感情的になって、周囲と気まずくなってしまった経験はありませんか?
失礼な発言に腹が立って謝罪を求めたら変な噂を流されたり、約束を破られて注意したら逆ギレされたり……。たとえ相手に非があっても、冷静さを欠いたまま行動すると自分の評価を下げやすいです。
怒りの感情をコントロールするための心理教育・アンガーマネジメントに詳しい、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんによると「怒らないではなく、怒りの感情と上手に付き合う」ことが大事なのだと言います。
頭にくるようなことをされたり言われたりしたとき、どうすれば感情的にならずに済むのでしょうか。とっさの怒りをやりすごして冷静さを取り戻せる方法と、怒りの感情とうまく付き合うためのコツを、安藤さんに教えていただきました。たとえ怒ってしまっても自分を責めず、コツコツと改善を目指しましょう。
カッとなっても感情的にならず一瞬で冷静になれる方法6選
■1:好きな曲のサビを思い出す
気分が良いとき、知らず知らずのうちに鼻歌を歌っているという人は多いことでしょう。好きな曲に耳を傾け、リズムに合わせて体を動かすのも気持ちが良いものです。身近にある音楽は、怒りの感情をコントロールする際にも活用できるのだとか。
「怒りのピークは長くても6秒と言われています。この怒りのピークを切り抜ける際に効果的なのが、好きな曲のサビを思い出すこと。このほかに、ゆっくり6秒数えるといった方法もあります」(安藤さん)
カッとなった勢いで、怒りにかられて行動するのは厳禁です。売り言葉に買い言葉でお互いにヒートアップしてしまいそうなときは、大好きな曲のサビを心の中で口ずさんでクールダウン。怒りのピークを切り抜けれられれば、鼻歌まじりに対応する気持ちの余裕が生まれるはずです。
■2:身近にあるものを観察する
日常生活において、つい感情的になってしまう場面はさまざま。家族や友人との会話中、仕事の電話やメールなど、ついイラっとしてしまう瞬間はありますよね。
そのイライラを相手にぶつけてしまい、ギクシャクしてしまったという経験はありませんか? ときには相手の発言が引き金になって過去の経験を思い出し、怒りを感じるなんてことも……。
「目の前にあるものをひたすら観察して、怒りから意識をそらしましょう。未来や過去ではなく、今この場所のことだけを考えるのがポイント。たとえば、目の前に花が飾ってあったら『花びらは8枚だ』『オレンジ色に近い黄色だ』『ガラス製で重そうな花瓶だな』といった具合です。この手法を『グラウンディング』と言います」(安藤さん)
グラウンディングを行なう際に観察するものは、机に置かれたカップや持っているペンなど、なんでもかまいません。
数や色、材質や温度など、見慣れたものであっても、意識を釘付けにしてみると意外に考えるネタがあるもの。そうして怒りから目をそらせば、怒りの感情が膨れ上がるのを防ぐことができます。スマホの情報を見るよりも、怒りの感情と関係ない、目の前の無機質なものに意識を向けるのがおすすめです。
■3:自分との会話で頭を切り替える
映画や漫画の中で、登場人物が困難な状況に陥ったとき、「私ならできる」「これくらいいつも乗り越えてきた」などとひとりごとを言って自分を鼓舞する場面が、割とよくあります。なんとなく「フィクションだから」「コミカルな演出でしょ」と考えがちですが、実はこれも怒りを切り抜けるのに有効なテクニック。
「キレそうになったら、自分との会話で頭を切り替えましょう。自分を落ち着かせる、あるいは励ますフレーズを口にしたり、頭の中でつぶやいたりすることで、怒りが増幅するのを防ぐことができます。気分が落ち着く、または勇気づけられるフレーズであれば、言葉は何でもかまいません」(安藤さん)
イライラしたときには「大丈夫、大丈夫」「何とかなるさ」「落ち着いて」のほか、恋人やペットの名前でもOK。自分を励ますフレーズなら「絶対にいける!」「ここを切り抜ければもっと伸びる」「後々で経験になることを今体験しているんだ」など、気持ちを盛り上げる力強い言葉を選びましょう。
必要なときに言葉が思いつかないといけないので、あらかじめフレーズを決めておくのが大切。状況と精神状態に合わせて準備しておけば安心ですね。
■4:クールダウンする時間をつくる
スポーツで試合の流れが悪くなったとき、監督や選手がタイムを求める場面を目にしたことがあるでしょう。
たとえば野球では、ピッチャーの精神状態が乱れると投球に悪影響を及ぼすことがあるため、キャッチャーや周りの選手たちが声を掛けてサポートし、ピンチを切り抜けます。わずかな時間に少し声をかけるだけでも、悪い流れを変えるきっかけになるということです。
「アンガーマネジメントでは『ラン』つまり逃げるという戦略を最初に学びます。トラブルに巻き込まれる前に危機回避を優先して逃げるほうがよい、ということです。怒りに振り回されそうになったら、散歩や軽い体操などリラックスできるような行動をして、気持ちを落ち着けましょう」(安藤さん)
