2019年4月の「サザビーズ香港」において注目を浴びたのが、88.22カラットのダイヤモンドでした。50カラット以上のオーバルダイヤモンドが登場するのは、オークション史上3つ目という希少なもの。3人のアジア人が競り合うなか、最終的に日本人コレクターが15億3,000万円で落札したのです。

そのダイヤモンドがどれだけの価値をもつのか、また当日の現場の様子、さらにサザビーズ香港の今後まで、サザビーズ・アジア会長のパティ・ウォン氏、またサザビーズ ジュエリー部門 クライアントサービスマネジャーである植村亜希子氏にお聞きしました。

奇跡のダイヤモンドが香港に出品されたのはなぜ?

15億3,000万円を記録した、世界最大級のダイヤモンド

Q.今回のダイヤモンドについて、どれほど希少で価値の高いものなのか、具体的に教えてください。

3人のアジア人が「サザビーズ香港」で競り合った、希少なダイヤモンド

A.(パティ・ウォン氏)
このダイヤモンドは、評価基準である4つのC(カラー、クラリティー、カラット、カット)すべて最高ランクを獲得しています。

カラーは完全に無色で、ホワイトダイヤモンドでは最高等級の「Dカラー」。クラリティーは「フローレス」、つまり10倍に拡大しても内部外部ともに内包物や傷が一切ありません。カット、ポリッシュ(研磨)、シンメトリー(対称性)、いずれも「エクセレント」で完璧です。

また、イギリスの王冠にも使われているオーバルカットダイアモンドと同じタイプ2A。ダイヤモンド全体の2%にも満たない希少価値の高いもので、不純物の窒素を含まない純粋な炭素だけでできています。要は、非常に透明度が高いのが特徴なのです。

Q.このような貴重なダイヤモンドが、世界の中でも「サザビーズ香港」に出品された経緯を教えてください。

A.(パティ・ウォン氏)
アジア地域のお客様の需要に「最高品質を求める」という特徴が見られます。他のオークション開催地に比べても、今回のダイヤモンドのようなクオリティーの高いものが特に求められる傾向にあるのです。

さらにこのダイアモンドは88.22カラット。中国ほかアジア諸国の文化では、8は「完璧、繁栄、永遠」の象徴でラッキナンバー。88のように8が二重になるのはたくさんの幸福をもたらすといわれ、そのため今回は香港での出品が決定されたのです。

Q.今まで「サザビーズ香港」にて取引された、最高品質のジュエリーにはどんなものがあるのでしょうか。

A.(パティ・ウォン氏)
高額取引を記録した、エポックメイキングなジュエリーを4つご紹介しましょう。

■1:オークションでの宝石の世界最高金額、77億円を記録

2017年4月「CTF ピンクスター」(59.60ct、ファンシービビッドピンク、インターナリーフローレス・ダイヤモンド) 落札価格 5億5,300万香港ドル(約77億円)

■2:南アフリカにて採掘された、世にも希少なブルーダイヤモンド

2016年4月「デビアス・ミレニアム・ジュエル4」(10.10ct、ファンシービビッドブルー、インターナリーフローレス・ブルー・ダイヤモンド) 落札価格 2億4,800万香港ドル(約34億円)

■3:カルティエ財団が買い戻した、翡翠のオークション世界記録

2014年4月「ザ・ハットン・メディヴァー二・ネックレス」(米富豪バーバラ・ハットンの翡翠のネックレス) 落札価格 2億1,400万香港ドル(約30億円)

■4:ホワイトダイヤモンドにおける、オークション世界記録

2013年10月(118.28ct、オーバルカット、Dカラー、フローレス、タイプ2Aダイヤモンド) 落札価格 2億3,800万香港ドル(約33億円)

アジア人3人が競り合い、予想価格を上回る金額で落札

サザビーズ ジュエリー オークション 香港、場内の様子

Q.落札者は下見会で今回の入札を決めたようですが、このダイヤモンドのどんなところに魅力を感じたのでしょうか。

A.(植村氏)
落札されたお客様がこのダイヤモンドを初めてご覧になったのは、2019年3月19日に東京で行われたサザビーズの下見会でのことでした。そこでは実際に出品されるジュエリー&時計の一部を見ることができます。実物を目の前にしたからこそ感じる、並外れた透明度と迫力ある大きさにインパクトを受けたとのこと。

また、50カラット以上のオーバルダイヤモンドが登場するのはオークション史上これが3つ目。その希少性もあり、入札を決めてくださったようです。

Q.どんな状況で競り合いが行われたのか、当日の会場の様子を教えてください。

A.(植村氏)
このダイヤモンドは、アジア人3人の入札者によって競り合いが行われました。現地会場に足を運んでパドルを挙げる通常の入札、電話で指示を入れる電話入札、WEB上から参加するオンライン入札などのパターンがありますが、今回は3名全員が電話入札でした。このように希少なダイヤモンドは、ご入札についても事前登録をお願いしております。

