東京都目黒区に位置する日本美のミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」。本ホテルが有する東京都指定有形文化財「百段階段」では、季節ごとにさまざまな企画展を実施しています。
現在は、「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」を2024年12月1日(日)まで開催しています。
幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師の月岡芳年(よしとし)が、月にまつわるさまざまなモチーフを描いた100枚の揃物「月百姿(つきのひゃくし)」から、前後期で20点を展示。さらに、さまざまなジャンルの現代アーティストが表現する月と建築とのコラボレーションも楽しめます。
内覧会に参加したPrecious.jpライターが、本展示の様子を詳しくレポートします。
東京都指定有形文化財でお月見体験!ホテル雅叙園東京「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」鑑賞レポート
■1:月岡芳年が描いた浮世絵で月を鑑賞/十畝(じっぽ)の間
まずは「十畝(じっぽ)の間」から。この十畝の間と「清方(きよかた)の間」では、月岡芳年が描いた「月百姿」の数点を鑑賞できます。
月を描いている画もあれば、絵の中に月はないけれど、登場人物の視線の先に月があることを想定している画のように「描かれなくとも月の気配を感じる作品」もあり、芳年の表現方法の巧みさに感心してしまいます。
こちらは「竹取物語」をテーマにした作品。かぐや姫が月から来た使者たちと雲に乗って月に帰る様子が描かれています。よく見ると、枠外に絵が飛び出ているなどおもしろい要素もあるのです。ぜひ間近でじっくり鑑賞してくださいね。
鮮やかに浮かび上がる浮世絵も。浮世絵をワーロン紙に出力し、後ろから光を当てているそう。なんとも贅沢な灯りです。
2024年11月6日(水)から実施される後期展示では、こちらの作品の本物を鑑賞できます。
■2:紫式部が描かれた「石と月」をテーマにした展示/漁樵(ぎょしょう)の間
文化財「百段階段」の中でもっとも豪華絢爛と言われる「漁樵の間」へ。目の前にあらわれたのは大きな月と美しい色彩。月岡芳年の「石山月」をモチーフにして作られた、“水と月”をテーマにした展示です。
「石山月」に描かれているのは、石山寺で月を眺めている紫式部。このときにある一節が浮かび上がり、『源氏物語』の構想が生まれたそうです。
存在感たっぷりの月は、灯り作家の高山しげこ氏による和紙でできたもの。前回の企画展「和の灯り」でも高山氏の月の作品が展示されていましたが、今回はさらに大きい直径1200mmです。
月の凹凸は、漉き上がったばかりの和紙にシャワーの水を当てる「落水(らくすい)」と呼ばれる伝統技法が用いられています。
月の模様は絵の具や墨ではなく、黒い和紙を重ねているそう。一つひとつの工程に時間をかけながら丁寧に作られた月が温かみのある光をまとっています。
水をテーマにした、ゆきあかり氏の繊細なガラス作品も。じっと眺めていると、静かな雨の日の音や蛇口から水が滴り落ちる音など、さまざまな水の音が聞こえてきそうです。
■3:五感を刺激される幻想的なお月見/草丘(そうきゅう)の間
「草丘の間」に入ると、まず感じるのがススキの香り。そして、ここでも大きな月が存在感を放っています。
こちらは現代的なプロジェクションマッピングの月です。約3分間のインスタレーションが始まると、風でススキの穂がサワサワと揺れ、月の模様が徐々に変わっていく様子を楽しめます。
虫の音や揺れるススキの穂から、目には見えない生き物たちの存在を感じます。一緒にお月見をしているような不思議な感覚に浸ることができます。
ススキ畑の中には通路があり、中に入って撮影も可能。浮世絵の登場人物になったような感覚を体験できます。
■4:月のさまざまな表情を感じ取れる/静水(せいすい)の間
「静水の間」では、現代アーティストが表現した月の展示や芳年の浮世絵とのコラボレーションエリアが設けられています。
岩谷晃太氏は日本画「月と稲妻」を「空間を閉じ込めるような気持ちで描いた」と言います。漆黒の中に浮かび上がる月と雷鳴が聞こえてきそうな稲妻から、美しさを感じると同時に畏怖の念も抱いてしまいます。
奥の間に進むと、芳年の「月明林下美人来」をモチーフにした展示が。「月明林下美人来」は、明代初期の詩人・高啓(コウケイ)の漢詩『梅花』の一節が用いられていると言います。
隋の時代に、中国広東省の梅の名所・羅浮山(らふざん)を訪れた超師雄という男は、ある月夜の晩に芳しい香りを漂わせる美しい女性に出会いました。女性から酒席に案内された超師雄は、酒を飲みながらいつしか眠ってしまいます。
目が覚めると女性の姿は見えず、傍には大きな梅の木が……。このエリアでは、そんな超師雄が体験した不思議な一夜を再現しています。
