本原稿を書いている6月30日は夏越の大祓。この日は、私たちが知らず知らずに犯してしまった罪や触れた穢れを祓い清める日として知られています。私も近所の根津神社(東京・文京区)に詣で、茅の輪をくぐりながら、今年上半期で犯してしまった罪を清めてもらいました。私の罪と言えばまず、食べすぎ、飲みすぎ、欲しがりすぎ…貪欲はキリスト教でも7つの大罪のひとつとして厳しく戒められていますが、こればかりは性なのかなぁ、なかなか改められません。
さて、少なくとも今年前半の罪や穢れはクレンズした私。すっきりした気分でこの6か月を振り返ってみて…いちばん感動した食事は何かなぁと振り返ってみました(全然反省しとらん)。仕事柄、有名シェフのお料理をいただく機会があり、自分では支払えないような高価なワインを飲むことも多い私。身の丈に合っていないとお叱りを受けるのも承知の上ではありますが、最近ではそれも含めて私なのだとようやく自己を受容できたような気もしています。すなわち、身の丈を超えて欲深い存在、それが私。I am what I am.
…ということで今回は私の上半期、断トツでベストと言える最高の食体験についてご紹介しましょう。それは「ザ・リッツ・カールトン京都」の料理長、井上勝人さんによる「シェフズテーブルby Katsuhito Inoue」でした。
今回はいつも開催されている「ザ・リッツ・カールトン京都」を飛び出し、京都大原で800年の歴史を誇る名刹をディナー会場にするという特別な試みでして、1回に6名で、4回。つまり日本で24名だけが味わえた特別な体験でしたが、安心してください。今後も開催の予定があるそうですので、味わえるチャンスはまだあります。
「シェフズテーブルby Katsuhito Inoue」
さて、通常の「シェフズテーブルby Katsuhito Inoue」は、オープンキッチンを備えたホテル内の個室で週に3日ほど、日本の七十二候をテーマとしながら、新鮮な地元の食材を至高のイタリア料理へと昇華させていますが、今回の舞台は京都大原。京都の市街からクルマで30分ほどでしょうか。比叡山のふもとにあり、薪や野菜を頭の上に乗せて行商していた大原女(おはらめ)で知られているように、田畑もまだたくさん残っていて鄙びた風景が楽しめるエリアです。
「京都~大原、三千院~♪」と歌ったのはデュークエイセスですが、その三千院への参道の突き当りにある勝林院(大原の中心的道場だったお寺)の僧坊として800年前から使われていたのが「宝泉院」。今回、ご住職のはからいにより特別にディナー会場としてお借りできたのだそうです。
見どころの多い「宝泉院」のなかでも白眉はこの額縁庭園と呼ばれるお庭。広く開いた窓枠を額縁のようにして、中心には700年の樹齢をもつ五葉の松が常緑の葉を茂らせています。高浜虚子が「大原や 無住の寺の 五葉の松」と詠んだことでも知られていますが、その同じ風景を眼にしながら食事ができるなんて…まさに唯一無二の贅沢なひと時です。
素晴らしかったのはロケーションだけではなく、その演出も。大原に到着したゲストはまず枯山水の石庭「宝楽園」でウエルカムドリンクとアミューズをいただいたのですが、大原の花畑を表現したような焦がし野菜のタルトのかわいらしさに一同嘆息。中には大原産猪肉のリエットと丹波産白あずきの自家製みそが仕込まれていて、その複雑な美味しさに再度嘆息。
次いで「宝泉院」の竹林をイメージしたという一品は、たけのことじゅんさいのパンナコッタ。この日は七十二候でたけのこが生えてくる時期とされる「竹笋生(たけのこしょうず)」の日だったそうで、みずみずしい初夏の味わいに心身を清めてもらったよう。また、フリットにされた琵琶湖の稚鮎はクロモジでいぶされて香ばしく、大原ゆかりのしば漬けの甘酢ソースが添えられていました。日本の豊かな自然を目にしながら、この季節にしか口にできない旬の食材を、この地ならではの料理法で味わう…これこそが究極のラグジュアリーですよね。
立食でのアミューズを終えたら、五葉の松の前に設えられたテーブルへ。大原の春野菜を30種類以上使った「宝泉院サラダ」、淡路島由良産のウニと京都美山のくみ上げ湯葉を乗せたスパゲティ、大ぶりな淡路島産アワビが贅沢に使われた大原産コシヒカリのリゾット、松坂牛のグリル…と続きました。ジャージーミルクのデザートに至るまで、そのどのお皿にもシェフの食材への愛情と、京都大原へのリスペクトが感じられる、すばらしいディナーでした。
井上シェフは今回のディナーについて「私自身、料理を創作する上で『素材の背景を知る』と『温故知新』というふたつの言葉を大切にしてきました。素材だけを知るのではなく、つくり手の想いや土地、そして文化的な背景を知ること。そして古から使われている技法や技術を知り、現代の手法と併せ考えることで、いままでに新たな着想を表現できると考えています。そんな自分にとって、ここ大原の宝泉院で料理をするということは、自分を最大限表現できる場のひとつであると言えるでしょう」と語ります。
お茶の大切な精神のひとつに“一期一会”という言葉がありますが、まさに、初夏の一夜、宝泉院まで出かけた6名のゲストだけがシェフやサービスの方々と出会い、その背景や歴史を知ったうえで料理と対峙するという唯一無二の経験でした。この先、多くの美味しいお料理に出会い、そのたびに心動かされるでしょうけれど、この日のこの感動はまさに一期一会。この豊かな経験を糧に、今年後半も美味しいものたくさんいただけるよう欲張りに(でも感謝を忘れることなく謙虚に)過ごしていきたいと思います。
【詳細情報】
「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」
TEL:075-746-5522
営業時間/18:00 一斉スタート
席数/6席
定休日/日・月・火曜
コース料金/¥35,000(税・サ込み)
住所:京都市中京区鴨川二条大橋畔 ザ・リッツ・カールトン京都1F サレッタ プリバータ
「宝泉院」
TEL:075-744-2409
拝観時間/9:00~17:00(16:30最終受付)
拝観料/大人¥900、中・高校生¥800、小学生¥700(抹茶と茶菓子がセット)
住所:京都市左京区大原勝林院町187
さて、この日も美味で心身を満たした私ですが、そのままベッドへ直行…というわけにはいきません。最近、食べた分はそのまま(いえそれ以上に)身体に蓄積されてしまうので、どうにかしないと…。もう痩せたいとまでは望まないけれど、せめてこのままをキープしたい、これ以上は太りたくないと思い、時間のある日はスロージョギングしています。
ということで、この日もザ・リッツ・カールトン京都のジムへ。テクノジムの最新機器がそろったフィットネスセンターでのろのろと30分ほどジョグしました。さらにその後にはサウナ→スパでのトリートメントを受けてすっきり! 女性用スパのサウナというと、スチームサウナが多いのですが、こちらはきちんとドライサウナだったのも好印象でした。
冒頭で身の丈を超えて欲深いのが私だと書きましたが、その身の丈をキープするのにもまたお金をかけて運動したりトリートメントを受けたりしなくてはいけないなんて…貪欲のスパイラルに拍車がかかる2024年の下半期スタートです。
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- 秋山 都さん 文筆家・エディター
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