2018年3月29日にオープンした「東京ミッドタウン日比谷」3階に、この施設の中でもとりわけ独創的なエリアがある。そこは「HIBIYA CENTRAL MARKET(ヒビヤ セントラル マーケット)」と名付けられている。首都圏を中心に書店を展開する「有隣堂」と、「1LDK」や「Graphpaper」といったファッション&ライフスタイルのショップを手がけてきたクリエイティブディレクター南貴之氏が協業した、いわば街角のような複合型店舗という。

大人に刺さる? 昭和なテイストへのこだわり

エントランス脇にある「ヒビヤ セントラル マーケット」のサイン。各ショップが独立した形態であることがわかる。
エントランス脇にある「ヒビヤ セントラル マーケット」のサイン。各ショップが独立した形態であることがわかる。
エントランス横には、植物のタネを販売するのに使った古い什器を使って、オープン記念のティッシュが置かれていた。
エントランス横には、植物のタネを販売するのに使った古い什器を使って、オープン記念のティッシュが置かれていた。

 ふたつあるエントランスの一方から中に入ると、路地風な通路の両側に店舗がある。まず入ってすぐ左側には「CONVEX」というアイウェアショップ。札幌でヴィンテージのアイウェアショップ「Fre’quence.」を展開している柳原一樹氏と南氏が出会ったことがきっかけで誕生したという。扱われているアイウェアの中心は、1940〜’50年代のフランス製のヴィンテージフレーム。かつてアイウェアの産地として栄えていたフランス・ジュラ地方産のデッドストックフレームは、高い技術を感じさせながら、独特なシルエットや雰囲気を備えている。その時代を超えた存在感は大人の男性の着用にも十分有効といえるだろう。

銀行のカウンターをイメージしたという「CONVEX」の店内。
銀行のカウンターをイメージしたという「CONVEX」の店内。
店内にはヴィンテージのフレンチフレームがディスプレイされていた。独特なシェイプの玉型ながら、シックな印象。
店内にはヴィンテージのフレンチフレームがディスプレイされていた。独特なシェイプの玉型ながら、シックな印象。

 この「CONVEX」の隣は、南氏が手がけるショップ「Graphpaper」の日比谷店。ギャラリーを思わせる空間に、一見シンプルでありながらどこかアーティスティックなアプローチを感じさせるウェアやシューズ、バッグなどが整然と並んでいた。商品構成などのアドバイザーにはスタイリストとして長年活躍している二村毅氏が参加している。

「Garphpaper」の店内。周囲とうって変わってミニマルな雰囲気。確かにギャラリーを思わせる。
「Garphpaper」の店内。周囲とうって変わってミニマルな雰囲気。確かにギャラリーを思わせる。

 さらに奥に進むと、おなじみの三色ストライプの電飾が見える。傍のドアには「理容 ヒビヤ」の文字が。そこは昭和の雰囲気色濃い理髪店だった。待合室の設え、大型の椅子など、往時の理髪店の様子がかなり忠実に再現されている。近年男臭いアメリカンバーバーがアメリカや英国、ヨーロッパなどで流行しているが、その潮流に対するカウンターといったところか。南氏とともにこの理容室を実現させたのは、埼玉・川越「理容室FUJII」の三代目店主・藤井実氏。プレオープン当日も来場者に熱弁をふるっていた。大人の男性ほど和める空間といえるが、月に1度、肌のコンディションに配慮した女性向けの顔そりを、「Hair&Esthe Salon TRIM」 オーナーでもある岩間恵美さんが手がけるという。

「理容 ヒビヤ」のドア周辺。昭和にタイムスリップしたかのような雰囲気だ。
「理容 ヒビヤ」のドア周辺。昭和にタイムスリップしたかのような雰囲気だ。
「理容 ヒビヤ」の店内。古き良き理容店の雰囲気。白いユニフォームの男性は店主の藤井実さん。蛍光灯調の照明もまた昭和な印象。
「理容 ヒビヤ」の店内。古き良き理容店の雰囲気。白いユニフォームの男性は店主の藤井実さん。蛍光灯調の照明もまた昭和な印象。
店内にはこんなコーム(櫛)もディスプレイされていた。昭和なオヤジ必携?
店内にはこんなコーム(櫛)もディスプレイされていた。昭和なオヤジ必携?

