ウイルス感染対策のためとはいえ、外出自粛生活により別の健康被害に悩む人が増えていることも、現在起きはじめた新たな問題ともいえます。

中でも、習慣的な運動をなかなか実施できない、在宅時間が長く食べ過ぎてしまったなどダイエットが必要と考える人が多いようです。しかし、有効といわれるダイエットの一つである糖質制限は、腸内細菌の点から見るとリバウンドの危険性もあるとか。

今回は、腸内環境を考えたおすすめのダイエット法やリバウンドしにくい呼吸運動法、そして糖質制限せずに太りにくい体を作る食事レシピについて、3名の先生にお話を伺いました。

森田 英利先生
岡山大学大学院 環境生命科学研究科 教授
(もりた ひでとし)岡山大学大学院自然科学研究科博士課程修了。1991年 米国ミネソタ州立大学ポスドク。1992年 麻布大学獣医学部に助手、2010年 同大学の教授を経て、2015年から現職。腸内細菌学会広報委員、日本乳酸菌学会評議員。任期を終えたものに、内閣府消費者委員会新開発食品調査部会新開発食品評価第二調査会委員、日本畜産学会常務理事、日本乳酸菌学会理事、日本NO学会評議員。腸内細菌・腸内フローラ(腸内細菌叢)・プロバイオティクスに関する研究での共著論文のjournalの掲載歴に、Nature、Cell、Science、Nature Medicine、Nature Biotechnologyなどがある。
沖 知子先生
インド政府公認資格 プロフェッショナルヨガ講師
(おき さとこ)モットーは「健康第一、一生笑顔」。ヨガ歴13年。2016年にMiss WORLD JAPAN ファイナリストに選抜され、初代「ミス・ヨガ」を受賞2017年、株式会社ブレストランを設立し、代表取締役を務める。おいしい呼吸のレストラン「ブレストラン」として、企業に向けた従業員の”心の健康”をサポートする新サービスとして展開中。
柴田 真希先生
管理栄養士
(しばた まき)株式会社エミッシュ代表取締役。女子栄養大学短期大学部卒業後、お料理コーナーの番組出演をはじめ、各種媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メーカーのコンサルティングや飲食店のメニュー開発、プロデュースなどを手がける。『スーパーミルク健康法』(小学館)をはじめとした著書、セミナー講師実績など多数あり。

「コロナ太り」を自覚する人は約4割という事実

株式会社サーティフィット(第三者機関調べ)【調査期間】2020年5月12日(火)~13日(水)
株式会社サーティフィット(第三者機関調べ)【調査期間】2020年5月12日(火)~13日(水)

長期化する外出自粛による生活の変化で、食生活の乱れ、運動不足、ストレスなどに伴い、体型変化や体重増加を自覚している人が多いといわれています。

「コロナによる自粛生活をきっかけに、体重の変化はありましたか?」というアンケートの結果でも、女性300名のうち、約40%が「太った」と回答したそうです。またその質問に追加し、「何kg増加しましたか」という問いに対しては回答数128名で、平均「2.6kg増加」という結果が。

実際に、このコロナ禍での自粛生活で太った人が多いという結果が見えています。

糖質制限ダイエットはリバウンドの可能性が高い?

ダイエットを決意するも、運動する機会を持つこともまだ難しい現状も。そこで、食事による施策を考える人も多いでしょう。近年、流行している糖質制限ダイエットにチャレンジしようという人もいるかと思いますが、腸内細菌の観点からはその方法に「ちょっと待った」がかかっているようです。

「糖質制限が腸内フローラ(腸内細菌)に与える影響に関する検証試験」を実施したところ、糖質制限実施者は、腸内フローラの状態が一般の人よりも悪くなっているようで、さらに太り易い状態になっていることがわかりました。

つまり、ダイエット目的で実施されることが多い糖質制限が、腸内フローラの観点から見ると逆効果となる可能性があることが示唆される結果です。

糖質制限を実施すると、炭水化物を食べないことで結果的に食物繊維の摂取も制限されてしまい、いわゆる善玉菌のエサが不足しがちになると想定されます。糖質制限者の腸内細菌叢を見てみると、腸内フローラ判定のスコアが悪い傾向となっていましたので、実際に糖質制限者の大腸では『エサ不足』で善玉菌が劣勢になってしまっているのだと考えられます。