オークションがスタートすると、3人の代理人が順番に手を挙げていきます。高額商品のためオークショニアも慎重になり、ゆっくりと時間をかけて進めていきます。会場に漂うのは、どこか緊迫したムード。その場にいるだれもが行く末を見守っています。

入札額は、約200万香港ドル(約2,800万円)ずつ上がっていきました。エスティメイト(落札予想価格)は12〜14億円でしたが、7分もの時間をかけて15億3,000万円(手数料込み)まで上がり、最後は日本人のコレクターによって落札されたのです。

「サザビース香港」のマーケットはアジア全般へ

Q.ここからは「サザビーズ香港」についてお伺いします。ジュネーブ、N.Y.、ロンドンなどと比較して、香港ならではの特徴は何でしょうか。

A.(パティ・ウォン氏)
「サザビーズ香港」がスタートしたのは1973年のこと。1989年に翡翠のみを扱うジュエリーオークションが始まり、1995年には翡翠以外のジュエリーも扱うようになったのです。ほかの都市に比べると、プロのディーラーより個人の富裕層のお客様が多いのが特徴でしょうか。

香港のジュエリーオークションのスタート時は香港、台湾、シンガポールのお客様が中心だったのが、日本を含め、中国、インドネシア、タイ、マレーシアなど、急速にマーケットが拡大しているのが現状です。

Q.スタートアップ時から比べて、変化していることがあれば教えてください。

A.(パティ・ウォン氏)
オンラインでの取引が増加していることが挙げられます。2019年5月には、香港でオンラインのみのジュエリーオークションを初めて開催しました。開催地に足を運ばなくても弊社ウェブサイトを見て入札でき、トライしやすい価格帯のものが多いのが特徴。若い層を中心に増え続けています。

2018年は会社全体でのオンラインの売り上げが約240億円を記録(ジュエリー以外の分野もすべて含む)。売り上げの個数では全体の37%を占める結果になりました。

Q.では、「サザビーズ・アジア会長」を務めるパティ・ウォンさんご自身についてお聞かせください。会長就任前のポジションと、そこでの業務内容はどんなものだったのでしょうか。

A.(パティ・ウォン氏)
会長に就任したのは2004年。その前はロンドンで「プライベートクライアントサービス部門長」を務め、お客様と接するマネジャー陣営を取りまとめていました。入札するお客様の目的を把握し、投資をお考えならそれに適した取引を、コレクション形成を充実させたいならそろえるべきアイテムを、それぞれアドバイスするのがマネジャー。

出品するお客様も同様で、今マーケットで強い売値がついている物を知り、適した出品物を相談するのです。そのために商品や市場の勉強はもちろん、文化、歴史、そして法律についても理解を深めなければなりません。私自身、常に最先端の情報を取り入れることを心がけていたとともに、マネジャーたちには「どうすればお客様のメリットになるのか」を第一に考えて行動するようにと伝えていました。

Q.では最後に、会長として考えている今度の展望をお聞かせください。

A.(パティ・ウォン氏)
1973年からスタートした「サザビーズ香港」は、現在年間約1,000億円の売り上げを誇っています。なかでもジュエリー部門が果たしている役割は大きく、翡翠をはじめ、ダイヤモンド、カラーストーン含めてベストなラインナップを提供してきました。ただ鉱山の閉山も相次ぎ、石自体の供給は減り続けているのが現状。

だからこそ、どれだけ興味深い商品を取りそろえられるか、これからもそのセレクトに尽力していきます。また、香港は輸出入ともにフリーポート。関税がかからないというビッグアドバンテージを味方に、大きく発展させていこうと考えています。


88.22カラットのダイアモンドを、日本人が15億円超で落札した今回の取引。これにより、アジアにおける最高品質ダイヤモンドへの需要の高さが証明され、さらに世界のサザビーズにおける新しい記録のひとつになりました。

ダイヤモンドはもちろん、ジュエリーそのものの価値を厳正に見極め、適正な市場価格で出品されるのが「サザビーズジュエリーオークション」。本物を求める私たちこそ、注目していきたいスタイルなのです。

パティ・ウォンさん
サザビーズ・アジア会長
世界中のサザビーズの重要なオークションにて、20年にわたりアジアの主要なコレクターの代理人を務める。ロンドン、香港を拠点に、2004年「サザビーズ・アジア会長」に就任。2005年12月に設立された、世界的小売りベンチャー「サザビーズ・ダイヤモンド」の会長も務める。

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WRITING :
本庄真穂
EDIT :
石原あや乃