私の大切なもの──自宅とは異なる別荘での暮らし。自分の美意識を詰め込める、それが「家」

家というのは、自分にとっての美意識を詰め込める場所だと思っています。独身のころから家にはこだわりがあって、引っ越しを何度も繰り返してきましたが、住んでいたのはヴィンテージマンションや古い一軒家ばかり。古い家が好きなんです。そして20代で、初めて自分の家を買いました。賃貸ではできないことが多かったので、古い家を買って、リフォームして住んでいました。

別荘でくつろぐ桐島さん

この葉山の別荘を買ったのは、10年以上前のこと。私は横浜育ちで海の側にはなじみがあり、母(作家・桐島洋子さん)は葉山で暮らしていたこともあるので、ゆかりのある土地がいいなと思っていました。

もともとは明治時代の政治家・金子堅太郎さん宅の敷地内にあった別宅です。当時、すでに京都の古民家を移築したものだったので、原型はいつの時代のものなのか、正確にはわかりません。下の部分が農家造りで梁が太く、上は数寄屋造りという面白い家。買ってから、京都の宮大工さんを呼んで、夫(写真家・上田義彦さん)が監督しながら2年くらいかけて今の状態にしました。

普通のリノベーションだと、古い家を新しく変えていく作業だと思うのですが、この家の場合は古い形に戻す作業をしました。

例えば、プラスチックになっていた雨どいを真鍮のものに変えたり。窓のサッシもアルミが嫌いなので、すべて木枠に変えたり。木製の時代物の建具を集めてきて、窓のサイズに合わせてつくり直しているんです。

お庭の景色

庭の藤棚のところには、中国から運んできたテーブルと椅子が置いてあります。タイでオリジナルでつくった大きな壺に、ハスを育てています。

古い蛇口を取り付けた足洗い場

この外の水道は、地元の三浦半島で採掘された佐島石を夫が見つけてきて、古い蛇口を付け、周りの模様をデザインして掘ってもらったもの。下には中国の陶板をあしらい、子供たちが海から帰ってきたときに、足洗い場になるようにしました。

外観は、半分はモルタルのような外壁だったのを、母屋と同じ古い板張りのよろい壁になるよう、張り替えています。きっと多くの人が、この家を見たときに、もともとこういう古い家だったんだと思うんじゃないでしょうか(笑)。それは、私たちのこだわりが詰まった場所だからなんです。

「家づくり」は終わりがない、一生続くライフワーク

桐島かれんと夫、上田義彦さんの葉山の別荘

2年かけて改装したこの葉山の別荘は、家の中もずいぶん手を入れています。ダイニングキッチンは、夫(写真家・上田義彦さん)が見つけてきた古民家の太い梁を組み、暖炉は同じく梁と地元の佐島石でつくりました。特徴的な床は、海外のホテルで見て素敵だったデザインを、私がアレンジして大理石でつくったもの。

女性は食卓の上のテーブルウェアとか、細かいところにこだわることが多いと思いますが、私は比較的、家そのものや部屋など、広い空間にこだわるほうです。夫はさらに空間が広くて、庭も含めてこだわっています。室外機が家の外観を損ねるということで、クーラーはこのダイニングキッチンにだけ許されていて、寝泊りしている母屋には、いっさいないんですよ。

だから私がこの葉山の別荘でいちばんお気に入りの場所は、このダイニングキッチン(笑)。キッチンそのものは、新しいシステムキッチンを採用しているのですが、韓国の欄間のような木工細工に合わせて収納をつくったり、クーラーもその欄間のようなもので目隠しをしたり、さらに古く見せるような演出をして統一感を出しています。

別荘の庭でくつろぐ桐島かれんさん

ここまでこだわって手を入れ続けた別荘ですが、実は、私は売ってしまってもいいと思っているんです。子供たちが大きくなって、ここに来る回数も減ってきました。家は使わないと意味がないですから。私はあまり所有欲がなく、その時々に合わせていちばんしっくりくる家が好きだから、老後はホテル暮らしがいいなと思っているくらいなんですね。

でも夫はやはり男性ならではというか、この別荘も「自分の城」という思いがあって、手放す気はないんじゃないかな。別荘に来ると半日は庭の手入れや掃除でつぶれますし、大変なんですけどね(笑)。

東京では、12年ほど前に、建築家の坂茂(ばん・しげる)さんにお願いして、新築でモダンな家を建てました。でも、家って終わりがないんですね。建てたら建てたで住みにくいところが出てきて、今も東京の家は改装を続けています。人生のさまざまなフェーズによって快適な家というのは変わっていくと思うので、最適な状態にしていくことは私のライフワークなのかなと。

ヴェネチアングラスのライト

別荘のあちこちにあるライトは、古い時代のものを探してすべて変えています。こちらはアンティークのヴェネチアングラス。

木工細工など旅先で買い求めたものたち

こちらは、若いときの旅の思い出コーナー。欄間みたいな木工細工など、今でも好きなものはあまり変わっていませんね。

私の大切なこと──「花を生けること」は、積み重ねた美意識の一瞬の反映

ひとり暮らしのときから、いつでも必ずお花を生けています。自宅だけでなく事務所など、いろんなところに花を生けて回っているので、香りだけで「私が来た」とわかることもあるみたい(笑)。

生け花をきちんと習ったことはないのですが、お花をゆがみがあるものとないものとで選別して配置する、という自分なりのコツを確立しています。好きなのは1種類で生けてもかわいいもの。アレンジメントはクリスマスやホームパーティーなど、特別な機会くらいで、普段はあまりやりません。