相手がいる場所で怒りを感じたら、一旦その場を離れてクールダウンすることが大事。このとき不信感を与えないよう、戻る時間をしっかり伝えるとよいでしょう。
「夫婦間や社内で意見が対立するような場合には、スポーツのように、あらかじめタイムアウトのルールをつくっておくこともおすすめです」と安藤さん。あくまで自分の都合で席を外すというスタンスを忘れてはいけません。
交渉や議論は、良好な人間関係を保ちつつ、お互いの意見をすり合わせる場。ついつい勝ち負けで考えてしまい、相手を論破しようとしてしまうという人は注意しましょう。
■5:怒りを数値化する
毎朝の服装はその日の気温によって、薄着にしたり、コートを羽織って暖かくしたり調整をしますよね。天気予報の降水確率を参考に、傘を持って出るか、折りたたみ傘にするかを決めることもあるでしょう。このように、人はさまざまな尺度や数値をもとに物事をコントロールしています。
怒りの感情にも同じことが言えます。「自分の状態を客観的に数値化すると冷静になれます」と安藤さん。つまり怒りの尺度がないと、怒りの感情をうまくコントロールできないのです。
「イライラを感じたら、その怒りが10段階でどのレベルなのかを評価しましょう。尺度の目安は、自分の感性で決めてしまってOK。まずは練習として、過去に経験した怒りを10段階で数値化していきます。自分の怒りのレベルを知ることで、怒りを客観的に見られるだけでなく、レベル別の対策が取れる、押し込めてしまっていた怒りに気が付く、怒りの傾向がわかるといったメリットがあります」(安藤さん)
怒りの尺度の目安は、以下のとおり。
1~3レベル=不愉快。イラっとした状態。
3~6レベル=腹が立つ。前面には出ていないが、相当な怒りを感じている状態。
6~9レベル=爆発寸前。怒りが前面に出て、我を忘れそうになっている状態。
10レベル=最大級。震えが止まらないといった、怒り爆発に達する状態。
頭の中でレベル分けするほか、メモ帳やスマホアプリなどを活用して、怒りを感じた際の事実を記録するのも効果的です。
■6:思考停止する
過去の出来事を思い出してイライラし、怒りがエスカレートしていった経験は、誰にでもありますよね。親しい人に愚痴を聞いてもらっているうちに、あれもこれもと不満が湧いてきて、止まらなくなってしまうことも。同じ境遇で、不満を共有してくれる相手なら尚更ヒートアップしがちです……。
「怒りへの対処で、思考の切り替えよりも有効なのが思考停止。ですが、人間は考える生きものなので、思考停止にはトレーニングが必要です。
そこでおすすめの方法が、頭の中で真っ白な紙をイメージすること。このときイメージするのは、黒板や一面の砂浜などでもかまいません。大切なのは、一色の具体的なモノで頭をいっぱいにして、怒りを発生させた出来事について考えるのをやめることです」(安藤さん)
頭の中の思い浮かべたゴミ箱に怒りを捨てるという方法もあります。紙くずを丸めてゴミ箱に投げ入れるイメージで、イライラする気持ちを捨てて、フタをしてしまいましょう。
いずれの方法も、怒りを感じた出来事を思い返すのではなく、イメージの力を借りて怒りを手放すことで、思考の暴走を食い止めるのに役立つのだそうです。
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最後に、怒りの感情と上手に付き合うためのコツを安藤さんに教えてもらいました。
まずは、ストレスを上手に発散すること。軽めの運動や時間を決めて趣味に取り組むことで、健康的にストレスを発散できます。逆にNG対応については、「愚痴を繰り返すと怒りの記憶を定着させてしまいます。やけ酒もNG」とのこと。趣味に取り組むのも、時間を決めずにダラダラ続けると疲れてしまうので、注意が必要です。
気分に左右されないよう、許せる・まあ許せる・許せないの許容範囲を見直すことも大切なのだそう。自分の中で許せる~許せないの許容範囲を固めておけば、その場で抱いた感情への対策を立てられます。
また、自分では変えられず、さほど重要でもないことに対する怒りは手放すというのも手。「自分で変えられる/変えられない」「重要/重要ではない」というふたつの軸で怒りを整理することで、手放すべき怒りを見極めることができるでしょう。
アンガーマネジメントの心得は、あくまでも怒らないではなく、怒りの感情と上手に付き合うことです。とっさにできるものから日々の取り組みで改善していくものまで、怒りをコントロールする方法は多種多様。できるところから少しずつ改善して、プライベートでもビジネスシーンでも、よりよい人間関係を築いていきたいですね。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 上原純