ビジネスで何か伝達・確認事項があるとき、昔は重要なことであれば「電話」が好まれていましたが、今では相手の時間を奪わないように、電話でなく「メール」にしたほうがいいという考え方も出てきています。

さらに、「”定型的な挨拶不要”を双方がOKであれば、「チャット」を使うことも考える」という新しい礼儀の是非についても、昨今話題になりました。

ますます難しくなってきた、仕事をするときの電話、メール、チャットの使い分け。日本接客リーダー育成協会 印象営業(R)ファシリテーターの丸山紀美代さんに、現状とヒントを教えていただきました。

■1:ビジネスコミュニケーションで使われるツールが変化している

今、ビジネスコミュニケーションはどのようになっているのでしょうか。丸山さんが現場で感じる現状を話してくれました。

ミーティング中の男女

「社内」ではビジネスチャットツールがメインになりつつある

「社内において、メインのコミュニケーションツールは“ビジネスチャット”といった企業も非常に多くなってきています。メールのように形式にこだわる必要がなく、話をしているように秒速でやり取りができるので、変化やスピードを要求されるIT業界では、特にその傾向が強いです。ファイル添付、画面キャプチャ共有、Web会議など、ビジネスに便利な機能も充実しています」

「お客様」とのやり取りはメール・電話が主流

「お客様とのやり取りは、まだまだメールや電話でのやりとりが主流ではないでしょうか。その背景には、礼儀を重んじる・証跡(エビデンス)を残す・セキュリティポリシー・ITインフラ環境などの事情があります」

「絶対の正解」はない

「企業を超えてコラボレーションする機会が増えた今、企業によって慣習やルールも違い、絶対の正解はなくなっているように思います。従来の礼儀だけにとらわれず、コミュニケーションの本質を考えて、ツールを選択する時代になってきているでしょう」

■2:チャットのほうが、メールよりも相手の時間を奪わない?

チャットのほうがメールよりも「お世話になっております。〇〇です」などの挨拶不要で、会話口調で気軽にやり取りができます。今の時代、電話やメールで相手の時間を無駄に奪わないように、相手に合わせてチャットにすることも必要だという考え方もあります。やはりチャットが推奨されるのでしょうか?

パソコンに向かう女性の手元

「チャットとメールどちらがいいかは目的や優先事項、T.P.O.によって変わると思います。そして、コミュニケーションで一番大切なのは、どう相手の心を動かし、行動をしてもらえるかだと思います。そのために、相手が心地よく、かつ、時間がかからず、コミュニケーションロスがないやり方を選択するのがいいでしょう。コミュニケーションコストの考え方です。

メールの文章をきれいに体裁よく書くことも大切ですが、それにこだわるあまり、余計な時間がかかって連絡が遅れたり、文章が長すぎて伝えたいポイントがぼやけてしまったりしては、もったいない。そうならないためには、ビジネスマナーの基本を押さえた上で、そこからもう一歩進めて、双方の目的を再確認した上で、どのツールを使うか合意を取ることをおすすめします」

IT業界で働いていた勤務経験のある丸山さんがプロジェクトマネージャーだったときには、プロジェクト開始時に、プロジェクト関係者全員でコミュニケーションルールの合意を取ったのだそう。

つまり、「普段のメンバー間のやり取りは、スピード重視なのでチャット」「お客様とのやり取りはお客様事情に合わせてメール」といった具合に、目的と使用ツールを確認し合ったということです。

■3:電話、メール、チャットの使い分けはどうするのがいい?

電話、メール、チャットの使い分け、2018年の現状では、具体的にどのようにするのが理想でしょうか。

スマートフォンを使用する女性の手

対処法A:メールやチャットは、受け取る側の相手の時間帯を考慮する

「基本は内容の緊急性によって使い分けることですが、大切なのは、相手の時間帯を考慮することです。各社働き方改革に取り組んでいます。残業が当たり前ではないですし、さらに先進的に、いつでもどこでも働く環境を社員に提供している企業もあります。

何かの何気ない会話の中で、相手の働き方を聞いてみるほか、それができない場合でも、ビジネス関係のメールやチャットは可能な限りビジネスアワー内で送り、『返信は休日明け/明日/出勤後にお願いいたします』といった、ビジネスアワー内での返信を促す一言を添えるのが望ましいでしょう」

休日中に返信メールを書いてしまった場合、保存しておいて、休日明けの午前中に送る、などの配慮ができると、一目置かれる存在になれそうです。

対処法B:「相手の優れている感覚」に合わせてコミュニケーションを取る

「応用編として、NLP(Neuro Linguistic Programing)という、人間心理とコミュニケーションに関する学問について少しだけご紹介します。この中でよく使われる考え方にVAKモデルというのがあり、視覚(Visual)、聴覚(Auditory)、身体感覚(Kinesthetic)のどの感覚を強く感じるかは、人によって異なるとされています。

相手の優位感覚を知り、相手のその感覚に合わせてコミュニケーションを取ることで、今まで以上にスムーズなコミュニケーションを取ることができるようになります。

例えば、視覚の強い人はイラストや画像で伝える、聴覚が強い人には電話で伝える、身体感覚が強い人には会って伝えるなど。その見極めはなかなかむずかしいですが、“自分はどうだろう”と考えてみると、わかりやすいかもしれません。例えば私は、何かを説明するとき、つい図を書いて説明しようとする傾向があります。それは、私自身が視覚(Visual)で伝えたほうが、相手に伝わりやすいと感じているからでしょう。あなたの場合、いかがででしょうか? どの感覚で情報を取り入れるのが好きですか?」

今、仕事で頻繁にコミュニケーションをしているお客様がいる人は、その方がどの感覚でのコミュニケーションが好きか、長けていそうか、想像してみると、よりよく対応する手段が見えて来るかもしれません。

新時代のコミュニケーションに必要なのは、どのツールでも「感謝の言葉」を伝えること

新時代の「礼儀の境界線」が問われる中、ツールに関係なく「これは気を付けたほうがいい」という大事なポイントを、丸山さんに挙げていただきました。

スマートフォンを持つ人たち

「もはや、固定化された人たちと仕事をする時代ではなくなっています。そこで大切なのは、知り合ってからできるだけ早く信頼関係をつくることです。そのために、対面でも、どのようなツールでも感謝の言葉を何度も伝えることが大切。心の中で思っているだけでなくきちんと伝えることで、心理的安全性をつくり、それがコミュニケーションの潤滑油にもなります。

そして距離感がつかめてきたら、T.P.O.に合わせて、クスッと笑える話題をスパイスとして入れるのもいいでしょう。40~50代ならではの、コミュニケーションのしなやかさが醸し出されるはずです」

電話、メール、チャットの使い分けは、高度なコミュニケーションスキルが問われるところといえそうです。さまざまな人がいて、さまざまなツールがある中で、いかに最適なツールを選んで最適なコミュニケーションを取ることができるか?が問われるようですね。

丸山 紀美代氏
丸山紀美代さん
(まるやま きみよ)IT業界とプロコーチの経験を活かし、日本接客リーダー育成協会 印象営業®ファシリテーターとして、企業研修をサポートしています。受講者様が笑顔が溢れ、結果に繋げる研修を心がけ、一人ひとり自らが動き出す会社の文化創りがミッションです!
日本接客リーダー育成協会

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この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利