奥には女性のシルエットが見えます。床の間に展示された「月明林下美人来」とあわせて『梅花』の世界を体感してくださいね。
■5:月や水、土や人々のエネルギーを感じる/星光(せいこう)の間
「星光の間」のテーマは「夜の礼拝 ーWORSHIP OF THE NIGHTー」。”土地に寄り添い、土地と人々を結ぶ”活動をしている現代作家の伊藤咲穂(さくほ)氏は、各地に滞在し、採取した土や砂を作品に取り入れた土地の生命を礼拝する作品を神社に奉納しています。
本展示では、出身地の島根で過ごした子どもの頃に月と話をした原体験と月から感じる引力、自分たちがいる地球と月とが呼吸しあって融合している姿などを和紙で表現しています。
作品を俯瞰で見たり、作品の世界に入り込んで月や水などの粒子を感じたりしているうちに、自分の輪郭があやふやなような、かえってくっきりしてくるような不思議な感覚を覚えます。さまざまな月を体感し、自分は観客ではなくこれらを構成する一部なのだと感じさせてくれるでしょう。
■6:時代を超えた師弟のコラボレーション「月岡芳年と鏑木清方」/清方(きよかた)の間
近代美人画の巨匠と言われる鏑木清方による「清方の間」。耽美な展示が多いイメージですが、今回はシンプルに「月岡芳年と鏑木清方」がテーマです。
というのも、清方の師である水野年方(としかた)は、芳年に師事していたという事実があり、ふたりは年方を挟んだ師弟関係にあったのです。師匠の名前の一部を譲り受け、「芳年」→「年方」→「清方」となったと言います。
また、清方の父らが主催した『やまと新聞』の挿絵を芳年が描いていたという縁もあり、幼い頃から清方は芳年の姿を目にしていたそうです。
欄間などに清方の美人画が施されたこの部屋に展示されているのは、「十畝の間」と同様に、芳年の本物の浮世絵。月は描かれていないものの、松の影を描くことで月の存在を感じられる「名月や畳の上に松の影 基角」をはじめとする5点を鑑賞できます。
こちらはワーロン紙に出力したもの。「金時山の月」は、月の下で相撲をとっている猿とウサギを金太郎が見つめている様子が描かれています。金太郎の優しい眼差しとかわいらしさが印象的です。
この 「金時山の月」を含めた5点は、後期展示で本物を鑑賞できます。
■7:芳年の力量をパネルで再確認/頂上の間
階段を99段上り、いよいよ最後の「頂上の間」へ。
「月百姿」の100点がパネルで展示されており、改めてその数に圧倒されます。月にまつわる物語をテーマに描かれていますが、知らない物語の方が多いくらいです。芳年が歴史やさまざまな物語に精通していたことがよくわかります。
160年の歴史を持つ高橋工房による復刻木版画の展示も。伝統的な技術で古版木(こはんぎ)を修復し、「月百姿」を現代に蘇らせてくれました。
頂上の間の展示を見終えたら、改めて各部屋を訪れ、芳年の世界観に触れたくなりますよ。
アフタヌーンティーでお月見も!
1F「New American Grill “KANADE TERRACE”」では、本展示の開催にあわせた「月アフタヌーンティー」を提供しています。
「うさぎマカロン」や「かぼちゃと海老の白玉 みたらし風」など、月をモチーフにした8種類のスイーツと3種のセイボリーにフリーフローで楽しめるドリンクが付きます。企画展のチケットとセットのプランもあるので、鑑賞後にじっくり展示を振り返るのもいいですね。
本アフタヌーンティーの利用は、15:00~17:30(L.O.)の90分制。2024年11月15日(金)までの提供です。ご予約など詳細は、公式サイトをご確認ください。
文化財「百段階段」の部屋をめぐりながら、それぞれが表現する「月」を鑑賞する豊かな時間を過ごすことがでる本企画展。
「月百姿」の画は、全体を俯瞰でみるのももちろんいいですが、近くで鑑賞することで着物の柄や人物の髪の生え際のリアルさなど、芳年の筆遣いを感じることができますよ。
問い合わせ先
- ホテル雅叙園東京
- 「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」
- 開催期間/〜2024年12月1日(日)※後期展示は2024年11月6日(水)〜
- 開催時間/11:00〜18:00(最終入館17:30)
- 休館日/2024年11月5日(火)
- 料金/大人 ¥1,600、大学生・高校生 ¥1,000、中学生・小学生~中学生 ¥800
- TEL:03-5434-3140(イベント企画 10:00〜18:00)
- 住所/東京都目黒区下目黒1-8-1
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- TEXT :
- 畑菜穂子さん ライター
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- EDIT :
- 小林麻美