9月の東京を皮切りに、全国6都市で公演される舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』。堤真一さんと中村倫也さんによる二人芝居は、軽快な掛け合いの会話劇と、次々と転換する場面が楽しみな作品です。対談の最終回は、楽しさも恐ろしさも知り尽くしたふたりにとっての「舞台」とは。

【堤 真一さん・中村倫也さん対談|Vol.1】をよむ
【堤 真一さん・中村倫也さん対談|Vol.2】をよむ

堤 真一さん
俳優
(つつみ・しんいち)1964年生まれ、兵庫県出身。数多くの映画、ドラマ、舞台に出演し、受賞歴多数。舞台では、デヴィッド・ルヴォー、蜷川幸雄、野田秀樹、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、ジョナサン・マンビィ、リンゼイ・ポズナーら演出の作品に多数出演。そのほか近年の主な舞台出演作に『みんな我が子』、『帰ってきたマイ・ブラザー』、『カラカラ天気と五人の紳士』、『A Number─数』、ドラマ『ミワさんなりすます』、『舟を編む〜私、辞書つくります〜』、『大阪激流伝』などがある。2025年は映画『室町無頼』、『木の上の軍隊』、11月公開の『旅と日々』に出演。10月よりNHK朝のテレビ小説『ばけばけ』に出演する。
中村 倫也さん
俳優
(なかむら・ともや)1986年生まれ、東京都出身。2005年俳優デビュー。2014年『ヒストリーボーイ』で舞台初主演。そのほかの主な舞台出演作に『黄昏』(06)、『バンデラスと憂鬱な珈琲』(09)、劇団☆新感線 41周年興行秋公演・いのうえ歌舞伎『狐晴明九尾狩』(21)、MUSICAL『ルードヴィヒ 〜Beethoven The Piano〜』(22)、『OUT OF ORDER』(23)がある。近年は、映画『ミッシング』、『ラストマイル』、『あの人が消えた』、ドラマ『Shrink−精神科医ヨワイ–』、Amazon Originalドラマ『No Activity』シリーズなどに出演。最新出演ドラマは『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系) 。声の出演をしている映画『ペリリュー –楽園のゲルニカ–』が、12月5日公開予定。

共演相手と「つながった」と感じられる瞬間。それはやっぱり気持ちいい

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左から/堤真一さん、中村倫也さん

何があっても「最後まで行く」のが舞台の醍醐味(堤さん)

――映像でも舞台でも活躍されているおふたりだからこそ感じる、「舞台の醍醐味」を教えてください。

中村さん(以下敬称略):役者の動き、位置取り、照明や音楽、美術…といったものを、シンプルな構造の舞台の上で、どれだけ見せられるか。それはすごくやりがいがあります。それに、1ヶ月間準備して、稽古して、トライ&エラーして、スクラップ&ビルドをして、削ぎ落としたものをお客さんの前で披露して、拍手をいただき、お辞儀をして捌(は)ける。――なんていうか、すごく健全だなと思います。
映像作品には編集や演出があって、それによって伝わるものが変わってくることもあるけれど、舞台にはありません。それが生の怖さでもあるけれど、それだけに、やる側として得られるものは大きいんです。

(以下敬称略):醍醐味というと、舞台には「NGがない」こと。映像なら、間違えたらもう1回やり直すのが当たり前。何回もNGを重ねているうちにどんどん気持ちが落ち込んでいくし、一生OKが出ないんじゃないかと思ったりすることもありますけど(笑)。舞台は間違えてもとにかく進めなきゃいけない。それが、僕にとっては面白いんです。もちろん、間違えてパニックになるときもありますよ。それでも、出演者みんなでなんとか乗り切っていくのも、すごくいい。

たとえ間違えたとしても、その日のお客さんしか体験できないものを提供できる。以前、ある俳優さんの長ゼリフが完全に飛んだことがあって、どうしようかと思ったけど、なんとか続けて。当人はもちろん、舞台にいた全員が冷や汗でした。
でも、その公演を見た人からは、「あれほど客と役者が一体になった回は、貴重だった」と言われたことがあって。もちろん役者は間違えないことが前提ではあるけれど、何か起きたとしても、生でやっているものだから、どれもNGではないんです。舞台のよさは、それでもとにかく「最後まで行く」というところ。それが、自分に合っていると思います。

舞台に出る前はずっと怖いけど、この「怖い」が好きなんです(中村さん)

インタビュー_2
中村さん衣装/Tシャツ¥12,650・ジャケット¥51,700・パンツ¥29,700(すべてLAD MUSICIAN<STUDIO FABWORK>)、その他スタイリスト私物

――今回の舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』の終盤、ロバートが「この瞬間で全て報われる」と語ります。では、おふたりが舞台のなかで「報われる瞬間」はどんなときですか?