また、ダイエット後にリバウンドしてしまった経験がある人も多いと思いますが、このリバウンドのメカニズムにも腸内フローラが関係しているという報告があります(Thaiss, Nature, 2016)。

腸内細菌の中には、前述の物質のほかにも脂肪吸収・燃焼を促す物質をつくり出すものがいますが、一度太ってしまって腸内フローラも肥満型になってしまうと、そういった物質をつくり出す腸内細菌のもつ遺伝子がオフになってしまいます。

さらに、痩せにくくなってしまい、糖質制限のように強制的にダイエットをしたとしても腸内フローラが太っていたときの状態を記憶していることで、常に太りやすい状態になってしまっているといいます。リバウンドとは、ダイエットを始める前以上に太るイメージがあるのは事実であり、それが腸内細菌フローラの観点から説明されたことになります」(森田先生)

■検証1:腸内フローラ判定

糖質制限実施者は、一般の人と比較して、以下のように腸内フローラが悪い状態と判明。
A評価の人の割合が1/3以下…【腸内フローラの状態が良い】
D・E評価の人の割合が2倍…【腸内フローラの状態が悪い】

試験協力:株式会社サイキンソー、株式会社ネオマーケティング
試験協力:株式会社サイキンソー、株式会社ネオマーケティング

腸内フローラの状態が良好と考えられるA判定の人は、一般生活者に比べて1/3以下の10%しかいない結果に。一方、腸内フローラのバランス崩壊が起きているディスバイオーシス状態(大腸劣化)が疑われるE判定の人はいませんでしたが、ディスバイオーシス予備軍と考えられるD判定の人は30%にもなり、D・E判定の合計が一般生活者の倍以上という結果に。

この結果からも、糖質制限を行うと、腸内フローラの状態が悪くなる傾向になりがち、ということが言えるそうです。

■検証2:太りやすさ(FB比)

糖質制限実施者は、一般の人と比較して、下記のように非常に太り易い状態が判明。
【太りやすさを示す指標(数字が大きいほど太りやすい状態)であるFB比が平均で倍以上】

試験協力:株式会社サイキンソー、株式会社ネオマーケティング
試験協力:株式会社サイキンソー、株式会社ネオマーケティング

糖質制限実施者は一般生活者に比べて、太りやすさを示す指標であるFB比(数字が大きいほど太りやすい状態にあることを示す)が平均で倍以上、と腸内フローラ的観点で見ると太りやすい状態になっています。

食べ物のカスとして糞便の構成成分を消化して、生体がエネルギー源として吸収・蓄積させやすい状態にしてしまう菌や、短鎖脂肪酸という脂肪燃焼促進や脂肪蓄積抑制などにも働く物質をつくり出す菌(代表的なのはビフィズス菌)など、体型に大きな影響を及ぼす菌がいることが分かってきています。

この結果からも、糖質制限を行うと太りやすい体質になる可能性がある、ということがいえそうです。

「制限」よりも「コントロール」する意識が大切

ダイエットというと「食べない」方法で実施したほうが良いという認識を持っている人も多いでしょう。

しかし、何かを制限するダイエットではキレイに痩せるのは難しいともいわれています。制限することで、免疫低下や不眠症、また、筋肉低下や制限したことによるリバウンドなど、負の連鎖に陥ってしまうことも。

適度に付く脂肪は体の機能的にも大切であるため、「痩せる」よりも「絞る」という意識をもつことで「健康的に美しさを保つこと」につなげていけることが理想のようです。

新型コロナウイルスの感染対策は、私たちの生活環境を大きく変えましたが、外出自粛によりダイエットの意識を変化させるきっかけにもなったといえるでしょう。

ニューノーマルといわれる時代のダイエットは、「制限」することから「コントロール」することで健康的に美しくなるという意識を持つことが大切かもしれません。

リバウンドしにくいダイエット法とは

「ヨガ=呼吸といわれるほど、呼吸はとても重要です。呼吸の浅い人は、ストレスを感じている証拠です。結果的に、食欲のコントロールができないことにつながり、リバウンドにも影響してしまいます。

