んでいる時も多い。

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ランバンのアーティスティック・ディレクターを務めていたアルベール・エルバス氏と

パリジェンヌらしいミニマルなスタイルが定番

 

だが、ファッション的な視点から見ると、特別な席は別として、日常的には、いかにもパリのマダムらしい黒やネイビーを選択、着回しのきくリトルブラックドレスやテーラードなどの定番を自分流に着こなす「パリシック」の着こなしがほとんどだ。

定番スタイルに個性を光らせる首元おしゃれ

パリシックの「アイコン」になるのが、スカーフ使いの巧みさだろう。ダークカラーのジャケットやスーツを着ることが多いが、そこにひと味加えて個性を演出するのがパリ流であり、イダルゴ市長流でもある。

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服に合わせて、黒やブルーなどの無地はもちろん、赤と黒の太いストライプ、ペーズリー、大判のピンクやオレンジなど、一体彼女のクロゼットには何本くらいのスカーフがストックされているのか、覗きに行きたいくらほどバリエーションがある。

巻き方も、両肩に垂らしたり、防寒用に巻き付けたりと、動きやボリューム感を工夫していて、同じものを巻き方で雰囲気を変えている。

シンプルなデザインや、ベーシックな定番アイテムをスカーフによって多彩な表情をつけ、装いの雰囲気を変化させる。そんな合理的で賢いファッションの楽しみ方はパリシックの基本である。必要とあらばラグジュアリーブランドも着こなし、場にふさわしい華やぎももたらす。


ファッションの都パリのアンヌ・イダルゴ市長のファッションの選択は、無駄のない実用的なアイテムをアクセサリーで無造作にコーディネートすることだ。いってみれば街の素敵なマダムとあまり変わらない。目立つでもなく、派手なわけでもない。

だが、一見無造作に見える装いこそ、ファッションのキャリアがあってこそ築き上げられる技術と洗練が詰まっている。革新的な政治手腕とともに、定番とスカーフでの絶妙な演出による無限の広がりを感じさせるイダルゴ市長のファッションはサステナブルそのものであり、パリのカルチャーを漂わせる。

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この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
PHOTO :
Getty Images
WRITING :
藤岡篤子
EDIT :
石原あや乃