堤:舞台そのものが評価されたり、拍手をもらうのは、もちろん幸せです。一方で、演じながら相手とどこか違う次元で「つながった」と感じられる瞬間があって、それはすごく気持ちいい。イギリスの演出家、デヴィッド・ルヴォー(注※)と一緒に舞台をやっていたとき、「見せようとしない!」「お客さんはお前を見に来てるわけじゃない」とよく言われました。観客は、役者個人を見ているわけではなくて、役と役との関係性を見に来てるんだと。人と人とが交わっている時間が貴重だというわけです。こうしたことを厳しく、徹底的に叩き込まれたのは、今思うといい体験でした。
一方で、劇団☆新感線や野田秀樹さんの舞台に出たときの、めっちゃ解放されたような気持ちよさもあるんだけどね。

注※デヴィッド・ルヴォー/堤さんが21 歳のときに出会って大きな影響を受けた演出家。

中村:見せるよさ、でしょうか。

堤:そう。どちらが正しいというものでもないですけどね。

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「だから、舞台はやめられない」(堤さん)

中村:報われる瞬間…いくつかありますけど、ひとつは、最後に拍手をもらって、お客さんに挨拶をするとき。そしてもうひとつは、アクシデントです。僕が変わっているのかもしれないけれど、アクシデントがあった瞬間、すごいワクワクするんです。

堤:他人がやらかすぶんにはいいけど、自分だったら、もう…。

中村:自分だったら心臓バクバクするし、もうトラウマレベルで寝付けなくなることもあります。それに舞台に出る前はずっと怖いですけど、でもこの「怖い」が好きなんです。

堤:はぁ、そうなんだ。

中村:はい。「怖い」ほどわくわくしてくる。

堤:そうかもしれないね。それに面白いもので、ほかの人がパニックになるほどに、自分はどんどん冷静になっていくんですよね。

中村:わかります。そして舞台上で超能力かのようにテレパシーが発動するんです。

堤:このパニックをどうやって乗り切ろう、何を言おう、どこに進もう…って瞬時にいろいろ考えて。さっき話したハプニングのときも、フォローすべきじゃないところも自分からフォローしてたし、不思議と冷静だったな。フォローすべきなのにずっと下を向いてる人もいたけど(笑)。

中村:(笑)それも含めて、舞台は面白いんですよね。

堤:ああ。だから、舞台はやめられない。


■舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』9月上演開始!

現代アメリカ演劇を代表するデヴィッド・マメットの代表作。大御所俳優ロバート(堤真一)と若手俳優ジョン(中村倫也)のふたりが、舞台上をはじめ楽屋や舞台袖、廊下など、さまざまな劇場空間で、演劇界ならではの人間関係や本音を「二人芝居」で表現する。時間の経過と共に変化していく二人の心理的なパワーバランスは、ユーモラスでありながら時に残酷で…。

【東京公演】9月5日(金)~9月23日(火祝) IMM THEATER
【京都公演】9月27日(土)~9月28日(日) 京都芸術劇場 春秋座
【愛知公演】10月4日(土)~10月6日(月) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【大阪公演】10月9日(木)~10月14日(火) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【愛媛公演】10月17日(金)~10月18日(土) 愛媛県県民文化会館 サブホール
【宮城公演】10月25日(土)~10月26日(日) 多賀城市文化センター 大ホール(多賀城市民会館)

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PHOTO :
高木亜麗
STYLIST :
中川原 寛(堤さん/CaNN)、戸倉祥仁(中村さん/holy.)
HAIR MAKE :
奥山信次(堤さん/B.sun )、Emiy(中村さん)