宿オーナー、フードスタジオ運営・植良睦美さんの「人が集う家」に訪問
緑豊かな公園に程近い、閑静な住宅街。淡い黄色の外壁と石灰岩のタイルが印象的な建物は、4世帯の賃貸住戸をもつ集合住宅です。 その1階の一部と2階、屋上に暮らすのは、オーナーである植良睦美さん。現在は、京都で宿とフードスタジオを運営しています。
植良睦美さんのHouse DATA
間取り…3LDK 家族構成 …ひとり+愛犬 住み始めて何年?…約12年
「さまざまな背景をもつ人たちが自然と集い、語らい、食し、くつろぐ場所。『集落』のような家にしたくて」(植良さん)
「長らく、アメリカの資産運用会社に勤めていました。私がいた金融業界は、どちらかというと論理や数字の世界。だから、プライベートでは感情や感性の世界に身をおきたい。そんな思いもあって、さまざまな人が暮らす長屋のような家に憧れがありました。
ネイティブアメリカンの伝統的集落『プエブロ』にインスピレーションを得る
そんなとき、ネイティブアメリカンの伝統的集落『プエブロ』を訪れ、これだ! と。もともと古いもの、プリミティブなものが好きだったので、大自然のなか、インディアンの文化や精神が息づく集落の暮らしは、まさに理想の形だったんです」(植良さん)
愛犬の散歩がしやすいよう、近所に大きな公園がある土地を選択
愛犬(イタリアングレーハウンドのララと故・ヒメ)を思いきり散歩させたくて、大きな公園の近くに物件を探していた植良さんは、現在の土地に出合い即決。
『ザ・ペニンシュラ東京』や『コンラッド大阪』を手がけた橋本夕紀夫さんが設計
以前の住まいでもリノベーションを手がけたインテリアデザイナー・橋本夕紀夫さんに、設計を依頼しました。
「『ザ・ペニンシュラ東京』や『コンラッド大阪』を手がけた橋本さんは、自然を感じさせる開放的な空間づくりの名手。
『集落』のような家、さまざまなバックグラウンドをもつ人が自然と集い、語らい、食す場所にしたいとオーダーしたところ、一緒にメキシコやサンタフェを旅することに。プエブロのほか、メキシコを代表する建築家ルイス・バラガンが手がけた建物などを巡りました」(植良さん)
外壁の明るい黄色や玄関の赤い扉、柱などにアクセントとして使った石灰岩や温かな色合いのタイル、ウリン材にチーク材。植良邸に自然素材が随所にちりばめられているのは、その旅でイメージを共有したからこそ。
「中庭を中心に、扉はフルオープン。人も犬も(笑)、光や風を感じながら自由に行き来できる点が気に入っています」(植良さん)
また、人が集い、ゲストが思い思いに過ごせるようにと、中庭を中心に配し、キッチン、リビング&ダイニング、バスルームをL字につなげたワンルームという間取りに。
「フルオープンが可能な折れ戸を全開にすれば、部屋と中庭が一体となってさらに開放的になります。キッチンで料理をする人、バスルームに腰かけてワインを楽しむ人、チェアでくつろぐ人、屋上テラスで音楽を聴きながら語らう人…。人も犬も(笑)、光や風を感じながら自由に行き来できる点が気に入っています」(植良さん)
2019年、愛犬のヒメが永眠。中庭の大きな松の木の下に眠っています。
「ヒメもみんなが集う場所にいたほうがいいと思い、盆栽師の平尾成志(ひらおまさし)さんにお願いして、中庭に合う盆栽を探してもらいました。朽ちゆく感じが美しいプランターはドイツ人アーティストのファビアン・ボン・スプレーケルセンの作品。中庭の松を見るたびに、ヒメがそばにいるような気がして、ほっとします」
京都のかまどをイメージしたキッチンにリフォーム
住み始めて12年。愛犬・ヒメとのお別れを機に、キッチンもリフォームしたという植良さん。
「以前は無機質なステンレスのキッチンでしたが、京都の古い家にある『おくどさん(かまど)』のようなまあるい楕円のイメージが浮かび、左官職人・久住有生(くすみなおき)さんに相談。左官造りのキッチンカウンターは、形も手触りも素敵で、想像以上です」
冷蔵庫やオーブンをビルトインに、「菊炭」の包丁は見せる収納に。食器の収納は「新 収納計画」のプランナーに相談し、生活動線に合うよう変更。使い勝手はかなり向上したとか。
「包丁を壁に並べるのはシェフのデルさんのアイディア。発想が大胆ですよね。扉を閉めると隠れます。夜、石ころみたいなカウンターを眺めていると、メディテーションステージのように気持ちが落ち着きます。」(植良さん)
仕事や時間に追われる時代を過ぎ、これからはていねいに、大切な人たちと過ごしたい。角がとれ、人間的にも精神的にも丸みを帯びていきたい。そんな気持ちの表れかもしれません」(植良さん)
植良睦美さん宅のディティールをスナップでご紹介
屋上テラス
玄関・下駄箱のドアに施された木の格子は、着物デザイナー斎藤上太郎さんのサンプル
カラフルなルームシューズは「オルビテックス」のもの
洗面カウンター
書斎では最近習い始めた書道を
造作棚の扉はインドネシアの民家で使用されていたチーク材
バーカウンターには、クラフトジンがずらり
江戸時代の大きな欅の木鉢を使用
屋上のトイレのドアのイラスト
マニュアル車「ポルシェ356」を運転
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- PHOTO :
- 長谷川 潤
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)