身長156cmのインテリアエディターが、おすすめのアイテムを実際に体験しながらレポートする本連載。今回ご紹介するのは、1928年に広島で創業した木工家具メーカー、マルニ木工の『エドワードチェア』です。

背板の表と裏で異なるボタニカル柄の張り地や、鋲や猫脚といったクラシカルなディテール、そしてよく見ると木材のパーツには寄せ木細工のような表情が浮かんでおり、ひとつ置くだけでもインテリアにグッと華やかさが生まれます。

『エドワードチェア』をはじめとするマルニ木工の「トラディション」シリーズは、もともと高度成長期に人気を誇った同社の洋風家具をもとに、カスタムへの対応力や技術力をもって現代にあった形に生まれ変わらせたもの。その魅力をたっぷりご紹介します。

国内の老舗家具メ―カーが培ってきた、“お誂え”の文化を宿す逸品

来春からの新生活に向けてインテリアの買い替えを検討している方も多いのではないでしょうか? 暮らしに最低限必要なアイテムとして、まずは食事をとるダイニングセット、ベッドなどの寝具、プライバシーを守る窓周りは揃えたいですよね。

そしてソファの納品を待つ間にお気に入りのラウンジチェアでもあれば、豊かな生活を送ることができます。ただ昨今の世界情勢の影響から、海外一流ブランドの家具の納期は半年以上かかるのが普通になりつつあります。そんななか、まだ納期的にもアイテム選びに迷う余地があり、値ごろ感もある“良い家具”は貴重な存在です。

そんな選択肢として、国産老舗家具メーカーのマルニ木工が再び取り組み始めた「トラディション」プロジェクトから『エドワードチェア』をピックアップ。世界に一つだけの椅子を誂える喜びを叶えてくれるアイテムでもあります。

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【ブランド】トラディション 【商品名】エドワードチェア 【写真仕様の価格】各¥416,900 【サイズ】幅470×奥行き530×高さ950座面高460(mm) 【材質】木部:オーク材(ナチュラルクリア塗装)

どこかヴィンテージライクな懐かしさを感じさせる『エドワードチェア』は、高度成長期に大ヒットしたマルニ木工の国産洋風家具のひとつ。1974年より半世紀にわたり製造販売されており、私の親世代がこぞって買い求めた王道のクラシックスタイルになります。

当時は応接室の家具として焦茶色のツヤツヤした仕上げのものが主流でしたが、「トラディション」シリーズとして仕様や仕上げの選択肢を広げただけで、こんなにも新鮮に生まれ変わりました。

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白木やグリーン染色のフレームに色とりどりの張り地が並ぶと、まるで「不思議の国のアリス」のお茶会のよう。

背板の表裏で、マスタードイエローとピンクに赤のドットを散りばめた生地に張り分けるなど、自由に細かく組み合わせたものを誂えてもらえるのが最大の魅力。ワクワクしますよね! お店のスタッフの方が対応に慣れているからこそ叶えられるもの。“お誂え”に長けた老舗家具メーカーならではの底力を感じます。

冒険した選択でも品よくまとまる安心感とエレガントなかけ心地

誂える喜びとは裏腹に、いざオーダーするとなると選択肢が増えるほど何からどのように選べばいいのかわからないということもあるでしょう。

ファッションならば普段は手に取らないような華やかな主役級のアイテムでも、その場で顔に合わせたりして吟味できますが、実際に試すことができない家具選びに関しては、「失敗したくないし替えるのも大変だから、無難なほうを選びがち」といった声も伺います。

ですが、心配はご無用。形がクラシカルなので、ギャップの効果で収まるべきバランスに最終的にまとまります。

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座面のパイピングも柄合わせされているので、主張の強い柄でも上品な印象。

普段のダイニングセットとして使用するには若干座面が高いように感じましたが、座面にバネ入りのクッションが入っている構造の効果でかけ心地が柔らかく、高さと反発力で立ち上がりが楽というメリットも。オンラインミーティングの多い方や、自宅でワークショップや教室を行われている方のサロン使いにちょうどいい使用感です。

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座面のバネの効果で自然と姿勢を正して座れる感覚。
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重量感があるものの、設置面が小さいため椅子を引く際はノーストレスに動かせます。

マルニ木工が取り組む「トラディション」プロジェクトが提案する豊さ

もともと1928年の創業時は難しいとされていた曲木技術ではじまったマルニ木工。工芸の工業化を目指し、時代に合わせて新しい技術を積極的に取り入れてきた歴史があります。

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彫刻を施す工場の機械の様子が映し出されたモニターと無垢材の端材。

1970年代には、増加する洋風家具の需要に応えて値ごろ感のある価格にするために彫刻やろくろ挽きする機械を導入。そして今回は高まる環境への配慮から、端材を接ぎ合わせて再利用するための「縦接ぎマシーン」を新たに導入しました。

「フィンガージョイント」と呼ばれる熟練した職人でも非常に手間と時間がかかる加工を機械によって自動で行うことで、製造過程上どうしても出る質の良い木材の端材をより積極的に有効活用できるようになったのです。

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左/端材を接ぎ合わせて家具の部材に使える大きさになった木材に、機械で洋風家具に必要な装飾を施す。右/フィンガージョイントされた木材の美しい表情。

無垢材は生きているため反りなどの関係から同種の材を接いで加工するのですが、染色やクリア(塗装)等の透ける塗装を施すと、継ぎ目が“景色”となって現れ、一つとして同じものがない家具ができます。それこそ、まさに贅沢な現代の“お誂え”ですよね。


今回は、マルニ木工の新たな取り組みにより、新たな魅力を携えて生まれ変わった『エドワードチェア』をご紹介しました。唯一無二の自分だけの椅子を誂える喜びを、新生活で味わってみてはいかがでしょうか? ぜひショールームで実物をご覧になって、思いを巡らせてみてください。

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM