雑誌『Precious』では「My Action for SDGs 続ける未来のために、私がしていること」と題して、持続可能なよりよい世界を目指す人たちの活動に注目し、連載しています。

今回は、「マックス」代表取締役社長 大野範子さんをご紹介します。

大野範子さん
「マックス」代表取締役社長
(おおの のりこ)大学卒業後、香料の会社を経て、1999年に『レモン石鹸』で知られる老舗化粧品メーカー「マックス」に入社。’09年、父の後を継いで5代目社長に。『素あわシリーズ』『やまとコスメティック』『The Bar』などの開発を実現。

脱プラ、CO2削減、地域創生──個人と社会の課題に挑む化粧品メーカー

大野さんが、家業である化粧品メーカー「マックス」の社長に就任したのは36歳のとき。その5か月後、MBA取得のために2年間通ったビジネススクールを卒業した直後に、子宮頸がんに罹患していることが判明する。その後も再発と転移を繰り返し、5度にわたる闘病を経験。抗がん剤のために髪が抜け、肌は荒れて、入浴後は頭皮や体の皮膚がひどく痛んだ。

「ふたりにひとりはがんになる時代で、同じ悩みで苦しむ方も増えている。だからこそ、わが社で、肌の荒れを抑える商品をつくりたい。体が治ったら絶対やるんだ、と」

「泡立ちがよい」と「短時間で洗い流せる」という、技術的には相反するテーマを苦労の末に実現し、『素あわシリーズ』という敏感肌のための洗浄料を世に出した。

大野さんが掲げた「お客様の悩みを解決する」という理念は、個人の悩みから、社会課題へと範囲を広げていった。工場をおく奈良県と、近畿大学、複数の生産者と協業し、オール奈良のご当地コスメ『やまとコスメティック』も開発。さらに、日本が後れをとっている脱プラを目指し、固形シャンプー(※)の開発にも取り組んだ。

「試作品は500種類以上。製造過程で水を使わないので、液体シャンプーと比較すると99%の節水になります。固形シャンプー1個の使用回数は液体ボトル2本分なので輸送コストも低く、CO2排出も抑えられる。サステイナビリティと液体シャンプーを超える品質の両輪で、衰退する石鹸産業に風穴を開けられれば」

病を経験し、働ける喜びを実感したからこそ、「定年後もライフスタイルに合わせて働ける、生涯就労が可能な会社にしていきたい」と語る。道はまだ続いていく。

【SDGsの現場から】

●『The BAR』は長年培った技術の結晶!

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シャンプーやコンディショナーを固形化した商品。3in1も。容器がなく脱プラ+省スペース。

●ご当地コスメの開発を通じて地域創生に尽力

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近畿大学での講演風景。産学官民連携のオール奈良でつくったコスメシリーズなどを話題に。

※固形シャンプーとは…製造時の節水や、容器にプラスチックを使わないなどの特徴により、環境に配慮した製品としてヨーロッパでは一般的に浸透している。

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PHOTO :
香西ジュン
EDIT&WRITING :
剣持亜弥、喜多容子(Precious)
取材 :
木佐貫久代