東京ミッドタウンや東京駅(グランスタ丸の内)、コレド室町などに店舗を構える茅乃舎(かやのや)の「茅乃舎だし」は、化学調味料・保存料無添加、こだわりの国産素材を使用した本格だし。ご家庭での利用はもちろんのこと、贈答用として使うシーンも多い人気商品とあって、一度は使ったことがあるという人も多いのではないでしょうか。
国内外に店舗があり、今では30店舗以上を構える人気ブランド「茅乃舎」ですが、実はその始まりは一軒の醤油蔵でした。
本記事では、Precious.jpライターが茅乃舎ブランドを有する久原本家グループの発祥の地である福岡に赴き、ヒストリーや取り組みなどを伺いました。茅乃舎だしが生まれるきっかけとなったお店「御料理 茅乃舎」で提供されているコース料理についても実食レポートでお届けします。
醤油蔵からスタートした久原本家グループのヒストリー
2023年で創業130年を迎える「久原本家グループ」(以下、久原本家)は、だしで知られる茅乃舎以外にも複数のブランドを展開する食品メーカーです。
工場を兼ねる本社があるのは、福岡市内から車で約30分の福岡県糟屋郡久山町。周りは畑や田んぼに囲まれた自然豊かでのどかな町です。
久原本家の原点となる一軒の醤油屋が産声を上げたのは1893年。福岡県糟屋郡久原村(現在は合併し、久山町)にて、創業者の河邉東介が醤油醸造業を始めたことが歴史の幕開けだったそう。
時代の流れと共に醤油のみならず、ラーメンスープや餃子のタレなどの加工調味料、福岡の名産品である明太子なども扱うようになっていきます。
茅乃舎のだしが生まれるきっかけとなったのは、2005年9月にオープンした久山町の里山に佇むレストラン「御料理 茅乃舎」。素材の持ち味と旬を生かす料理が楽しめるレストランを訪れるお客様から「家庭でも同じ味を楽しみたい」という声から生まれたのが「茅乃舎だし」です。
2006年、お店の味に近く、家庭で使いやすい形に作り上げられ販売された茅乃舎だしは、2010年に東京ミッドタウンにお店がオープンしたことをきっかけに、どんどん広まっていきました。
地域との関係性を大切に、自然の中で育まれたものを物・店作りにも活かす
本社、販売店「久原本家 総本店」、レストラン「御料理 茅乃舎」のある久山町は、意識的に自然を残していく町作りをしている地域です。自然と共生する景観や生活を大切にしており、久原本家でも自然の中で大事に育まれてきたものをモノづくりや店づくりにも活かしているのだそう。
古民家を改装した販売店
「茅乃舎」ブランドのお出汁や調味料をはじめ、明太子やもつ鍋など九州のうまいものを取り扱う「椒房庵(しょぼうあん)」、量販店でも売られている鍋つゆなどを扱う「くばら」、麹商品を扱う「茅乃舎 麹蔵」などのブランドを展開する販売店「久原本家 総本店」。
明治時代建築の120年以上経過した古民家を改装した店舗は、釘を一切使わない作りになっているのだとか。
ここでは、茅乃舎だしを使用した「だし玉子焼き」や、みたらし団子のような甘じょっぱさが楽しめる「醤油ソフトクリーム」なども販売しており、後述する「御料理 茅乃舎」と合わせて巡るのもおすすめです。博多限定商品もあり、お土産としても最適。限定商品の「おはぎ」や「おかき」は、見かけたらぜひご購入ください。
「久原本家 総本店」の斜め向かいにある旧工場は、2013年に改装。季節限定の商品や、茅乃舎の特別な原料も製造しています。
日本の伝統を感じられる茅葺き屋根が特徴の「御料理 茅乃舎」へ
「久原本家 総本店」から、車で12分程の距離にある「御料理 茅乃舎」。茅乃舎だし発祥のきっかけとなったレストランで、なかなか予約がとれないほどの人気店です。
西日本最大級の茅葺き屋根を採用した店作りは、圧巻のスケール。屋根の面が膨らんでいる、日本の伝統的な建築様式のひとつ「むくり屋根」は、茅葺き屋根では珍しいのだそう。景観と空気の循環を考え出窓がついた茅葺き屋根は、福岡の太宰府天満宮なども手がける日田の職人が手がけています。
親子をテーマにしており、母家と離れの楽舎に分かれています。合わせて80トン以上の茅が使われているというから驚きです。
後世に伝えていきたいという想いのもと作られており、建物内には三連竃もあります。
また地域との繋がりを大切にしているとあって、提供されるお料理には、地域の農家や生産者から仕入れた食材を使用。地産地消、郷土の料理守ること、生産者を応援することを大切にしており、次世代に繋げていく取り組みを行っています。
地元の農家と提携し、だしの残り素材で土づくりも
