宿オーナー、フードスタジオ運営・植良睦美さんの「人が集う家」に訪問

緑豊かな公園に程近い、閑静な住宅街。淡い黄色の外壁と石灰岩のタイルが印象的な建物は、4世帯の賃貸住戸をもつ集合住宅です。 その1階の一部と2階、屋上に暮らすのは、オーナーである植良睦美さん。現在は、京都で宿とフードスタジオを運営しています。

植良睦美さん
宿オーナー、フードスタジオ運営
(うえら むつみ)ロンドンで証券会社に勤務後、アセットマネジメント会社へ。機関投資家の資産運用業務に従事。現在は、旅好き・食好きが高じて、京都にて、宿『伽藍下鴨』、船越雅代フードスタジオ『Farmoon』を運営。

植良睦美さんのHouse DATA

間取り…3LDK 家族構成 …ひとり+愛犬 住み始めて何年?…約12年

「さまざまな背景をもつ人たちが自然と集い、語らい、食し、くつろぐ場所。『集落』のような家にしたくて」(植良さん)

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集合住宅「プエブロ」の住人は、植良さんほか、シェフ兼「菊炭(KIKUSUMI)「ナイフクリエイターのデルさん(右上)、音楽関係者、デザイナーなど。週末は昼から集い、夜まで思い思いに過ごすとか。この日のランチはデルさん作。

「長らく、アメリカの資産運用会社に勤めていました。私がいた金融業界は、どちらかというと論理や数字の世界。だから、プライベートでは感情や感性の世界に身をおきたい。そんな思いもあって、さまざまな人が暮らす長屋のような家に憧れがありました。

ネイティブアメリカンの伝統的集落『プエブロ』にインスピレーションを得る

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家のイメージの原点ともいうべき「プエブロ」で購入した本。

そんなとき、ネイティブアメリカンの伝統的集落『プエブロ』を訪れ、これだ! と。もともと古いもの、プリミティブなものが好きだったので、大自然のなか、インディアンの文化や精神が息づく集落の暮らしは、まさに理想の形だったんです」(植良さん)

愛犬の散歩がしやすいよう、近所に大きな公園がある土地を選択

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植良さんが帰宅すると、ララとゴンがそろってお出迎え。「この瞬間がたまりません! 集合住宅住人・ヤスくんの愛犬ゴンちゃんは、人なつっこくてうちのララともすっかり仲よし。私が出張でいないときはララをヤスくんに預けます。こういうやりとりも集落っぽくて好きなんです」

愛犬(イタリアングレーハウンドのララと故・ヒメ)を思いきり散歩させたくて、大きな公園の近くに物件を探していた植良さんは、現在の土地に出合い即決。

『ザ・ペニンシュラ東京』や『コンラッド大阪』を手がけた橋本夕紀夫さんが設計

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植良邸の玄関扉。「橋本さんのアイディアで鉄に漆を塗ったところ、時間が経つほどに赤が出てきました。朽ちた感じがたまりません」

以前の住まいでもリノベーションを手がけたインテリアデザイナー・橋本夕紀夫さんに、設計を依頼しました。

「『ザ・ペニンシュラ東京』や『コンラッド大阪』を手がけた橋本さんは、自然を感じさせる開放的な空間づくりの名手。

『集落』のような家、さまざまなバックグラウンドをもつ人が自然と集い、語らい、食す場所にしたいとオーダーしたところ、一緒にメキシコやサンタフェを旅することに。プエブロのほか、メキシコを代表する建築家ルイス・バラガンが手がけた建物などを巡りました」(植良さん)

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石の柱がアクセントの寝室。15年ほど前トルコで買ったウズベキスタンの鮮やかな色柄のラグをベッドカバーに。

外壁の明るい黄色や玄関の赤い扉、柱などにアクセントとして使った石灰岩や温かな色合いのタイル、ウリン材にチーク材。植良邸に自然素材が随所にちりばめられているのは、その旅でイメージを共有したからこそ。 

「中庭を中心に、扉はフルオープン。人も犬も(笑)、光や風を感じながら自由に行き来できる点が気に入っています」(植良さん)

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中央の椅子は「BC工房」製。友人のお母様が亡くなった際、別荘にあったものを譲り受けたそう。「この椅子に座って、松の盆栽を眺めるのが至福のとき」。洗面カウンター前の大きなクッションは愛犬ララのお気に入りスペース。

