「隠岐に行ってみませんか?」というお誘いを受けて、「隠岐? 行ったことない。行ってみたい!」と二つ返事にOKしました。でも、ふと思ったんですよね。
「そういえば、隠岐ってどこだろう?」と。
長崎県かと思いましたが、それは「壱岐」。あ、五つ子ちゃんが生まれたところだったっけ?とも思いましたが、それは「徳之島」でした。
ようやく、後醍醐天皇が配流されたところだっけ?とウン十年前の日本史授業を思い出し、なんとなくあの辺?と日本地図が思い描けた次第です。
そもそもなぜ今隠岐に? というと、このたび隠岐が、「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」に認定されてから10年経つという記念すべきタイミングだったから。恥ずかしながら(隠岐の場所を知らないだけで充分恥ずべきですが)、ジオパークという言葉についても無知だった私。念のためご説明しておきますと、ジオパークとは “地球科学的に見て貴重な地質・地形をもち、それを活かした教育、保全、または持続可能な開発を行っているひとまとまりの地域”とのこと。現在、日本ジオパーク認定されているところは北から、アポイ岳(北海道)、下北(青森県)、佐渡(新潟県)、南紀熊野(和歌山県)、島原半島(長崎県)などなど46地域ありますが、そのうちユネスコ世界ジオパークに認定されているのは10か所のみ。これまた恥ずかしながら、未訪の地ばかりでした。日頃、美食・美酒に気をとられてばかりで、足元をまったく見てないんだな、私。
というわけで、日本海の離島にあるため、貴重な自然や文化が残っている隠岐へ。今回は「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」を巡るという命題があるため、ダイナミックな大自然にフォーカスしています。でも、当然美食やステイ先情報もご紹介しておりますので、ご用とお急ぎの方はググっとお先にスクロールしていただくとして。
「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」を巡り、地球を感じる
東京から隠岐までは伊丹空港を経由して空路で飛んできまして、さあ、いきなりのハイライト。こちら「摩天崖」は一番高いところで海から257メートル(ビル70階相当)もあるという断崖絶壁です。このダイナミックな風景は、この島が約1万年前の大規模な火山活動により生まれたのちに、長年に渡って荒波に浸食され、今のような形になった……という長い月日を思い起こさせます。
「赤壁」や「摩天崖」にはなだらかな傾斜地を歩きながら向かったのですが、船に乗って見にいく奇岩もありました。こちら「ローソク島」は、波に削られた岩がロウソクのようなフォルムのユニークな島、というより岩。先端の芯に見える部分にちょうど夕日があたるとまさにロウソクが灯ったように見えてロマンチック……という話でしたが、この日は雲が多くてちょい残念な結果に。それでもこの「ローソク島」に向かう往復50分ほどの船旅は波に揺られまくり、最高にスリリングでした。私たちは始終キャーキャーと笑っていましたが、船に弱い方は注意が必要かも。
「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」で文化を感じる
隠岐で楽しめるのは雄大な自然ばかりではありません。なんとこの島々に大小合わせて150以上の神社があり、その中には千年以上の歴史をもつものが少なくとも16社。出雲大社と同級の明神大社が4社あります。神社の名前についても、全国の有名な神社と同名のものが多く、これはつまり各地の有力者が隠岐へ来て、神社を創建したと想像できるのだとか。もともと都から見て方位が良かったそうで、古くは後鳥羽上皇、後醍醐天皇、小野篁など皇族、貴族、神官が配流されたことでも知られているし、島全体がパワースポットのようでした。相撲や牛突き(隠岐流の闘牛)など当時の都の文化も今に伝えられています。
「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」で食べる・飲む
さて、そろそろお腹がすいてきました。隠岐は美食の観点からも魅力がたくさん。日本海の恵であるカニ、サザエなどはもちろん、海士町の牡蠣やしまめ(イカ)はブランドにもなっているほど。隠岐で生まれ育ち、とくに肉質が良いものだけが名乗れる「隠岐牛」という和牛でも有名です。お供はもちろん地酒の「隠岐の誉」。牡蠣と日本酒、サイコーでした。
ほかには知夫里島(知夫村)で古民家を改装したフレンチ「Chez SAWA(シェサワ)」も素晴らしかった。オーナー兼マダムの岡田紗和さんがフランスで修業したシェフとタッグを組んで生み出すコースは見た目にも美しく繊細な味わい。自家農園で栽培した野菜や朝釣りの魚介……わざわざここを目当てに出かける価値のあるレストランだと感じました。素朴なところでは別府港(西ノ島町)から車で10分ほど走った浦郷の港で買った海鮮丼も。お刺身がたっぷり乗って 1,800円に大満足です。
「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」で泊る・買う
今回の宿泊は島後の羽衣荘(前述)と、海士町の「Entô(エントウ)」の2泊でした。「Entô(エントウ)」は21年にリニューアルオープンした話題の島ホテル。泊まれるジオパーク拠点施設とも呼ばれており、目の前に広がる大自然を堪能しながら過ごす宿泊部門と、ユネスコの事業でもあるジオパークである隠岐諸島の自然や文化を知り、滞在を豊かにする展示部門が融合した複合型施設です。
3日間に渡って隠岐を旅しながら、私はちょっと不思議な感覚にとらわれていました。ここにあるのは数万年前からの地球のダイナミックな動きで生まれたランドスケープと、平安時代の趣を今に残す文化遺産、牛や馬がのんびり歩く大自然、豊かな海の恵み……そして、なんと言うのかな。なんか離島っぽくないんです。どこか洗練された雰囲気と、人々の隠岐への矜持を感じていました。この感覚はどこから来るのかな?とずっと考えていたのですが、答えはこの一枚の地図にありました。
これは冒頭でご紹介した自筆の隠岐の位置を示すイラストですが、天地を逆にしています。つまり中国大陸から見たとき、隠岐は一番最初に立ち寄る日本のゲートのような役割を果たしていたのだそうです。私は東京に生まれ育ったせいか、つい東京を日本の中心のように考えてしまいますが、この広い世界を、いや地球を、視点を変えて眺めてみれば真逆のことが見えてくるともあるのだな、と知りました。隠岐、おもしろいです。
問い合わせ先
関連記事
- 「センタラグランドホテル大阪」で目覚めた大阪ステイの心地よさ
- 旅と美食の達人・秋山 都さんが推薦!廃校となった小学校が生まれ変わった美食宿「Auberge “eaufeu”」
- 「ザ・リッツ・カールトン日光」へ吉方位を取りに。そこには素敵な出合いが待っていた!
- TEXT :
- 秋山 都さん 文筆家・エディター
Instagram へのリンク
- PHOTO :
- 秋山 都
- WRITING :
- 秋山 都