豊富な経験と専門知識をもった各カテゴリーのコンシェルジュたちが連携し、お客さんの求めるショッピングをパーソナライズする、日本橋三越本店ならではの強みを生かした「パーソナルショッピングサービス」。2018年10月にリモデルされたその最先端のサービスは、キャリア層を中心に予約が殺到しています。
実際に体験したITコンサルティング会社のCEOである幸田フミさんは、その“仕組み”に驚いたといいます。実は、時短で濃厚な情報をお客さんに提供する「最先端のデジタルシステム」が導入されていたのです!
今回はvol.1の体験取材の裏側で一体どのようなことが行われていたのか、前回お届けした取材の様子を振り返りながら、その仕組みをITのプロである幸田さんに読み解いていただきます。
日本橋三越本店が導入した、最先端の「コンシェルジュサービス」の仕組みをITのプロが解説
こんにちは、ITコンサルティング会社を経営している幸田フミです。
パーソナル・ショッピングを体験するために訪問した日本橋三越本店。初めてお会いした4人のコンシェルジュが、なぜこれほどまでスムーズに私の要望にぴったりの商品を提案してくださったのでしょうか。パーソナル・ショッピングを終えたあとに、裏側をのぞかせていただきました。
高度なパーソナル・ショッピングサービスを実現するために、コンシェルジュたちを裏側から支える仕組みを企画、運営されているのは、日本橋三越本店で顧客・マーケティング・再開発を担当していらっしゃる井上将大さんです。
私がパーソナル・ショッピングサービスを体験している間に、いったいコンシェルジュの間で何が行われていたのでしょうか。そのやりとりの詳細や、より濃厚で的確なサービスを提供できるようになったというデジタルシステムの詳細を、井上さんに教えていただきました。今回は、4つのポイントから解説していきます。
■1:時短を叶える「デジタルツール」導入による事前準備の効率化
パーソナル・ショッピング当日の3日前に私が電話でお話したのは、レディスコンシェルジュの志村繭子さんでした。FUMIKODA SALONの新年パーティーのスタイリングとお料理のケータリングについて相談したいこと、普段着用している洋服のサイズなどをお伝えし、パーティーの詳細はメールでお送りしました。
「お客様からいただいた情報は顧客情報として管理システムに入力するだけでなく、その場ですぐに関連するコンシェルジュたちに共有します。情報をもとに専門のコンシェルジュがお客様への提案内容を起案します」(井上さん)
まず、志村さんから各担当コンシェルジュに共有された情報がこちらです。
今回のグランドオープンを機に日本橋三越本店が導入した顧客情報管理システム上で、コンシェルジュ同士のやり取りが行われていました。
各コンシェルジュへとお客さんの要望を共有することで、それぞれから事前に提案が上がってきます。
このように顧客に紐付いた情報を元に各担当者がチャットでコミュニケーションをはかるのですが、事前の情報共有だけでなく、パーソナルショッピング当日は、裏側でリアルタイムにやりとりがされていたことがわかりました。
■2:ショッピング当日のスムーズな対応も「デジタルツール」がサポート
志村さんが私のために選んでくださったスタイリングや、私のパーソナルカラー診断結果は、ショッピング中の気づかない間に他のコンシェルジュたちにもきちんと共有されていました。
私のパーソナルカラーとスタイリングにぴったり合ったジュエリーが、ジュエリー&ウオッチコンシェルジュの立花典子さんの手によって私の元に運ばれてきたときには、あまりにもスムーズだったので驚きました。
■3:「担当制」という安心感&安定感あるサービスを提供
今回、担当してくださった各カテゴリーのコンシェルジュがリストアップされ、次に利用する際にも同じコンシェルジュが担当できるよう、すべての情報が蓄積されるようになっているといいます。もし他の方に変更になったとしても、情報が共有されているので、同じ説明を繰り返さなくても良いという点でも安心してお任せできるシステムですね。
■4:情報の幅を広げる「リコメンドシステム」を搭載
「今回、日本橋三越が導入した顧客管理システムは、担当コンシェルジュ同士のコミュニケーションをスムーズに行うことができるだけでなく、一人ひとりのお客様にとって有益な情報を個々に探し出し、提示する機能も備えています。そして、データが豊富になればなるほど、それぞれのお客様により的確な情報をお届けすることができます」と井上さん。
例えば、私のデータベースを元にAIがリコメンドするのは、「エンブロイダリー(刺しゅう)」、「ケイト・スペード ニューヨークのドレス」や、「クリスマスジュエリーバザール」などのイベント情報なのだとか。