花を生ける桐島かれんさん

初夏の季節は、好きなお花が多くてうれしいもの。ふだん葉山で生ける花は、お花屋さんよりもいいものが安くそろっているので、鎌倉の農協市で買うことが多いです。たくさん買うのが好きで、ゴールデンウィークにも菖蒲を200本買って生けました。今日のお花も、その市場で買ったシャクヤク。少し量が足りなかったので、360度見られるようにするのではなく、正面をつくる感じに生けようと思いました。少しお花の茎を曲げて、ちょっと下に垂れる部分をつくったりすると、雰囲気がアップするんですよ。

使っている花瓶は、おそらくイタリアの物で独身のころから使っています。特に高価なものではないのですが、どんな花でも生けやすくて重宝しています。

 

私にとって花を生けることは、精神が落ち着く行為です。絵と同じように、長く続けているとだんだんうまくなる。生けているときは頭で考えず、頭の中を真っ白にしてパッと生けます。そういうときこそ、過去にどれだけ自分の美意識に妥協せずに生きてきたか、その積み重ねが一瞬にして反映されるのだと思っています。

ホームパーティーでは、こんな華やかなアレンジでおもてなし。写真はクリスマス時期のもの。

私の大切な時間──「旅」は生活の一部であり、貴重なひとり時間

小さいころから、母に連れられて世界中を旅してきました。なので、もともと旅は生活の一部で、スペシャルなことではない、という感覚があります。

旅先の写真を見ながら振り返る、桐島かれんさん

現地の人と知り合って交流したい、一生の思い出をつくりたい、など旅の目的は人それぞれ。でも私の場合は、そういう希望はまったくなくて。特別なことを何もせずに、エトランジェ(異邦人)として、その土地をすり抜けていきたいんですよね。だれも私のことを知らず、なんのしがらみもない状態で、赤ちゃんのように自由な感覚で新鮮な刺激を味わいたい。

ゆっくり同じホテルに滞在するバカンスよりも、毎日滞在先を変えるような移動型の旅のほうが好みです。観光名所よりも、普通の人の日常生活や、市場などを見るのが一番の刺激ですね。出産して子供たちと一緒に旅行に行くようになってからは、ハワイやグアムのプールサイドで過ごす旅の楽しみ方もわかりました。家族で旅行に行くときは、やっぱりなんでもそろっているほうが楽なんですよね。

買い付けの旅も、子供がある程度大きくなるまでは、ずっと一緒に連れて行かざるを得ませんでした。数年前、17年ぶりにひとりで海外に買い付けに行ったんですね。飛行機に乗ったとたんに「わあ! ひとりの時間だ!」って、ものすごく感動しました。

今は子供が21才、19才、16才、13才になりましたが、それでもふだんの朝はお弁当づくりなど、ルーティンなことで過ぎていく日々です。ひとりの時間なんて、旅に出たときくらいしかゆっくり取れない。今はそういった意味でも旅は大切な時間です。でも、晩ご飯の献立について電話したり、旅先にいても完全に家から離れることはできないんですけどね(笑)。

インドの小物入れ

これは20歳くらいで初めてインドに行ったとき、ひと目惚れして膝に抱えて帰ってきた思い出の小物入れ。アンティークかと思ったらレプリカで、このとき初めて「レプリカ」という言葉を知りました。その後も、レプリカには何度も騙されていて(笑)、たくさん失敗しながら見る目を養ってきました。

KIJIMATA KAYUKIの帽子

旅先の必需品はビーチサンダルと、KIJIMA TAKAYUKIの折り畳みのペーパーハット。買い付けは外にいることが多いのに、日焼け止めを塗らないのと、あとは熱中症対策ですね。

シールがたくさん貼られたグローブ・トロッター

愛用のスーツケースは、日本に初めに入ってきたときに、気に入って買った黒のグローブ・トロッター。 グローブ・トロッターには4輪のスーツケースがなくて、「引いている姿の美しさ」を重視して2輪のものだけなんです。美しさのためには不便も我慢する、という理念にも共感しています。

旅の行き先で好むのは、世界中の文化が均一化に向かうなかで、独自の文化がしぶとく残っているようなところです。いまだにマクドナルドやスターバックスコーヒーがないとか(笑)。

なかでもスリランカはとても好きな国です。建築家ジェフリー・バワの建築物を巡ったりして、また行きたいですね。

スリランカ ザ ラスト ハウス|天才建築家ジェフリー・バワが手がけたホテルで、何もしない贅沢を

ジェフリーパワーの建築で佇む桐島かれんさん

インドは、ぐんぐんと発展を遂げているにもかかわらず、地方ではほとんどの女性がまだ民族衣装を着ています。そういうふうに、自分たちの文化を誇りに持ち続けているような土地も大好きです。

この記事の執筆者
1964年生まれ。1986年大手化粧品会社のイメージキャラクターに起用され、脚光を浴びる。以降、モデル、女優、歌手、ラジオパーソナリティとマルチに活躍。1993年に写真家の上田義彦と結婚、四児の母である。ブランド「ハウスオブロータス」クリエイティブディレクター。 好きなもの:花、ワイン、動物、マティス、ビートルズ、かご、旅、市場、夏、ホテル、ワンピース、ビーチサンダル、ジョン・アーヴィング、ジム・トンプソンの家
公式サイト:ハウスオブロータス公式サイト
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クレジット :
撮影/道用浩一 ヘア&メイクアップ/重見幸江(gem) 構成/安念美和子