雑誌『Precious(プレシャス)』12月号では、特集「奥能登、心整う癒しの湯宿へ」と題して、漫画家・文筆家・画家・東京造形大学客員教授のヤマザキマリさんとともに、能登半島の宿「湯宿 さか本」を深堀り。

長い海外生活を通して、渇望し続けた入浴へのあくなき欲求を作品に昇華させたヤマザキマリさんの「風呂愛」はまだまだ止まるところを知らず…。

今回は、私たちの心をも満たすお風呂周りのお話とともにヤマザキさんの「風呂愛」についてうかがいました。

ヤマザキマリさん
漫画家・文筆家・画家・東京造形大学客員教授
1967年生まれ。フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史と油絵を専攻。イタリア人比較文化研究者の夫との結婚を機に、エジプト、シリア、ポルトガル、アメリカで暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回漫画大賞を、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。著書に『プリニウス』(とり・みきとの共著/新潮社)、エッセイ『ヴィオラ母さん』(文藝春秋)、『猫がいれば、そこが我が家』(河出書房新社)など。新刊に『扉の向う側』(マガジンハウス)。

ヤマザキマリさんの「風呂愛」をひもとく!

【いい風呂があるところに癒しがあり、人が集まる】

(c)ヤマザキマリ/KADOKAWA
(c)ヤマザキマリ/KADOKAWA

ヤマザキさんの漫画『テルマエ・ロマエ』第6巻の最終章。ハドリアヌス帝が亡くなる前、「ローマ人ならば大事な話は風呂で」と、自分の保養地にルシウスを招き、風呂を共にする感動的なシーン。

ローマ五賢帝のひとり、ハドリアヌス帝の命を受けて、ローマ軍の行く先々で快適な浴場(テルマエ)を造っていく設計技師のルシウス。漫画『テルマエ・ロマエ』では、兵士たちが温泉で傷を癒やし、体力を回復して、また戦いに戻るというシーンが繰り返し描かれている。「古代ローマでは、帰還した兵士を労うためではなく、明日への士気を高め、また戦場に送り出すための浴場でした。温泉を掘り、出なければ水を通して沸かす。テルマエなくしてローマ帝国の拡張はなかったのです」とヤマザキさん。

ただ温泉を掘ったあとは、属州の住民たちにも温泉を提供し、ローマにシンパシーを抱かせる役割もあったとか。「皇帝たちは、ローマから程近い東京と熱海のような立ち位置に、高級温泉リゾートを造り、屋敷も立ち並びました。温泉は人間の太古の療養法であり、癒しなのです」。まさにローマ人の力の源は、浴場にあり!「ローマに浴場が増えたのは、商人が旅でベスビオ火山近くを通過するとき、岩盤浴をする人を見つけ、やってみたら体によかったので、都市部にも造ったからともいわれています。ほかにも英バースや独バーデンバーデンなど古い温泉はありますが、ローマ人は施設としてインフラを整備するのが得意だったのですね」

【一日3度の入浴で探究を重ねる入浴剤選び】

多忙を極めるにもかかわらず、一日3回のペースで入浴するというヤマザキさん。どうりでお肌もツルツルで、心のゆとりも感じられます。「忙しいときほどまめに入浴して、脳内が浄化される感覚を味わう」のだとか。入浴時には、いただき物も含めておびただしい数の入浴剤が試され、気に入ったものは、知人に配ることも。温泉で好きな泉質はパワフルな硫黄泉だけれど、自宅の湯船では疲れをとるだけでなく、香りのよさや湯触りの柔らかさ、美肌効果など、心地よさが優先されます。そこで目下のお気に入りを教えてもらいました。

お風呂_1
『ムーンバスソルト』500g¥14,300(エスティ フィロソフィ〈オスキア〉)

「天然のアロマと、とろりとしたお湯に癒やされる」。ロンドン発のオーガニックでラグジュアリーなバスソルト。温浴効果の高いヒマラヤンソルトやエプソムソルトにココナツミルク等を配合。

お風呂_2
『温素 白華の湯』(医薬部外品) 600g ¥1,202(アース製薬)

とろみのある極上の湯触りを追求。乳白色のお湯で、ほんのり優しい香りが浴室を包む。

お風呂_3
『マグマオンセン 別府(海地獄)』(医薬部外品) 500g ¥3,300(ケンプリア)

地獄めぐりで有名な別府温泉の約98℃もの硫黄鉄の温泉水を粉末化した、本物の温もり。

【温泉リポーター時代の激烈な取材魂は今も!】

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温泉リポーター時代のヤマザキさん。氷点下風呂に入ったり、高温風呂から冷水風呂へ移動したりと体を張った取材が人気で、当時、北海道ではすでに有名人。温泉の知識はこのとき、身についた。(c)STV

シングルマザーとなってイタリアから帰国。「北海道でさまざまな仕事をした30代前半、札幌テレビの番組『どさんこワイド』で5年間、温泉リポーターを務めていました」。この間、北海道と東北圏の温泉はほぼ制覇。

「ただ取材は過酷で、2泊3日で6〜7か所を巡り、湯中りは必至。ニセコ山系を土砂降りの雨のなか、自転車で走りながら即興で歌わされたり、泥温泉で泥パックをしたり…」。でも体当たりのリポートは大人気。現在も新刊『テルマエ・ロマエ』の取材中。秘湯を含む国内外の温泉を巡る旅を気合いで乗り切ります。

【自宅風呂ではクラシックな石けん派】

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石けん150g 左から/甘く爽やかなレモン・ハニーサックルなど『イリリア』・繊細なフローラル『ファボリト』各¥2,530(ルック 専門店事業部〈クラウス ポルト〉)

ポルトガルで130年以上前から伝統的製法でつくられる石けん。好きなのはワイルドモスの『レオンヴェルデ』。写真のふたつのほかにレモン・バーベナの香り『バーニョ』も好み。

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『サヴォン・スゥペールファン』150g 左から/モス系の香りが好きな『リケン・デコス』¥4,950・名前を見て買わずにはいられなかった『サモトラケのニケ』は残念ながら販売終了(ビュリージャパン〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉)

「香りがよく、パッケージにも心惹かれる」のが「ビュリー」。

実は石けん派のヤマザキさん。「使っているうちに形が崩れて親しみがわいてきます。温泉で小さくなったのを見つけると、愛おしくなる。石けんには石けんの人格のようなものがあるなあと」

長く石けんを使い続けて、違いがわかるヤマザキさんが「いちばん泡立ちがよく、キメが細かい!」とイチ推しするのが、ポルトガル在住時代から愛用する「クラウス ポルト」。

「不思議なほど、石けんを使うのが楽しみになるんです。パッケージのデザインも素晴らしい」。ほかにも「置いてあるだけでモチベーションが上がる」という「ビュリー」など。「大切な石けんは子供には使わせません(笑)」

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

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PHOTO :
小池紀行(CASK)
EDIT&WRITING :
藤田由美、 古里典子(Precious)
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