 この「理容ヒビヤ」辺りから、店内はがぜん昭和の香りが強くなる。店舗の最奥部に広がるのが、「一角」と名付けられた食堂兼居酒屋。オープンキッチンにカウンター&ロースツール、小上がり、天井からは半円ガラスシェードのペンダント照明がいくつもぶら下がっている。並んだ手書きの短冊お品書き、そしてBGMには昭和歌謡。一見立石や赤羽、野毛あたりの飲み屋を連想させるが、手がけているのはビストロ「MAISON CINQUANTECINQ」等で知られる丸山智博氏。フレンチのエッセンスが付加された酒肴は、日比谷らしい塩梅ということだろうか。昼にはテイクアウトも充実させるという。

「一角」の店内。カウンターや小上がり席、テーブル席などがある。また店内にはジンやワインなどを提供するポップアップのコーナーなどもあって、さまざまなスタイルで楽しめるようになっている。
「一角」の店内。カウンターや小上がり席、テーブル席などがある。また店内にはジンやワインなどを提供するポップアップのコーナーなどもあって、さまざまなスタイルで楽しめるようになっている。
「一角」の料理の一例、居酒屋の王道メニュー「アジフライ」。カジュアルな居酒屋料理の中に、フレンチのエッセンスが巧みに配剤されている。
「一角」の料理の一例、居酒屋の王道メニュー「アジフライ」。カジュアルな居酒屋料理の中に、フレンチのエッセンスが巧みに配剤されている。
プレオープン当日の鏡開きの様子。向かって右が松信健太郎有隣堂専務取締役、左がクリエイティブディレクターの南貴之氏。
プレオープン当日の鏡開きの様子。向かって右が松信健太郎有隣堂専務取締役、左がクリエイティブディレクターの南貴之氏。

 その「一角」に隣接して、ガラスショーケースと上部の店舗サインがこれまた昭和を感じさせるコーナーが展開されている。ここでは「AND COFFEEE ROASTERS」のコーヒーと有隣堂の雑誌、そして「Fresh Service」の文房具や日用品が複合して展開されている。もうひとつの入り口に面していて、ワンストップの売店としても機能するようになっている。内装を手がけたSMALLCLONEの佐々木一也氏によれば、それは「幼少期からの記憶にある、バスターミナルの売店がデザインイメージ」とのこと。まさに日本的なスモールショップの設えだ。

バスターミナルにあるようなキオスクをイメージしたショップ。上部の照明がまさにその雰囲気。
バスターミナルにあるようなキオスクをイメージしたショップ。上部の照明がまさにその雰囲気。

 ここまで歩いてきた通路は、「ライブラリー」というスペースを囲むように配されている。通路とライブラリースペースを隔てるのは、海外の博物館や図書館をイメージしたというがっしりとした本棚。アートブックや建築関連の書籍などが充実する本棚の内側には、世界中の洋服や雑貨、ヨーロッパで集めたというアノニマスなヴィンテージが並んでいる。置かれたヴィンテージの家具は販売もされている。知性と感性が交錯するようなカオティックな「ライブラリー」の雰囲気は、「HIBIYA CENTRAL MARKET」のスタンスを象徴しているかのようだ。

しっかりとした本棚が印象的な「ライブラリー」。さまざまなジャンルの書籍が混在しているところも特徴。
しっかりとした本棚が印象的な「ライブラリー」。さまざまなジャンルの書籍が混在しているところも特徴。

 有隣堂と南氏、さらに南氏と各ショップのさまざまな担い手たちのコラボレーションによって形成されたこの「HIBIYA CENTRAL MARKET」。一見バラエティ感があるようでいて、それらの佇まいからは、かつてここにあった三信ビル、そしてその三信ビルが象徴する昭和日本の風情が強く感じられたのが印象深かった。

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