初めて“怖い”と思った孤独と共に手にした充実

光と影、そのすべてをひとりで引き受ける重圧。中島健人さんの中で、何かが静かに変わり始めたのは昨年、生放送の音楽番組で披露した3分のパフォーマンス。グループでもユニットでもなく、自分の名前だけで挑んだ初めての経験だった。
「真に“ひとり”を感じた瞬間でした。誰も隣にいない。トーク席でも、舞台袖でも、ステージ上でも。グループ戦国時代にあえて、この人生を歩むんだと自覚したというか。17歳でデビューしてから一瞬たりとも手を抜いたことはなかったけど、それでも“あれ、怖いかも”と思ったんです」
その怖れは、次なる問いを生んだ。
「これを乗り越えたい。そのために今、走っているんじゃないの? そう言い聞かせて。アルバムの制作からプロモーション、有明アリーナでのライブ、フェスへの参加……現場を重ねるうちに、気付きましたね。『自分はこれが楽しいし、性に合ってる』と。最終的に人間は皆ひとりで、永遠はきっとない。だからこそ、ひとりで立つ脚力をちゃんと身につけないといけない。自由と孤独を同時に感じたと共に、充実を手にした一年でした」
決意の先に生まれた、5月21日リリースのソロ1stシングル『MONTAGE』。TVアニメ『謎解きはディナーのあとで』オープニング・テーマとして、世界的に活躍する作曲家・澤野弘之氏とタッグを組み、自らも作詞を担いながら、疾走感とミステリアスな世界観を共鳴させた。
「制作からタイアップの責任を負うというのは、アイドルとしても新境地。大変さはあれど、遠慮なく全力で、長く愛される作品づくりに向き合えています」
現場の誰も置いていかない。全員が“演じ手”になることで、多くの人に届くと信じているから
「ソロ活動を始めた当初は、ひとりで進んできたつもりだったけれど、現場の温度感やスタッフの気配を一身に受け取るなかで、自分がステージに立てているのは支えてくれるこの人たちがいたからなんだと、再実感できました。今は、自然とチームの顔が浮かぶし、その想いも背負う気持ちで臨んでいます」
真摯に表現を追求する中島さんの現場に宿るのは、心地いい熱と信頼だ。
「大事にしているのは、誰も置いていかないこと。MV撮影なら、まずはひとりひとりに作品の趣旨を伝えます。誰かにとって気になる点があれば、話を聞いて尊重する。ダンサーはもちろんカメラさんも照明さんも、全員が“演じ手”になってくれることで、作品は一段と強くなるし、多くの人に届くと信じているので。長丁場のレコーディングでは、ピザやチキンでパーティをすることも。油分で僕の喉も、みんなの心も潤います(笑)」
“人生を変えたい”と思っている人がいたら、その人の味方でいたい
いつか単独でドーム、そしてスタジアムのステージへ。悔しさも進化の糧に、夢を純粋に追いかける日々を生き直している。
「キタニタツヤくんとのユニットGEMNで出した『ファタール』は、アニメ『【推しの子】』の主題歌として、世界中から反響をいただきました。次は、その自分を超えたい。ファンの皆さんに恩返しするためにも、目の前のことをいかに楽しんで結果を積み上げていくか。僕はエンターテインメントに救われた側でもある。だからもし、“人生を変えたい”と思っている人がいたら、その人の味方でいたい。それが、僕が走り続ける理由です」
※本記事はPrecious6月号の転載記事です。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- BY :
- 『Precious6月号』小学館、2025年
- PHOTO :
- 長山一樹(S-14)
- STYLIST :
- 渕上カン
- HAIR MAKE :
- 石津千恵
- EDIT :
- 福本絵里香(Precious)
- 取材・文 :
- 佐藤久美子