身長156cmのインテリアエディターが、おすすめのアイテムを実際に体験しながらレポートする本連載。今回は、MoMAコレクションにもなっている名作家具『BKFチェア』をご紹介します。

ミッドセンチュリーのポップアイコンとして若者に愛されるも、1980〜90年代に生産停止。2005年にスウェーデンのクエロ(CUERO)社が、軽やかでありながらラグジュアリーなラウンジチェアとして再生産を開始しました。時代のニーズに合わせて柔軟に変化してきたデザインの魅力に迫ります。

過熱した人気が原因で、数奇な運命をたどった名作

『BKFチェア』は、1938年に3 人のアルゼンチン人建築家がブエノスアイレスで設計した、集合住宅用にデザインされたもの。そのイニシャル(アントニオ・ボネット、フアン・クルチャン、ホルヘ・フェラーリ・ハードイ)をとって名付けられました。

まるで蝶が羽ばたいているかのような優雅なその容姿から、『バタフライチェア』の愛称でも知られています。

家具_1,北欧_1
ポップアイコンとして一世を風靡した『BKFチェア』。

1950年代から60年代にかけて若者たちに圧倒的に支持され、ミッドセンチュリーの豊かなアメリカの暮らしを描いたビジュアルにも数多く登場している有名な椅子です。

イギリスの土木技師が1885年にデザインした、木とイタリアンレザーで作られた折り畳み椅子『トリポリーナ』から着想を得た軽量で理にかなった構造で、1941年にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)のコレクションに収められました。

家具製作の著作権を持っていたメーカーが独占的に製作販売をしていましたが、当初から不正コピーが溢れていました。それに対して訴訟を起こすも失敗に終わり、多くの国でさまざまなメーカーによって生産されるように。ヒッピーたちに愛用された1960 年代を経て、やがて大量生産されるようになると、安価な値段で入手できるようになり、一般家庭のティーンエイジャー向けの椅子としての需要も高まりました。

そしてブームが去ると中古市場に有り余るほど流通し、その結果80~90年代には生産が途絶えてしまいます。私自身、オレンジ色のキャンバス地のものを実家で使っていたにもかかわらず、その存在をすっかり忘れていました。

『BKFチェア』
プライベートで訪れた名建築・葉山加地邸で『BKFチェア』の美しさに再会!

待望の復刻版は、最高級レザーでラグジュアリーにアップデート!

そんな『BKFチェア』を、2005年に良質な本革を用い一回り大きなサイズで復活させたのが、スウェーデンのクエロ社です。輸入家具が高騰している現在でも、約17万円というお手頃な価格帯で販売されています。

家具_2
【ブランド】クエロ 【商品名】BKFチェア ブラウンレザー/3.5mm厚 【写真仕様の価格】¥169,400 【サイズ】幅850×奥行き900×高さ900(mm) 【材質】本体:ソリッドスチール、ベジタブルタンニンレザー

北欧市場におけるラムレザーなどの革の衣料メーカーとして1987年に創業した同社は、皮革の縫製に精通しており、座った人の体重で革が伸びることのない計算され尽くした曲面をもつ『BKFチェア』の快適な座り心地を実現、インテリア業界への進出を果たしました。

使用されている最高級のレザーは、イタリア製。熟練の職人による特殊な技術が必要とされる通常の手法よりも手間のかかる方法でなめされたベジタブルタンニンのレザーは、イタリアのいくつかの小さな皮革なめし工房が連携して工程を進め、クエロ社に納められています。

家具_3
左/経年変化を楽しめるブラウン。右/端正な印象のブラック。

有機的な形状がかもし出すリラクシーな雰囲気と極上のかけ心地

大きくゆったりと腰掛けることのできる『BKFチェア』。大柄な人なら素直に座ってくつろげるのですが、私のように少々小柄な体型だとまっすぐ座ると大きすぎて、背がつくまでに距離があり心もとない気持ちになる場合も。

家具_4
浮遊感のあるデザインが軽やか。直線の多い室内での存在感は抜群!

そんなときは、斜めに座るのが断然オススメ! オプションの枕を組み合わせれば、オットマンがなくても足をあげて極上のくつろぎ時間を過ごせます。また、広めの座面であぐらをかいてゆったり過ごすのも、浮遊感があって特別なかけ心地でした。

家具_5
斜めに座るとすっぽりと包み込まれ、まるで巣にいるような感覚でくつろげます。
家具_6
オプションのピロー(¥15,950)は、背板の左右どちらにでも引っ掛けられ、高さも調節可能。

小さな扉や狭い階段でも運びやすい組み立て式も魅力

セカンドリビングや寝室などにラウンジチェアを置きたくても、搬入の都合で諦めている方も多くいらっしゃいます。その点、『BKFチェア』は組み立て式でコンパクトな箱に収まっていて、開梱設置をお願いすることも可能です。

家具_7
後ろから抱えると一人でも気軽に持ち上げられる重さ。

ただ、模様替えや引っ越しなど今後のためにも自力で組み立てられるようになっておくと、少し手間はかかるもののより愛着も湧くかと思います。実際に私も試してみました。

家具_8
一人でも革を持ち上げることはできますが、手前から被せたり骨組みに沿わせたりするのは二人のほうがスムーズ。
家具_9
引っ張る際は、かなりの力が必要に。脚のフレームがずれて外れないよう押さえてもらうと楽でした。

唯一無二のスタイリングが魅力!「リグナテラス東京」

『BKFチェア』を発見した「リグナテラス東京」のショールームは、インテリアセレクトショップの醍醐味でもある“ミックススタイル”を体感できるディスプレイで見応えがあります。

家具_10
北欧の老舗メーカーからカッティングエッジなブランド、無垢の一枚板まで自在にコーディネート!

実店舗での取り扱いが少ないアート寄りのイタリアン照明ブランドや、日本発のグローバルブランドなどが、人気の北欧ブランドとコーディネートされています。外部のインテリアスタイリストではなく、インテリアに精通しているスタッフさんが私物のスーツケースやぬいぐるみなども含め、唯一無二の世界観でワクワクするインテリアに仕上げているのも素敵です。


今回は、10万円台で極上のくつろぎ時間を授けてくれる名作『BKFチェア』をご紹介しました。色味やかけ心地など、ぜひ「リグナテラス東京」のショールームで実物を試してみてください。

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

関連記事

この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM