新しい年が始まり、プライベートでも仕事関係でも、人と会う機会がグッと増える時季。そこで問われるのが、「いかに気遣いできるか」です。人間関係を円滑なものにするためにも、「気遣い」は現代人にとって必須のマナー。けれど、案外間違いやすいものでもあるのです。

そこで、元CAの経験を活かし、現在はマナー講師として年間100回もの企業研修やコンサルティングを行っている三上ナナエさんに、やめた方がいい気遣いを教えていただきました。どれも、下手すると誤解されてしまう可能性が高いのだとか。うっかり自分の評価を下げたり人間関係を壊してしまわないためにも、ぜひ、気をつけていきましょう。

■1:相手の気になる部分をじっと見つめる

視線で人を不快にさせることも
視線で人を不快にさせることも

相手から目をそらさず、じっと見つめて話をする。それが対話上のマナーだと思っている人は多いことでしょう。確かに、それは大切なことです。けれど、目は口ほどにものを言うもの。自分の何気ない視線の動きが、相手を傷つけることにもつながりがちです。

つい目がいってしまいそうなことには、意識して目を向けない配慮をすることが重要。たとえば、男性相手であればお腹まわりや頭髪、女性相手であれば胸元や脚など……。じろじろ見ることが、失礼にあたってしまうのです。

三上さん「目を向けてしまうのは、無意識であることが多いもの。まずは、どんな場面で自分が目を向けてしまうのかを知ることが大事です」と言います。

「たとえば、レストランで隣のテーブルにお料理が運ばれてきたとき、それをじっと見つめてしまう、なんてことをしていませんか? ヨーロッパに住む知人が、『日本に帰ってくると、電車の中などでちょっと目立っている人に視線をやる人が多いから、なんだか自分も見られているようで緊張する』と話していました。それを聞いて、私もじろじろ見ている側かもしれないなとハッとさせられました」

表情や態度だけでなく、視線にも気をつけたいですね。

■2:ほめられたときに「そんなことないですよ」と返す

突然ほめられたとき、とっさに「そんなことありません」「自分なんて全然ダメです」と謙遜をしていませんか? これは、日本人に多いクセのようなもの。謙虚さを見せることがマナーだと思いこんでいるのです。

けれど、それは相手の考えや立場を否定することにつながります。自分のことを信頼し、期待を寄せてくれている人からほめ言葉をいただいたときは、否定ではなく、「おほめいただき、ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えましょう。

「『ありがとう』に、さらにプラスの言葉があるともっと相手を喜ばせることができます」と三上さん。

「たとえば、『すごく元気が出ました』『◯◯さんに言われると本当にうれしいです』といった言葉を添えてみるのもいいですね。そもそも、付き合いたくない人のことはほめません。ほめるというのは、あなたとの関係をよくしたいと思っていますという、ありがたいメッセージなんです。

ほめられたときは、なんだか気恥ずかしく、自分にベクトルが向きがちですが、相手への感謝の気持ちにモードを切り替えましょう。『◯◯さんの人のいいところを見てくださる姿勢、見習いたいです』と相手をほめ返すチャンスでもありますね」

謙遜しすぎもやめましょう。

■3:プレゼントをもらったときにお返しをすぐにする

余計な心配をさせてしまうことも
余計な心配をさせてしまうことも

贈り物をいただいたとき、「すぐにお返しをしなければ」と思ってしまいがちです。けれど、これもNGマナー。すぐにお返しをすることで、相手に「もしかして、迷惑だったのかな……?」と思わせることにつながってしまうからです。

もちろん、いただきっぱなしもよくないことですが、まずは感謝の気持ちを言葉で伝えることが大切。相手はお返しを期待しているわけではないので、具体的な言葉で喜びを表現しましょう。

