まずは本命。作品賞、楽曲賞はじめ多くの部門で14の候補を出した『ヘイディズタウン』(Hadestown)。

トニー賞の目玉か?神話世界の物語をオールド・ジャズ的楽曲に乗せて濃密に描く充実作『ヘイディズタウン』より
トニー賞の目玉か?神話世界の物語をオールド・ジャズ的楽曲に乗せて濃密に描く充実作『ヘイディズタウン』より

 候補にならなかったのは、範疇外のリヴァイヴァル作品賞を除けば主演男優賞だけ。役者は、紹介記事で挙げたパトリック・ペイジ、アンバー・グレイ、アンドレ・デ・シールズのヴェテラン助演陣の他、ユーリディス役のエヴァ・ノブルザダも主演女優賞候補に。やはり紹介記事で「若干弱い」と書いた脚本までが候補になって、思わず苦笑い。勢いは一番だ。

 神話を題材にしながら今のアメリカに対する鋭い批評性も感じさせ、音楽的にも豊かという充実作。とにかくアネイス・ミッチェルの楽曲が素晴らしい。早くもチケット入手困難状態という話も聞く。押さえるなら、この作品から。

 候補数12で対抗の立場にあるのが、テンプテーションズの伝記的作品『エイント・トゥー・プラウド』(Ain't Too Proud)。

『ジャージー・ボーイズ』に迫るか? テンプテーションズの伝記的ミュージカルより
『ジャージー・ボーイズ』に迫るか? テンプテーションズの伝記的ミュージカルより

 こちらは、いわゆるジュークボックス・ミュージカルなので楽曲賞が埒外だが、作品賞、編曲賞、脚本賞、演出賞、振付賞、装置・照明・衣装・音響の各デザイン賞と、ほぼ総なめ。役者も、大活躍のデイヴィッド・ラフィン役エフレイム・サイクスはじめ3人が候補になっている。

 ジュークボックス・ミュージカルでありながら作品賞を獲った『ジャージー・ボーイズ』に続くことができるかどうか。フォー・シーズンズの命運を綴った同作に似て、テンプテーションズを知らなくても楽しめる(そして泣ける)仕上がりなので、こちらも注目。

本命・対抗に劣らず上質な『トッツィー』や『ザ・プロム』

 上記2作に比べると感触がオーソドックスなだけに地味な印象も受けるが、非常によくできているのが、『トッツィー』(Tootsie)と『ザ・プロム』(The Prom)。どちらも、作品賞、楽曲賞、脚本賞、演出賞を含む多くの部門で候補になった(前者11、後者7)。今日的なジェンダーの問題を採り上げている点も共通している。

大ヒット映画『トッツィー』のミュージカル版が予想を超えて面白い!より
大ヒット映画『トッツィー』のミュージカル版が予想を超えて面白い!より

『トッツィー』の観どころの第一は、やはり主演男優賞候補になったサンティノ・フォンタナの男性/女装の“行ったり来たり”演技だろう。助演男優賞候補のアンディ・グロトルーシェンとのかけ合いも楽しい。映画版のヒロインとはひと味違った現代性を感じさせるリリ・クーパー(助演女優賞候補)も魅力的だ。昨シーズンに続いての楽曲賞受賞なるか、というデイヴィッド・ヤズベクの音楽も聴き逃せないところ。

ぶっちゃけキャラの『ザ・シェール・ショウ』と、笑いをまぶした意欲作『ザ・プロム』が楽しい!より
ぶっちゃけキャラの『ザ・シェール・ショウ』と、笑いをまぶした意欲作『ザ・プロム』が楽しい!より

 大穴かも、と期待しているのが『ザ・プロム』。シリアスなテーマを軽妙かつ丁寧に描いているところを高く評価されての主要部門での複数ノミネーションだろう。若手の注目株ケイトリン・キヌナンと並んで、劇中でトニー賞2度受賞の大女優を演じるベス・リーヴェルが主演女優賞候補になり、トニー賞は獲っていないがドラマ・デスク賞は獲っているという設定のゲイの男優を演じるブルックス・アシュマンスカスが主演男優賞候補になる、という状況も虚実を超えたシャレになって面白い。お観逃しなく。

今シーズン最も気楽に盛り上がれる娯楽作に仕上がった『ビートルジュース』!より
今シーズン最も気楽に盛り上がれる娯楽作に仕上がった『ビートルジュース』!より

『ビートルジュース』(Beetlejuice)も候補数8と健闘。気軽に盛り上がれる娯楽作なので、賞レースと関係なくヒットすると思っていたが、楽曲(エディ・パーフェクト)、脚本(スコット・ブラウン&アンソニー・キング)の新鮮なスタッフの力が評価されているのは喜ばしい。ただ、役者の候補が主演男優アレックス・ブライトマン1人というのが、やや残念。もっとも、役者部門候補の枠に入るのは、いつも大変なのだが。

両極端のリヴァイヴァル2作品の勝負のゆくえは?

 今シーズンはリヴァイヴァル・ミュージカルが2作品のみ。『キス・ミー・ケイト』(Kiss Me, Kate)と『オクラホマ!』(Oklahoma!)で、共にリヴァイヴァル作品賞候補。文字通り一騎打ち状態だが、あまりにも切り口が違うので真っ向勝負にはならない。

『王様と私』来日の前にケリー・オハラの「じゃじゃ馬」ぶりをブロードウェイで堪能しよう!より
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 『キス・ミー・ケイト』はケリ・オハラのスター性を生かした、誰もが安心して楽しめる保証付きのリヴァイヴァル。一方の『オクラホマ!』は、これまでの同作品の価値観をひっくり返す驚愕の新解釈リヴァイヴァル。とりあえず候補数で、『キス・ミー・ケイト』の4に対し、『オクラホマ!』が8と一歩リードしているが、問題作ゆえの候補の多さだとも考えられる。ことに、編曲賞と演出賞と音響デザイン賞。最終的には、その辺りの『オクラホマ!』の新解釈・新演出を審査員が認めるかどうかにかかっているわけで、そこが楽しみではある。

ミュージカル史上1、2を争う問題作!裏返しにされた名作『オクラホマ!』!より
ミュージカル史上1、2を争う問題作!裏返しにされた名作『オクラホマ!』!より

 単純に観客の立場で言えば、テイストは違っても、どちらも観る価値のある舞台。話のタネにも、ぜひどうぞ。

 その他の候補数は、『ザ・シェール・ショウ』(The Cher Show)3、『キング・コング』(King Kong)3、『ビー・モア・チル』(Be More Chill)1。『プリティ・ウーマン』(Pretty Woman)は残念ながら引っかからなかったが、今シーズンの新登場ミュージカルは、好みはいろいろあったとしても質的なハズレはない。現地時間6月9日夜のトニー賞の結果を待ってから観劇作品を決める手もあるが、賞を獲りそうな予感のする作品は先物買いで早めにチケットを確保することをオススメします。

★候補作一覧はトニー賞公式サイトのノミネーションページ(https://www.tonyawards.com/nominees/)を
ご覧ください。
★各作品の公演情報はPlaybillのブロードウェイ作品一覧ページ(http://www.playbill.com/productions?
venue-type=broadway
)からどうぞ。

記事内で紹介したノミネーション作品はこちらからご確認を!

この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年。オンのミュージカルは99.9%網羅。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」