さて前回、箱根の温泉旅館に妙齢男性と出かけた私ですが、その際感じた違和感は思いのほか糸を引き……5年以内に必ず再婚するぞと祈りを込めて申請した紺色のパスポート(5年間有効)もむなしく、まだ身も心もシングルです。

オトナになってのデートで辛いのは「わぁ、こんなの初めて♪」と言えない自分。「JANU東京? アソコはウエルネスがいいよね!」、「え、白トリュフ? うん、今年はもう2回食べたかしら」なんて言う女が可愛らしく見えるわけがありません。いわゆる“あざとかわいい”系なら本音をグッと飲みこんで、「さすが~」「しらなかった~」「すご~い」「センスいいんだね」「そうなんだ~」という女の“さしすせそ”を駆使できると思うのですが、残念ながらコチトラ、歯に衣を着せられない江戸っ子家系なのでした。

というわけで、今はもっぱら外へ目を向けています。東京より地方へ。日本より外国へ。視野を広くもてば、世界には知らないこと、経験したことのない“初めて”がたくさんあふれていますから。なにせ、男は35億いるんですもんね(さすがに古いか)。

空港
シチリアへは直行便は飛んでいません。往きはミュンヘン、帰りはローマを経由して飛びました。

というわけで、今回向かったのは、イタリアはシチリア島です。ここを訪れるのは“初めて”ではなくて、通算で……3回目かな。最初は映画『ゴッドファーザー』のイメージが強く、マフィアが多いのかと不安に思っていましたが、もちろんそんなことはありません。太陽と、ワインと、オリーブと、新鮮なシーフード、そしてあたたかい人たちと出会え、いつも新たな発見がある、極上のデスティネーションなのです。

美女が醸すワイン「ドンナ・フガータ」

シチリア産のプレミアムワイン「ドンナフガータ」の創業家&オーナーの一族
左から、「ドンナフガータ」創業家のガブリエラ・ラッロさん、6代目となる孫のガブリエラ・ファヴァーラさん・娘のジョゼ・ラッロさん。

いくら孤独な私と言っても、何の伝手もなくシチリアを訪れたわけではありません。今回、私を招待してくださったのはこの3人の美女。左から、ガブリエラさん、孫娘のガブリエラさん、娘のジョゼさんは、シチリア産のプレミアムワイン「ドンナフガータ」の創業家&オーナーの一族です。

シチリア島の西岸部にあるマルサラで、小規模でも上質なワインを持続可能な生産方法で作ろうと「ドンナフガータ」を立ち上げ、現在は中西部のコンテッサ・エンテリーナ、南東部のヴィットーリア、北東部のエトナ、そしてシチリア本島とアフリカ大陸の間の地中海に浮かぶパンテレリア島にブドウ畑を持ち、イタリア国内ならび世界へワインを輸出しています。

その知名度は「フェラーリ」(トレントのスパークリング)、「ベルルッキ」(フランチャコルタのスパークリング)に次ぐ3位という調査結果もあります。1位、2位ともにスパークリングですが、3位の「ドンナフガータ」だけスティル(泡のない)ワインですから、こちらがどれほどポピュラーな存在なのか、推して知るべしですよね。

シチリア産のプレミアムワイン「ドンナフガータ」など
2018年には「ドンナフガータ」のエチケットを展示する「Inseguendo Donnafugata」展がミラノの博物館「ヴィラ ネッキ カンピリオ」で開催されています。

この「ドンナフガータ」のワインは、エチケットの美しさも人気の理由のひとつ。そもそもドンナフガータとはイタリア語で“逃げる女”という意味なのですが、この名前はさかのぼること19世紀初頭、ブルボン王朝のフェルナンデス4世の妃であったマリア・カロリーナが、ナポリで起きた革命を逃れてシチリア島へ逃げてきたという歴史にちなんでつけられました。そのため、エチケットにも女性が多く描かれています。

“初めて”に出会える島、パンテレリア

パンテレリア島と「ドンナフガータ」の自社ブドウ畑
 

さあ、ここからは今回の旅で出会った“初めて”にフォーカスしていきましょう。まずは「ドンナフガータ」が自社ブドウ畑をもっているパンテレリア島。こちらは、地中海のシチリアと、アフリカ大陸チュニジアのボン岬の間にあるイタリアの火山島。面積は約83平方キロメートル、人口はおよそ8,000人という小さな島です。

シチリアの州都であるパレルモより、チュニジアのほうが近く、晴れた日には遠くにアフリカ大陸がかすんで見えるほど。日本ではまだあまり知られていませんが、ジョルジオ・アルマーニが別荘を構えるなど、ファッションデザイナーやセレブリティが頻繁に訪れるリゾートアイランドです。

「ドンナフガータ」のブドウ畑
土砂流れや強風を防ぐため、工夫を凝らされている「ドンナフガータ」のブドウ畑。

火山島で傾斜の多いパンテレリアでの「ドンナフガータ」は、土砂の流れを防ぐため溶岩石の壁で区切られた小さな段々畑でブドウを栽培。また、周囲の海から1年中強風が吹きつけるため、樹の周囲にコンケと呼ばれる窪みを作って、ほぼ地面と垂直にブドウがなるよう、低く植えています。

このユニークな栽培方法「アルベレッロ・パンテスコ」はユネスコの無形文化遺産にも指定されていますが、斜面に作られた畑には機械が入ることができないことから、すべての作業が手作業で行われているんだそう。真夏には40度を超えることもあるシチリアで……いや、大変そうだな。

ワイン「ベン・リエ」とブドウのジビッボ、ジビッボをワインに醸造する前のジュース
右はジビッボをワインに醸造する前のジュース。さわやかで美味!