「なにか気の効いたことを言わなくちゃ……」と気負う必要はありません。素朴でも『ありがとう』の気持ちが込められた言葉で、相手もきっと喜んでくれるはず。

「“言葉のお返し”としては『めったに口にできないものをいただいて、家族が大変喜んでおります』『とても立派な◯◯に驚いて、思わず知り合いに自慢してしまいました』『自分では欲しいけれど、買うのに躊躇してしまうので本当にうれしいです』『貴重な限定品ですよね! 家族で奪い合いになりそうです』『私の大好きなテイストで癒されます』などなど……。相手との距離感に応じて、使い分けてみてくださいね」(三上さん)

■4:誘うときに「◯日は空いている?」と聞く

相手を誘うときに重要なのは、「断りやすいよう配慮すること」。誘われた側がいちばん困るのは、「◯日は空いている?」とだけ聞かれることです。それは、用件によって判断をするから。空いていなくても調整するときもあれば、空いているけれど行きたくないときもある。それは誰だって同じです。

だからこそ、誰かを誘うときには、具体的な用件とともに日時もいくつかピックアップするように心がけましょう。「断る余地をつくってあげる」ことが、気遣いにつながるのです。

三上さんは「みんなが楽しく過ごせるためにも、お誘いするときの気遣いはどれだけ具体的な情報をお知らせするか?がポイントです」と言います。

「具体的に聞けば、『OKをくれたけれど、実は相手がそんなにノリ気ではなかったと知って困ってしまった……』なんてことも防げます。NGなのはこんな誘い文句。『ぜひ、お食事に行きましょう。今月空いている日を教えてもらえますか?』。

逆に、『パリに本店がある◯◯というお店が青山にもできたと、雑誌を見て知りました。ぜひご一緒にいかがでしょうか? AさんとBさんにも声をかける予定です。今月9日、13日、17日で空いている日はありますか?』のように、具体的な情報をたくさん盛り込めるとベストです」

「断りやすくなるような配慮」、是非見習っていきたい心配りですよね。

■5:人前で話すときの緊張をなくそうとする

登壇するときはゆるみすぎないことが大事
登壇するときはゆるみすぎないことが大事

プレゼンや会議の場で発言をするとき、誰だって緊張してしまうもの。そして、「どうすれば緊張しないようになるか」ばかりを考えてしまいます。ところが、この緊張こそが、大切なこと。

緊張感がない状態で話すと、つい気持ちよくなってしまい、予定外の発言や失言が増えてしまいます。それが結果的に信頼を失うことにもつながるのです。

つまり、適度な緊張感こそが、自分自身を守ってくれるものということ。人前で話すときは、「緊張しないように」ではなく、「自分の話に酔わないように」と意識するようにしましょう。

三上さんは「適度な緊張は、その場や人に対して、真摯に謙虚に向き合おうとするときにも起こるもの。相手に緊張しすぎているように見せなければ大丈夫です」と言います。

「そのためは、しっかり事前準備をして何度も練習すること。また、多少緊張が相手に伝わっても『真面目な人だな』『◯◯さんも緊張するんだ』」と親近感にもつながります。深呼吸をする、挨拶のときはしっかりお辞儀をするなど、気持ちを落ち着かせる自分なりのルーティーンを持つことで舞い上がることも防げます」

適度な緊張感を維持したまま、挑むようにしましょう。

気遣いは、人間関係の潤滑油。相手の立場になってみて、はじめてその意味がわかるものです。そこに誠実に向き合ったとき、きっと素晴らしい人間関係が築けていくはずです。

三上ナナエさん
マナー講師
(みかみ ななえ)全日本空輸(株)にて、7年間客室乗務員として勤務。平成17年より研修講師、コンサルタントとして活動開始。年間100回の企業研修やコンサルティングを行っている。著書に『仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』(すばる舎)、『一生使える接客サービスの基本』(大和出版)などがある。
『図解でわかる! 上手な気遣い』三上ナナエ・著 秀和システム刊

人付き合いの極意シリーズ

この記事の執筆者
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WRITING :
五十嵐 大