旅先では日常の喧騒を離れて、静かなおこもり時間を過ごしたい。そんな人におすすめなのは秘湯の宿です。自然のなかにひっそりと佇む湯宿は、大地からの贈り物である温泉の恩恵をダイレクトに浴びられるスポット。それに加えて、息を呑むような日本の原風景、地元の食材を生かした心づくしの料理など、秘湯の宿はアクセスの不便さを補ってあまりまる魅力にあふれています。
行けば必ず感動する。わざわざ足を運びたくなる。そんな名宿を温泉ジャーナリストの植竹深雪さんにピックアップしてもらいました。今回ご紹介するのは、熊本県阿蘇郡にある「地獄温泉 青風荘.」です。
公式サイト
足元湧出の「奇跡の湯」で美肌効果を実感
「地獄温泉 青風荘.」(2018年に「清風荘」から屋号変更)は、阿蘇五岳のひとつ烏帽子岳の中腹にある一軒宿。2016年に熊本地震と豪雨の複合災害で甚大な被害を受け、存続が危ぶまれた時期もありましたが、数年をかけて復活を果たした宿の魅力について、植竹さんはこう話します。
「2016年の災害時には、敷地のほとんどが土石流に埋まり、しかも道路の寸断で復旧もままならないという惨状でしたが、復活への足がかりとなったのは『すずめの湯』。地獄温泉にある8つの湯のなかで『すずめの湯』だけは力強く滔滔(とうとう)と地中から湧き続けており、宿再建への希望の光になったそうです。
2019年4月、まず『すずめの湯』の日帰り入浴から営業を再開し、その後も少しずつ改修を進めた末、2020年9月に宿泊再開するまでに至りました」(植竹さん)
「青風荘が震災・豪雨による被害から再生し、地獄温泉の歴史が継承されたのは本当に奇跡としかいいようがありません。何と言っても『すずめの湯』は全国でも希有な足元湧出の湯。源泉が湯舟の真下にあり、湯舟の底から生まれたての湯がポコポコと湧いてきます。
ちなみに、『すずめの湯』は混浴ですが、男女ともに湯浴み着着用が必須なので、女性でも安心。そして、うれしいことに、ここは美肌修業にもってこいなんです。『すずめの湯』の泉質は酸性硫黄泉。硫黄泉にはメラニンを分解し、ぐっと美白に近づける作用があるとされています。私が入浴したときには、浴槽の底に沈んだ鉱泥で泥パックができて、その自然の恵みにも感動! 温泉成分をたっぷり含んだ鉱泥を手の甲にパックしてみると、私の場合、たった5分ほどで肌のトーンが明るくなったのを実感しました」(植竹さん)
※鉱泥の採取量は自然状況に左右されるため、訪問タイミングによって、泥パックができないこともあります。
「また、青風荘はリニューアルに際し、ただ従来の施設を復旧するだけでなく、18度の冷泉の湯舟を新設。北欧ではサウナで温まった後、冷たい湖でクールダウンするという風習がありますが、それをイメージしたものだそうです。
私が訪れたのは初夏で気候にも恵まれた日だったので、『すずめの湯』で汗ばんだ頃合いに冷泉にもチャレンジ。さすがに入った瞬間はひやっとしましたが、しだいに温泉成分の恩恵でじわじわ血流が促進され、ポカポカしてくる感覚が。この『すずめの湯』と冷泉での温冷交互浴がやみつきになる気持ちよさで、つい何往復もしてしまいました。まさに、“ととのう”感覚が得られる名湯です」(植竹さん)
「青風荘は、泉質が異なる自家源泉を複数所有しており、湯巡り気分も満喫できる環境です。名物『すずめの湯』のほかにも、『元の湯』『たまごの湯』と2つの温泉があり、『元の湯』は土石流で埋まった石の湯船を掘り出し復元した湯処、そして『たまごの湯』は阿蘇カルデラ内でも一番高所に位置する見晴らし抜群の湯処で、それぞれの風情があります。
個人的にはやはり『すずめの湯』が推しなのですが、かなり個性の強い湯なので、もう少しマイルドな温泉がお好みの人には、『元の湯』『たまごの湯』がおすすめかもしれません」(植竹さん)
阿蘇の食材にフレンチや京懐石の技をミックスした食事に舌鼓
「青風荘は三兄弟が経営されていて、長男はフレンチのシェフ、三男は京都の三ツ星料亭で修業した経験をもつという料理にも大変こだわりのある宿。私が訪問したときと現在ではメニューがリニューアルされて、よりいっそう磨きがかかっているようですが、当時でもまさか山の中の温泉宿でここまで本格的なフレンチがいただけるとは…と驚いたのを覚えています。
特に印象に残っているのは、デザートのミルフィーユ。銀座の名店『マキシム・ド・パリ』のナポレオンパイを彷彿とさせるもので、パイはサクサク。アーモンドとカスタード、イチゴのバランスも絶妙で、これを食べるためだけでも訪れたいと思ってしまうほどでした」(植竹さん)
※料理内容は季節、仕入れ状況により異なります。詳しくは公式ページをご確認ください。
以上、「地獄温泉 青風荘.」をご紹介しました。災害からの復活の原動力となった奇跡の湯からパワーをいただくと共に美肌効果も実感したい人は、次の旅先候補のひとつに加えてみてはいかがでしょうか?
※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。
問い合わせ先
- 地獄温泉 青風荘.
- 住所/熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽2327
客室数/全9室
料金/1名 ¥28,600~(税込) - TEL:0967-67-0005
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- WRITING :
- 中田綾美
- EDIT :
- 谷 花生