今回の旅で“初めて”出会ったワインはこちらの「ベン・リエ」。パンテレリア島産のジビッボ100%で造られた「ドンナフガータ」のパッシートです。ジビッボとは日本でマスカット・オブ・アレキサンドリアとして知られているブドウ。数十年前は現在のシャイン・マスカットのように高級な食用ブドウとして人気でしたね。

また、パッシートとは、収穫したジビッボに日光と風を当てて乾燥させ、糖度を高めたドライレーズンでつくるワイン。甘口のためデザートワインして飲まれることが多いのですが、今回は「ベン・リエ」2008年から2022年まで5種のヴィンテージをフードペアリングしながら楽しみました。単純な甘さではなく、酸味や複雑な熟成香もあり、食中酒としてのポテンシャルを感じます。中華料理なんか合うんじゃないかしら。

映画『インフェルノ』のロケ地としても使われたというパンテレリア島のケッパー畑。右はフィコディインディア。
映画『インフェルノ』のロケ地としても使われたというパンテレリア島のケッパー畑。右はフィコディインディア。

さらにこちらも“初めて”でしたが、ケッパー(ケイパーとも言いますね)について。日本ではスモークサーモンの添え物のように扱われ、瓶詰めになっているものにしか出会えませんが、イタリアでケッパーと言えば、シチリア、とくにパンテレリア産が高級品として有名です。その形状から、何らか植物の果実だと思っていましたが、実はフクチョウボクという低灌木の花のつぼみなんだそう。

中央の写真ほど大きくなっているものを酢漬けにしてプロシュート(生ハム)やチーズに添えたり、小さなものを塩漬けにしてパスタソースに加えると美味です。さらに、右の多肉植物もよく見かけたのですが、こちらはフィコディインディア(インドのいちじくの意)という名前。食用にもできるとのことで、ジェラートを食べてみましたが、水っぽく、甘さも中途半端でイマイチでした。

海に面したテラスが気持ちよい人気ジェラテリア「Il Gelato di Ulisse」。
海に面したテラスが気持ちよい人気ジェラテリア「Il Gelato di Ulisse」。

ではケッパーは?と、街中で行列していたジェラテリアでケッパーとチョコレートのアイスクリームを食べてみたのですが、これは美味しかった! 塩漬けされたケッパーの塩味と濃厚なチョコレートのマリアージュが絶品でした。

シチリア島の名物として知られるカンノーリとパンテレリアのキス
シチリア島の名物として知られるカンノーリ(左)はイタリア語で「小さな筒」の意味。パスタを揚げたような生地にリコッタチーズベースのクリームを詰めています。

甘いものの話になったので、ついでにもう1品。シチリアのスイーツと言えばカンノーリ(写真左)が有名ですが、今回初めて出会ったのはパンテレリア名物の「Bacio Pantesco(パンテレリアのキス)」(写真右)。サクッと軽い食感のフリッター生地にリコッタチーズのクリームがたっぷりサンドされたスイーツは「ベン・リエ」などパッシ―トとも好相性でした。

「パンテレリア・ドリーム」の客室、インフィニティプール、ある日の朝食。
「パンテレリア・ドリーム」の客室、インフィニティプール、ある日の朝食。

そうそう、宿泊した宿「パンテレリア・ドリーム」についてもご紹介しておきましょう。ダムーゾと呼ばれるドーム状の屋根のヴィラタイプの客室が46室ある、比較的大規模なリゾート。サイズは15mと中規模ですが、かなり深い(不用意に入っておぼれそうになった)インフィニティプールと、レストランも備えられています。フルーツとシャルキュトリーがたっぷりいただける朝食もおいしかった。

収穫されたブドウとブドウ畑から見えた虹、ブドウのなる木
 

旅の終わりにはシチリア島に戻り、正真正銘“初めて”であるエトナを訪ねました。火山の麓であるエトナは今注目のワイン産地。主要品種であるネレッロ・マスカレーゼの畑を訪れていたら、シチリアには珍しく雨が降ってきました。そして、その後に大きな虹が!

シチリアで雨に降られた人はもう一度、シチリアに戻ってくるという言い伝えがあるのだそうです。ということは……4度目のシチリア、そして2度目のエトナもきっとあるはず。

何度訪れても新たな発見を見出せるよう、やわらかな心と広い視野を持ち続けていたいと思いました。

【取材協力】

ドンナフガータ
URL:https://www.donnafugata.it/en/

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女性ファッション誌や富裕層向けライフスタイル誌、グルメマガジンの編集長を歴任後、アマゾンジャパンを経て独立。得意なジャンルに食、酒、旅、ファッション、犬と馬。
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秋山 都