このシステムでは、その時期にちょうどおすすめのファッションアイテムや、開催中のイベントが顧客データに沿って提案されます。
館内のすべての商品や催事などの情報をコンシェルジュがリアルタイムで把握しておくのは難しいでしょうし、顧客のライフスタイルや好みによっておすすめできるコンテンツは異なります。データベースから最適な情報を判断していつでもどこでも瞬時に取り出せる仕組みは、顧客満足度の向上に役立ちそうです。
「ひとり対ひとり」から「多数対ひとり」のサービスへ
ひとりの顧客をひとりの担当者が接客する従来型の「one to one」ではなく、ひとりの顧客に複数のコンシェルジュが対応する「everyone to one」のお買物を体験できるパーソナルショッピングサービス。
その肝になるのは顧客情報管理システムという「ツール」と、個々のお客さんのライフスタイルや好みに合わせて最適な提案をする「データベース」であることがわかりました。
「以前は担当だけが把握していたお客様情報を百貨店全体で共有し、ツールを使っていつでも活用できることにより、一人ひとりのお客様に確度の高いご提案をさせていただいています」(井上さん)
しかし、顧客情報といっても、その人の洋服のサイズや購入履歴など可視化しやすいものだけではなく、趣味や家族構成、ライフイベントなど、個人的に親しくならなければ得られない情報もデータベースに蓄積されます。それまで担当者以外は知り得なかった個人情報を、コンシェルジュ同士で共有することに対して、抵抗はなかったのでしょうか?
「個人情報の共有については、あらゆる角度から社内で何度も話し合いました。いわゆる"黒革の手帖"の中身を、百貨店全体で共有することのメリットとデメリットについてです。結果、これから百貨店がお客様との信頼関係をより深めていくためには、いつでもどこでも最適なご提案ができるように情報を管理して、効率的に活用していくことは欠かせないと判断しました。もちろんお客様の個人情報の漏洩を防止するために、コンシェルジュの端末やアカウントの管理は徹底しています」(井上さん)
生活のほぼすべての時間がインターネットと繋がっている今、私達の情報はあらゆる場所で取得されています。Amazonでショッピングをしていると、おすすめの商品がどんどん表示され、そのなかに自分の好みのアイテムが含まれていることはめずらしくありません。それは過去の買い物履歴や検索キーワードなどから、ユーザーの嗜好や欲求をAIが自動的に判断しているからです。そして情報が蓄積されるほど精度が高まり、よりスムーズなショッピングが可能になります。今回のリモデルで日本橋三越本店が取り入れたのは、まさにその仕組みにほかなりません。
では、先行しているオンラインサービスよりも百貨店が優っているのは、どのような点でしょうか?
「今回導入したデジタルの仕組みは、コンシェルジュたちを支えるツールではありますが、頼り切るつもりはありません。お客様にとって有益な情報を、人が伝えるというスタイルは変わらないと思います。たとえITが普及したとしても、伝え方やそのときどきのお客様の気持ちを察することは、いつの時代になっても大切だと思っています」(井上さん)
海外では書店やコンビニなど、無人の店舗がすでに実在したりしていますが、百貨店の強みはやはり「人」。心のこもったサービスを提供して、心から満足してもらうことは、人間同士だから実現できるのではないでしょうか。
今回体験させていただいたパーソナル・ショッピングでも、気に入ったアイテムにスムーズに巡り会えたことに満足すると同時に、私のことを深く理解し、より良い提案をしようと努めてくださったコンシェルジュの皆さんには心が動かされました。
社員約500名の体制でスタートした日本橋三越本店の新システムも、将来的には取組先のスタッフも加わり、最大5,000名規模で活用される予定だそうです。ITを駆使した百貨店ならではの「おもてなし」を通して、未来の顧客体験がどのように変化していくのかが楽しみです。
問い合わせ先
- 日本橋三越本店
- 営業時間/10:00~19:00
※本館・新館の地階から1階並びに免税カウンターは10:00~19:30 ※新館9F・10Fレストランは11:00~22:00 - TEL:03-3241-3311(大代表)
- 住所/東京都中央区日本橋室町1-4-1
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- TEXT :
- 幸田フミさん ITコンサルティング会社代表取締役
公式サイト:FUMIKODA
- PHOTO :
- 枝松則之(IMAGE)
- WRITING :
- 幸田フミ
- EDIT :
- 石原あや乃