また、外出自粛期間中、便秘になった、悪化したという方も多いと思いますが、便秘になると胃腸の位置が上がり、横隔膜を十分に動かせません。深い呼吸ができなくなって、自律神経の乱れを招くなど、リバウンドだけでなく、全身の不調に繋がる可能性も高いのです。

リバウンドせず、かつ便秘解消にもつながる簡単にできる、ニューノーマル呼吸法と運動法を試してみてはいかがでしょうか」(沖先生)

■沖先生直伝! ニューノーマル 呼吸法/運動法

【プチ太陽礼拝】
呼吸とともに全身を動かし、朝の準備運動的役割を果たします。朝日を浴びることで幸せホルモンセロトニンも活性化。
呼吸とともに全身を動かし、朝の準備運動的役割を果たします。朝日を浴びることで幸せホルモンセロトニンも活性化。

1:足を揃えて、背筋を伸ばし、肩の力を抜きましょう。
2:太陽のエネルギーを全身に取り入れるイメージで、息を吸いながら両手を上にあげ、目線は上に向けます。
3:感謝の心で息を吐きながら上体を前に倒し、膝を軽く曲げ、上半身をリラックス。
※ゆったりと1~3呼吸感じながらキープ。
4:息を吸いながら膝を伸ばし、背中がまっすぐなるところまで上半身を起こします。その時、両手は、すねか腿。
*1.2.3.4.3.2.1の順番(1セット)で行い、3回繰り返す。

【大木呼吸法】
樹木はねじれながら伸びることによって、外部からの影響に対して強くなり、たくましく成長していきます。ストレスや緊張感の緩和につながり、気持ちがリフレッシュします。朝のおいしい空気を身体全体で感じましょう。
樹木はねじれながら伸びることによって、外部からの影響に対して強くなり、たくましく成長していきます。ストレスや緊張感の緩和につながり、気持ちがリフレッシュします。朝のおいしい空気を身体全体で感じましょう。

1:両肘を左右に張って、腕のなかに大きな空気のボールを持つようにして立ちます。両膝は軽く曲げて、腰を落とし、どっしりとした大きな木になったようにイメージしましょう。
2:息を吐きながら両腕を斜めに上げ、腰から徐々に上体をひねります。
※最後まで吐き切り、お腹の奥が強くなるのを感じます。
3:息を吸いながら膝を曲げて緩め、身体と両腕をゆっくり正面に戻します。
4:そのまま、反対側も息を吐きながら同様に。息を吸いながら身体を正面に戻します。
*左右にひねるを4セットほど繰り返す。

■便秘解消 呼吸/運動法

【ポイント】
1.「横隔膜」と「腸腰筋」を意識して行うこと!
2.腸の位置が整って、腸の蠕動運動が活発になるので老廃物の排出と同時にビフィズス菌など善玉菌も増加。腸内環境が整ってきます。
3.さらに、深呼吸は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌量も増やすので気持ちも安定してくるはずです。

【ハッピーハンモック呼吸法】
ハンモックに揺られているようなリラックスに導く呼吸法。
ハンモックに揺られているようなリラックスに導く呼吸法。

手を組み後頭部に置き、ハンモックに見立てる。そこに頭を預け、ハンモックに揺られるイメージで。大きく、開いた胸に呼吸を送る。幸せホルモン「セロトニン」が出て気持ちがハッピーになる感覚がポイント。心地よくリラックスして呼吸を続ける。

詳しくはこちらの動画でチェック>

【ねじりと腹筋】
腹筋にアプローチする運動法。
腹筋にアプローチする運動法。

・ねじり
座った状態から足を伸ばし、クロスして体をねじる。吸う息で伸ばし、吐く息で状態を倒す。お腹がきちんとねじれているかどうか意識を向けることがポイント。吐く息でしっかりと深めていく。ねじることで深層部(内蔵、腸)にアプローチするポーズ。

