「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で36年連続1位に選ばれる旅館・加賀屋のマネジメントとは?
石川県、能登半島。風光明媚な能登の里山里海が、日本で初めて世界農業遺産に認定されました。羽田空港から、のと里山空港へはANAで1時間弱。悠々と時間が流れる非日常のリゾートがこんなにも身近に。この能登で112年もの間、旅人を迎えてきた名旅館が、和倉温泉の「加賀屋」です。
「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で36年連続1位という記録を達成。その名を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。若女将を務める小田絵里香さんに、加賀屋流おもてなしを支えるマネジメントについてうかがいました。
疲れた心がほぐれる、豊かな自然と人の温かさ
小田絵里香さん:内海なので、〝冬の日本海〟のイメージはないんですよね。海の目の前に建っていることで、お部屋や温泉からの景色もとても開放的で。私も20代まで東京で働いていましたが、なかなか都会では味わえない非日常ではないかなと思います。お仕事などでお忙しい日々の中でも、季節を感じられる場所。食材も花も生きているなと実感していただけるのではないかと。
小田さん:はい。出会った当初は、まさか老舗旅館の跡取りとも知らず(笑)。私の実家はサラリーマン一家で、家業を営むことの基本のキの字もわからないまま飛び込みました。1年間は客室係をはじめ、さまざまな部署を回って修業の日々。それまで企業のマニュアルで生きてきた私にとって、女将業はまったくマニュアルのない仕事で。義母をお手本にゼロから学びましたね。
小田さん:お客様がもともと想定していたことではなくても、どこかに抱いている旅への期待を想像してそれを具現化できるように、みんなでアイデアや情報を共有していますね。お客様から喜ばれた事例はスタッフルームの壁に貼り出して、いいことだけではなく、クレームも全員に共有します。
小田さん:はい。だれに責任があったのか、本人のスキルが足りなかったのか、事前に相談したら防げたのか、ほかの人たちにも起こり得るならシステムでどうカバーするか…。臭いものに蓋をしてあいまいにするのではなく、しっかり原因分析をしてすぐに対策を練ることでいい循環が生まれると実感しています。
マニュアルでは味わえない、「笑顔で気働き」のおもてなし
小田さん:「お客様の満足は、マニュアル半分。残りは自分の感性や現場の力で100にしよう」と言っています。ホテルではなく、旅館ができることは「文化の継承」。おかげさまで、自分の感動や存在意義を仕事のやりがいだと感じてくれる人が多くて。近年は採用時にも、海外への留学経験があって、日本のおもてなしを学びたいと加賀屋の門を叩く若い人が増えています。一度外に出ると自分に足りないものがわかるようで。
とはいえ、今の若い人は「笑顔で気働き」と言われてもどういうふうにしていいかわからないのが現実だと思います。私たちの時代は先輩の背中を見て学ぶというスタイルでしたが、もう精神論では伝わらないですよね。どうしたらお客様が喜んでくださるか考えるには、経験と感性が必要ですが、それを補うのはやはり同僚たちの事例の共有。属人的になってしまいがちな「おもてなし」を〝見える化〟すると、チームとしての力も向上します。
そして、いいサービスだと感じたり、自分の仕事を手伝ってもらったときに社員同士が渡し合う「スマイルカード」も導入して表彰を行っています。お互いに褒め合うことで、喜びをさらなるモチベーションにしてくれているようです。
お客様のご要望は本当にさまざまですが、「できません」「わかりません」と安易に答えるのではなく、何かお応えできることはあるはずだと努めています。孫くらい年の離れた係と話が進むこともありますし、東北の方には東北出身の者を、お酒好きな方には盛り上げ上手な者を…というように、お客様のデータを見ながら担当をマッチングしています。到着されてからお客様の様子を見て、変更することもありますね。
人は財。教える、叱るだけでなく、共に喜び、ときには抱きしめて共に泣くことも同じくらい大切だと私自身学びました。人手が潤沢とは言えない田舎で、スタッフの平均勤続年数が長いのはありがたいことですが、次の場所を求めて辞めていく子がいたとしても、「もしいつか、ひとりで子供を抱えて生きていかなくてはならなくなったら、また帰っておいで」と送り出しています。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 宮島直史
- EDIT&WRITING :
- 佐藤久美子