美容師になりたかった。お店をやるなんて、想像もしてなかった
鵜林理恵さん、45歳。大阪府出身。高校中退後、美容専門学校を卒業。念願だった美容師として働きはじめた後、24歳から大学進学という紆余曲折を経て、サロン経営へ携わるように。
現在台湾在住13年目。日本の美容専門技術を、独特の美意識を持つ台湾へ持ち込み、現地での美容院運営や文化開拓、美容師の育成サポートを行う「日台美容」の架け橋として、コーディネーター役をつとめるデュアルライフを実践されています。
日本ではどんなことをしていたか、台湾との出合い、裏方に目覚めた理由や、現在のスタイルを選んだキッカケ、鵜林さんが今注目している「台湾パワースポット」3選もお伺いしてきました。
■Chapter1:選べる余地があるのなら、挑戦や冒険をとる
——今のスタイルへ転じる前、日本ではどんなことをされていましたか?
私が美容の道に目覚めたのは高校生のころ。当時、普通科の高校に通っていましたが、どうしても美容師になりたい! と思い始めたらもう、卒業するまで授業に通う意味を見いだせなくなってしまって。思い切って中退、美容専門学校に進路を切り替えたんです。無事に資格も取得し、念願の美容師として働き始めたのですが…。
23歳のころ、身体を壊してしまったんです。大好きな現場に立てなくなってしまった時期があって。ショックも大きかったですし、美容師という職業について、少し客観的に考えざるを得なくなりました。これからどうしよう…。今後のことを思い巡らすなかで、視野を拡げるために大学進学という選択もあるなと思い立って。それで大検を取得して、京都にある4年制大学の経営学部に入学しました。
同級生から5年遅れての花の大学生活は、友達付き合いやサークル活動よりも、自ら選んだ進路でしたから、勉強することが純粋に楽しかったですね。学生時代に学んだことは、確実に今に生きていると思います。
——大きな決断をする、前触れとなるような出来事や、架け橋になったことはありますか?
大学を卒業して、私は美容師としてのキャリアも活かせそうな、美容関連のコンサル会社へ入社しました。とある美容室のオーナーと業務のなかで知り合い、ご縁あってその企業へ転職することになって。そこでは店舗統括マネージャーというお役目をいただいて、1店舗しかなかったところを7店舗まで増やすという経験をしました。
店舗の数が増え、日々現場を回っていると、美容師やお客様と接する時間も増えてきます。そうすると不思議なもので、任された仕事にある程度区切りがついたこともあって、私もまた「自分でハサミを持ちたい」と思うようになってしまって…。二度とハサミが持てない身体になったというわけではなかったですから、現場を間近に感じる中で、初心を思い出したのかもしれません。
そのころ、私は30歳になろうとしていました。もちろん、年齢なりに結婚への憧れもありましたし、もし何か大きな挑戦をするのであれば、最後のチャンス。海外に対する好奇心や仕事に対しての疑問、そういうのを試すなら今しかないなって。それで、しばらく台湾へ渡ることを決めました。
■Chapter2:それを選ぶように、条件がそろって移住
——なぜ、台湾だったんでしょうか?移住を決めた理由は?
もともと海外旅行が好きで、連休が取れる度に出かけていました。ただ、美容師は長期休暇が取りにくく、例えば2泊3日で行けるところとなると、どうしても候補がアジア中心にはなってくるんです。台湾には移住する前に7回くらいは訪れていると思います。行くたびに街や道路がきれいに整備されていたり、新しいビルが建っていたり、海外からの出店があったり、発展していってるなぁ…という、そのスピード感に惹かれました。
大学で学んでいた経営学の授業でも中華圏のトピックスは印象的でしたし、中国語の重要性は感じていました。そのころ(2000年ごろ)から、身近な美容関連のメーカーが特に台湾へ力を入れていることも耳にしていて、日本で培われたものが古来から独特な文化を持つ中華圏に伝わったとき、美容文化がどうなっていくのか興味があって。
そして、台湾の中国語はやわらかくて聞き取りやすいんですよね。長期休暇が取れたときに、ニュージーランドで1か月生活したこともあるんですが、私は食事が合わず…アジア人はやっぱり米だと思いました(笑)。毎日の生活を思うと、台湾がいちばん食が合って居心地も良かったんです。
——日本にそのままずっといた自分を、想像することはありますか?
もちろん、ありますよ。何度もあります。だけど、あのまま日本に居たら…正直言ってしまうと怖いですね。何も持たず、ボーっと日々を過ごしている自分が居そうで。
■Chapter3:まさか自分のお店を出すなんて、思ってもみなかった
——実際に台湾での生活を始めてみて、いかがですか?