茅乃舎のだしをつくる工程で出てしまう、だしの残り素材を使ったサステナブルな取り組みも。
イタリア野菜をテーマに約100種類の野菜を生産する地元の農家「里山サポリ」では、茅乃舎だしの残り素材を使い、土づくりの肥料にしているのだそう。
だしを使った土で作られる野菜は、アクが抑えられる分甘みを感じられるのが特徴。「御料理 茅乃舎」で使われているほか、福岡市内、そして東京のレストランでも使用されています。
滋味あふれる料理が提供される「御料理 茅乃舎」のコースをレポート
ここからは、茅乃舎を代表する「十穀鍋」を含むコース料理をレポート。
テーブルに添えられたカードには、花をあしらった文字で名前が書かれており、コースが始まる前からそのおもてなし力に感動。ひらがなが「あ」なら「あざみ」など、その文字から始まる花が描かれていました。
先付けの「みたらし餡」に続いて提供されたのは、5種類の前菜。鯖の燻製、秋の白和え、根菜のきんぴら、木の子のキッシュ、ほうれん草の玉子焼きが並びます。和食や洋食などのジャンルにとらわれずに、旬の素材を味わえる料理が提供されるのが特徴です。
大根や人参などの根菜を使った「大地の恵スープ」。野菜のうまみが凝縮された、とろりとしたスープは、体が喜ぶ味わいです。お好みで生七味や柚子胡椒を加えて、味の変化を感じるのもおすすめなんだそう。
続いて登場したのは、毎月変わるという豆腐料理の「蓮根豆腐」と「路代おばあちゃんの逸品」。
蓮根の味わいがたまらない蓮根豆腐と、里芋と青菜を使った路代おばあちゃんの逸品はどちらも優しい味付けで、素材のうまみを感じます。
路代おばあちゃんこと長野路代さんは、スローフードの達人。毎月料理長がレシピを聞き、コースに取り入れているとのこと。「大地の恵スープ」やこれから紹介する「十穀鍋」に入れてもおいしい柚子胡椒や生七味も、路代おばあちゃんから学んだレシピなのだそう。地域の伝統食も大切にした内容です。
魚料理の「鰆の幽庵味噌焼き」の後には、メイン料理の「十穀鍋」が登場。だしの香りが食欲をそそる一品で、丁寧にだしをとったスープと十穀のうまみがたまりません。スープが絡んだ、ごぼうやねぎなどの野菜、九州産の豚肉が入った鍋は、言わずもがな美味。
だしの旨味が身体中に染み渡り、思わず無言で箸を進めてしまいました。「茅乃舎だし」のファンなら必ず食べてほしい一品です。
釜で炊いたご飯には、卵をかけて卵かけご飯に。さらに納豆のお味噌汁、季節の香の物と日本の伝統を感じるラインナップで、お料理は終了。お味噌汁もだしが効いており、ほっとするお味でした。
コースは、メイン料理を選べる芽(めぶき)コース(¥6,000)や期間限定の水炊きコース、特別な日に利用したいコースまで、さまざまなコースが提供されています。旬の素材を使っているため月替わりでメニューが変更されており、リピーターも多いのだそう。
取材時には、デザートとして昨年・今年と大人気だった「和栗のモンブラン」も登場。こちらは、御料理 茅乃舎内にある喫茶スペース「茶舎」で季節限定で提供されている一品です。
中にはキャラメルナッツのミルクアイスが隠れており、ナッツと栗の風味のコラボレーションを楽しめます。底部分のクッキー生地のほろほろとした食感もクセになります。なお、残念ながら2023年の販売は終了しており、現在は「タルトタタン(珈琲付)」(¥1,950)を提供中です。
喫茶では、ネルドリップで淹れた茅乃舎オリジナルのコーヒーや季節限定のデザート、ランチメニューを提供。こちらは予約不要のため、ランチタイムやお食事後のティータイムに利用するのもおすすめです。
四季を感じる風景も同時に楽しんで
「御料理 茅乃舎」では、春には桜、5〜6月紫陽花、6月には蛍、秋には紅葉と四季を通して、里山の景色を楽しむことができます。レストラン前の川に蛍が飛び交い絶景となる6月頃は、とくに予約が取りづらいシーズンなのだそう。予約は2か月前の1日から可能です。
また、4名から最寄駅までの無料送迎車(定員9名・要予約)の利用が可能ですので、遠方からも気軽にアクセスできますよ。
「モノ言わぬモノに モノ言わす モノづくり」という信念のもと、手間ひまかけたおいしいモノを提供し続ける久原本家グループ。
茅乃舎だしの原点といえる「御料理 茅乃舎」は、遠方からでも何度も訪れたくなる魅力が満載のレストランです。福岡を訪れた際は、ぜひご自身の舌でその素晴らしさを確かめ、「おいしいね」と笑顔でお食事をお楽しみください。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- まつだあや
- EDIT :
- 小林麻美