虚無的で明るい悲哀がにじむ、その落差に驚かされる詩集『キラキラヒカル』
昨年86歳でこの世を去った詩人・入沢康夫。ある人は恐ろしい詩人だといい、またある人は、寂しい人だという。優しい人だったという人もいるし、神秘的で謎だらけで、ついにわからない人だったという人も。
もちろん、そのように言うだれもが、この詩人の、ふるえ慄くような詩篇を愛読してきた。不在の穴はたとえようもなく巨きい。
だが、死後に刊行されたこの詩集には、「自選ライトヴァース集」という軽やかな副題がついている。
改めてライトヴァースとは何か。重厚な文学作品というよりは、気楽に読める軽妙な作品と、ひとまずは定義してみようか。確かに、たわいもないことを、文字通り軽く歌うという場合もあるだろう。
だが、軽いのはあくまで詩の語り口や形式で、ときには生死にまつわる重いテーマを、軽やかに歌うという場合もある。
本書の詩は、重いものを軽くという後者に思える。軽と重の、思いがけない落差に、虚無的で明るい悲哀がにじむ。
冒頭に置かれた失題詩篇は、鮮烈なデビュー作にして代表作だ。
「心中しようと 二人で来れば/ジャジャンカ ワイワイ」
とにぎやかに始まる。心中という悲劇の決心を、まるで他人事のようにリズミカルに盛り上げる。戯れ歌のようでいて、その中心には、聞き捨てならない切実な声がある。
さてどこまでが虚構なのか。おどけた調子の裏側に、私たちが聞くのは、背筋がひやっとする真実の声。
悲劇や悲しみを振り切る演技力=虚の力を利用して、詩人はときに子供のように、ときに道化のように、明るい虚無の歌を歌う。
「淋しい歌を一つ聞いて下さい」
というリフレインをもつ「聞いて下さい」も、妙に心に沁み入る歌だ。
ある一編に登場する、「黒いこびと」を探してみてほしい。私にはその「こびと」が、次第に作者に思えてくる。
※本記事は2019年9月7日時点での情報です。
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- TEXT :
- 小池昌代さん 詩人・作家
- BY :
- 『Precious10月号』小学館、2019年
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- PHOTO :
- よねくらりょう
- EDIT :
- 本庄真穂