…こんなにも違うものか、と思うことだらけでした。私が台湾に来たのは、2006年4月。今と違って街もここまできれいではなかったし、インターネットだってギリギリつながっている状態の低速通信です。SNSや携帯もそこまで発達していないですし、現地でざっくばらんに話せる友達もいない。観光で数日過ごすなかで見えているのは、ある意味きれいなところだけ。
実際に住んでみると、想定していたイメージと全く違うことも多々でてきます。情報だけじゃなく社会から隔離されたような気になっちゃったんです。滅入りますよね。たった1か月で10キロ近くも痩せました(笑)。
観光客の行くようなお店は、高級なところですから、毎日の生活費を考えると頻繁に行けるものではありません。ワンルームの部屋にはキッチンもバスタブもなくて。外食するにしても、言葉がまだうまく通じなかったときは、毎日同じ物を食べてた時期もありました。こんなストイックな生活を望んでまで、わざわざ仕事を辞めてこっちに来たわけじゃないのに!って。それでもまぁ、人間の適応力って素晴らしいもので、住めば都になってしまうもんです。
——日本とは?台湾とは?移住や多拠点生活が、あなたにもたらしたものは何ですか?
中華圏で生活やビジネスを行うために必要な語学力。文化も人種も異なる国で、適応能力や寛容であることは自然と身についてきますね。外してはいけないポイントも、もちろんありますけれど、いい意味でのアバウトさも重要だなと思うようになりました。台湾の方から学ぶ優しさや、生活を楽しむという心のあり方にも癒されることが多いです。
実は…移住当初、語学を習得した以降のことは決めてなかったんです。「自分のお店をやろう!」なんて思ってもなかったことで。会社員生活を辞め、中国語の学生としてフラッと遊学しにきた気分のところもありました。
学生ビザがそろそろ切れるというタイミングで、台湾人の友人や支援してくださる方が「お店やればいいじゃん」って背中を押してくれて。そんなノリで始まったことが、今年で13年目になるっていうのは、やっぱり私に合ってるんだと思いますし、何かに導かれるように、ご縁やタイミングが運んできてくれたものなんだろうなぁって、思いますね。
■Chapter4:いまの自分にとってプレシャスなもの
——オフタイムはどんな過ごし方をされていますか? 情報のインプットはどんなところで?
愛犬の「星」と、大きな公園へ散歩に出かけたり、ドライブ、ヨガ、ゴルフ、旅行、美容など。オフタイムも家でじっとしていることは少ないですね。思い立ってサッと車を走らせたらすぐに自然と触れ合えるロケーションもたくさんあるので、気分の入れ換えに出かけます。
日々のインプットは、ネットや電子雑誌から日本の情報をチェックしています。友人の台湾人女性とお茶したり、街をうろうろしてみたり、人や場所から得る情報も多いですね。私と同様、日本から移住して起業している友人達との食事や情報交換会にも出かけます。どこにヒントやチャンスがあるかわからないですから!
こまめなリフレッシュで開運!「台湾で気軽に立ち寄れるパワースポット」3選
鵜林さんが最近ハマっているのは、思い立ったときに愛犬と出かけるドライブ! …ということで、写真映えもバッチリな絶景や、心が洗われるような気分になれるパワースポットなど、旅行で訪れる方にも足を運びやすい、おすすめのロケーションを3つ教えていただきました。
■1:都心からすぐそこのオアシス!│大安公園
台北の繁華街近く、ど真ん中にある大きな公園。日本で見ることの出来ない野鳥や、自然のリスもいっぱい。野鳥観察や植物観察をしたり、ランニング等の運動をしたり、読書したり…都会のど真ん中とは思えない大きな公園で、愛犬の散歩がてらこまめにリフレッシュしに来ています。(鵜林さん)
■2:銭湯に行くような気軽さがいい!│烏来温泉郷
台北から車で30ー40分で行ける近郊のドライブスポット。老街散策や、帰りには日帰り温泉で疲れを取って帰れる場所。台湾には日帰りで行ける天然温泉が多いので、気分転換にはピッタリ。比較的、ペットと一緒に施設内に入れるのも嬉しいです。(鵜林さん)
■3:五感で楽しむお茶屋さん!│邀月茶坊
台湾の色んな茶葉が楽しめるスポット。入り口で好きな茶葉と食事が選べます。「猫空」と呼ばれる独特な地形や、竹林や渓流に囲まれた自然の中を散歩しながら、色んな演出が施されている茶坊を楽しめます。大自然の音を聴きながら、気ままにぼーっとできる場所。夕陽や月の眺めも最高なんですよ。24時間営業なので、思い立ったときにすぐ行けるのもいい感じ。(鵜林さん)
台湾の美容業界で、鵜林さんを知らない人はいない!というほど、その影響力は抜群。今年11周年を迎えるという台北のお店がこちら。
■店舗情報│台北・RED CHESS HAIR SALON
店舗名/RED CHESS HAIR SALON
URL/http://www.redchess.com.tw/
住所/台北市大安區復興南路二段27號之1
日本と台湾の美容文化それぞれの特長をより引き出し、美容師の地位向上の架け橋にもなっていきたいという、鵜林さん。今後、日本と台湾の美容文化がどんな交流や発展をしていくのか、楽しみですね!
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 飯塚美穂