関西を拠点に、国内外で活躍する女性たちの生き方を綴る連載「~京都、大阪、神戸~ 彼女たちの三都物語」。聖護院八ッ橋総本店の一人娘・鈴鹿可奈子さんが、家業を継ぐための準備や想いについてうかがった1回目に続き、第2回では実際に家業に就き、どのような仕事を行ってきたかをお聞きしました。
- 【第1回】京都で328年続く老舗、聖護院八ッ橋総本店の後継者・鈴鹿可奈子さんとは
- 【第3回】「本物の京都」を知ってもらうためにしていることとは?
- 【第4回】上司が部下の名前を「さん」づけで呼ぶべき理由
「人を大切にする」という父からの教え
「(他業種を辞め、聖護院八ッ橋総本店に)入社して半年は、研修期間として雑務をこなしていました。工場で白衣を着て、八ッ橋をつくる修業もしました。その後は総務部に配属されて、そこではまず出勤簿を付ける仕事を任せられました。これは『どこの店舗に誰がいるかを把握して、社員さんの顔を知っておかないとコミュニケーションが成り立つわけがない』という父の考えからなんですが、父自身も社員さん全員の名前はもちろん、家族構成なども覚えています。奥様がご病気の方がいらっしゃれば「奥さん、どうされてますか?」と声をかけたり。小さいころからそんな父を見ていて、それが当たり前だと思っていました」
効率だけでは割り切れない京都の商売
「入社して3年後、経営企画室という部署ができ、私が室長になりました。とは言え、部下もいないし、何をしたらいいかも特になく、自分で考えて動かなくてはいけませんでした。そこでまず、以前に会社勤めしていた経験を活かし、この会社のおかしいと思うところを提案していきました。前の会社ではあんなに効率よくやっていたのにうちは、と思うことも多く、疑問に感じることがあれば、その都度、改善策を提案していました。社長である父は、取り入れてくれることもありましたが、『以前のままで』と応えることも多く、せっかく提案しているのになんで?と思うこともありました。例えば備品や文房具など、少しでも安い大手の業者さんからすべて購入するのが以前の勤め先ではコストダウンだと教わっていたのですが、父は地元の文房具屋さんで買うのが大事と言います。父が入社したとき、祖父から『人と地元を大事にしなさい』と言われたそうで、私もその言葉を今は大切にしています。聖護院というこの場所で、300年以上商売を続けてこられたのは、地元の方々の支えがあったからこそ。その感謝の気持ちを忘れてはいけない、と思っています。それに、小さなころから私がお世話になった文房具屋さんのことも考えれば、当たり前のことだったと、今となっては思うのですけれどもね」
新風を吹き込む新ブランドをスタート
「経営企画室室長になってからは商品の企画に携わるようになり、定番商品あん入り生八ッ橋『聖』の包装紙のバリエーションを増やす提案をしました。それまでは1年中、同じ包装紙を使っていたのですが、京都にいらっしゃる方は京都の四季を楽しみに来られているのだからと、季節ごとに替わる包装紙も一緒に販売するようにしました。最近ではチョコレートを使った”ショコラの聖”、昨年12月から販売をはじめた原了郭さんとのコラボレーションの”山椒の聖”も好評です。
そんな中でもいちばんご注目いただいたのは、2011年春にスタートした新ブランド『nikiniki (ニキニキ) 』です」
「何かこれまでにないようなお店を…という漠然とした相談を、父から受けました。私の今の感性で考えてよいということだったので、ではどういう八ッ橋が欲しいかと考えたときに、まずは地元の若い方々に八ッ橋を口にしてもらえるお店にしよう、と思ったのです。八ッ橋は京土産のイメージが強すぎて、京都以外の方はよく召し上がってくださるし、おいしさも知っていただいているのですが、地元の方があまり口にされる機会がないようで。でも、いざ食べてみると必ずおいしいと言っていただけますし、私自身八ッ橋を日常のお菓子として食べているので、それならまず、地元の方が買いたくなるような店づくりや、商品開発をめざそうと考えたのです。そう思ったときに、私の頭に想い浮かんだのが、小学生時代の記憶でした」
幼い日の記憶や夢をヒントに新商品を考案
「小学生のとき、母が”カネール”という八ッ橋を使ったカフェをプロデュースしていて、学校が終わると母がいるお店に行って、デザートを出してもらっていました。そこでは生八ッ橋にリンゴのコンフィチュールやバナナを組み合わせたプレートや、アイスクリームと合わせた八ッ橋などが出されていて、大好きでよく食べていたんですよね。生八ッ橋にフレッシュな食材を合わせると、こんなにおいしくなることを知ってほしいと思い、最初にできあがったのが、生八ッ橋に餡やコンフィを自分で自由に組み合わせて食べる菓子、カレ・ド・カネールでした。『nikiniki』では、季節のモチーフを生八ッ橋でかたどった季節の生菓子も人気がありますが、これも実は小学生のときの夢からヒントを得ているんです。生八ッ橋がピンク色ならかわいいのに、ハート型ならもっとかわいいのに。さらに入学式のころは、ランドセルの形のものがあってもかわいいよね…などと、絵に描いていたんです。生八ッ橋は薄くてやわらかく、元々お子さんに人気なんですが、この生菓子をあげると『わ~!』と笑顔になってくれるのです。それを見ていると、うれしくなりますね」
家業に就き、次期後継者として仕事を覚え、これまで培ってきた経験や知識を活かし、さまざまな提案・改革を行ってきた鈴鹿さん。次回は、専務取締役になってからの仕事や仕事以外の活動についてうかがいます。
http://www.shogoin.co.jp/
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 香西ジュン
- WRITING :
- 天野準子