・仰向けで腹筋と腸腰筋のチェック
両足を伸ばし、片方の足を胸に近づける。もう一方の足は真っ直ぐ伸ばすが、この時マットに足が着きづらい、膝が曲がりがちという人は、腸腰筋が硬い証拠。仰向けで寝て、下腹部を使い上半身と下半身を近づけて二つ折りになるイメージで行っていく。

詳しくはこちらの動画でチェック>>

【腸のマッサージ&ガス抜きのポーズ】
「腸の巡り」を良くするマッサージ&ポーズ
「腸の巡り」を良くするマッサージ&ポーズ

・腸マッサージ
仰向けで両足裏をつけ、ひし形の形になって腸腰筋を緩める。そのまま手のひらで腸をさすりマッサージし、腸の巡りをよくする。自分の体調を体感しながら行うと良い。その後、もっと伸びが欲しい場合は上に手をあげてひじをもつ。しっかり吸って吐く呼吸を使って、マッサージ。

・ガス抜きのポーズ
両足を胸に近づき、吐く息で、おでこを足に近づけていく。呼吸に意識を向けて腹式呼吸。5呼吸終わったら、頭を戻し、手と足を延ばす。最後はリラックして、全身の力を抜く。

詳しくはこちらの動画でチェック>>

リバウンドしにくい食事法のポイントを知る!

沖先生も実践中!おすすめのリバウンドしにくい食事法

1.一汁三菜で片寄りのないバランスのよい食事を食べる。身体を温めるために、温かいものから食べるなど食べる順番も意識する。

2.精製された白い食材、白米(玄米)・食パン・白い砂糖などを食べることで食後血糖値の上昇を抑える。玄米はよく噛んで食べるので幸せホルモンの分泌量も増やしてくれるのでバランスが整いやすくなる。

3.腸美人は発酵食品!腸内細菌を整えるために発酵食品を取り入れる。ビフィズス菌などの善玉菌とそのエサとなる水溶性食物繊維を継続して食べる。

管理栄養士・柴田真希先生考案! 糖質制限をしなくても太りにくい体を作る簡単レシピ

調理行程が少ないため料理の苦手な人でも作りやすい「ヨーグルトドレッシングサラダチキンのシーザー丼」
調理行程が少ないため料理の苦手な人でも作りやすい「ヨーグルトドレッシングサラダチキンのシーザー丼」

「白米ではなく、雑穀ごはんや麦ごはん、玄米ごはんにすることで、食物繊維をはじめビタミンB群やミネラルなども補給できます。パックごはんの玄米でももちろんOKです。

レタスはカット野菜などをうまく活用すれば手間なしで野菜をとることができます。

ビフィズス菌入りヨーグルトを使用したドレッシングにはオリゴ糖も豊富なはちみつで甘みを。穀物と野菜に含まれる食物繊維との相乗効果で大腸の中の善玉菌が増え、腸内環境をととのえる効果が期待できます」(柴田先生)

【ヨーグルトドレッシングサラダチキンのシーザー丼】
*調理時間約10分
[材料]
(2人分)
サラダチキン:2枚
レタス:2枚(80g)
ミニトマト:4個
雑穀ごはん:2杯
温泉たまご:2個
(A)はちみつ:小さじ2
(A)にんにく(すりおろし):少々
(A)塩:小さじ1/4
(A)黒こしょう少々
(A)ビフィズス菌入りヨーグルト:100g
粉チーズ:適量
黒こしょう:適量

[作り方]
(1)サラダチキンを食べやすい大きさに切る。レタスをざく切りに、ミニトマトを縦4等分に切る。
(2)ボウルに(A)を上から順に入れて混ぜ合わせる。
(3)器に雑穀ごはんを盛り付け、レタス、サラダチキン、ミニトマトをのせる。(2)のドレッシングをかけ、お好みで粉チーズと黒こしょうをかける。


いかがでしたか? せっかく実践しているダイエットが、自分の体質に合っていなかったり、かえってリバウンドしやすい方法になっていないか、どれだけ理解できているでしょうか。

熱中症や感染症に気をつけながら自宅でできる方法が多いので、ぜひこの機会に自分の体の状態やダイエット法をチェックしてみましょう。

この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
Sachi Tamura