また、人が集い、ゲストが思い思いに過ごせるようにと、中庭を中心に配し、キッチン、リビング&ダイニング、バスルームをL字につなげたワンルームという間取りに。

「フルオープンが可能な折れ戸を全開にすれば、部屋と中庭が一体となってさらに開放的になります。キッチンで料理をする人、バスルームに腰かけてワインを楽しむ人、チェアでくつろぐ人、屋上テラスで音楽を聴きながら語らう人…。人も犬も(笑)、光や風を感じながら自由に行き来できる点が気に入っています」(植良さん)

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屋上テラスへ続く中庭の階段。ゴンも自由に上り下り。
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テラスへと続くダイニングスペースにはレコードプレーヤーが。音楽関係の友人が多く、植良さんの私物ほか、ゲストがレコードを持ち寄ることも。
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中庭を眺めながらゆったりと入浴できるよう配されたバスタブは、世界の名だたるラグジュアリーホテルが採用している「ジャクソン」。特注のモザイクタイルを貼ることで、インテリアとしてのバスルームが完成。シャワーブースは別途完備。
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植良さんがいちばん好きな場所。

2019年、愛犬のヒメが永眠。中庭の大きな松の木の下に眠っています。

「ヒメもみんなが集う場所にいたほうがいいと思い、盆栽師の平尾成志(ひらおまさし)さんにお願いして、中庭に合う盆栽を探してもらいました。朽ちゆく感じが美しいプランターはドイツ人アーティストのファビアン・ボン・スプレーケルセンの作品。中庭の松を見るたびに、ヒメがそばにいるような気がして、ほっとします」

京都のかまどをイメージしたキッチンにリフォーム

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2019年改装したキッチン。左官造りのカウンターでは、各人が自由に料理を。植良さんの愛犬ララほか、集合住宅住人の愛犬ゴン(手前)も、ほぼ毎日(?)植良邸を訪れているとか。食器など、キッチン収納の施工は「ワン クラフト」。

住み始めて12年。愛犬・ヒメとのお別れを機に、キッチンもリフォームしたという植良さん。

「以前は無機質なステンレスのキッチンでしたが、京都の古い家にある『おくどさん(かまど)』のようなまあるい楕円のイメージが浮かび、左官職人・久住有生(くすみなおき)さんに相談。左官造りのキッチンカウンターは、形も手触りも素敵で、想像以上です」

冷蔵庫やオーブンをビルトインに、「菊炭」の包丁は見せる収納に。食器の収納は「新 収納計画」のプランナーに相談し、生活動線に合うよう変更。使い勝手はかなり向上したとか。

「包丁を壁に並べるのはシェフのデルさんのアイディア。発想が大胆ですよね。扉を閉めると隠れます。夜、石ころみたいなカウンターを眺めていると、メディテーションステージのように気持ちが落ち着きます。」(植良さん)

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彩りを添える屏風は、表装作家・麻殖生素子(まいおもとこ)さんの作品。和紙や古裂などの素材を大胆に用いた屏風は現代アートのよう。ダイニングセットは、左官職人・久住さん宅から借りているもの。「キッチンのフォルムに合わせて、楕円形の古木のテーブルを海外から取り寄せ中です」

仕事や時間に追われる時代を過ぎ、これからはていねいに、大切な人たちと過ごしたい。角がとれ、人間的にも精神的にも丸みを帯びていきたい。そんな気持ちの表れかもしれません」(植良さん)

植良睦美さん宅のディティールをスナップでご紹介

屋上テラス

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屋上テラスはくつろぎのスペース。

玄関・下駄箱のドアに施された木の格子は、着物デザイナー斎藤上太郎さんのサンプル

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玄関・下駄箱のドアに施された木の格子は、着物デザイナー斎藤上太郎さんのサンプルを使ったもの。  

カラフルなルームシューズは「オルビテックス」のもの

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玄関に置かれたカラフルなルームシューズは「オルビテックス」のもの。大きなスリッパ入れは青山の「グランピエ」で購入。「手仕事の温もり、風合いが好きです」

洗面カウンター

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洗面カウンターはドイツ製「アラペ」。個性的な水栓はロス・ラブグローブがデザインしたトルコ製「ヴィトラ」のもの。

書斎では最近習い始めた書道を

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「京都の『てっさい堂』のマダムや『和久傳』の大女将からいただいた直筆の手紙がそれはそれは美しく、憧れて。仕事が一段落したのでやっと始められました」

造作棚の扉はインドネシアの民家で使用されていたチーク材

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造作棚の扉はインドネシアの民家で使用されていたチーク材。棚の中は、本や書類ほか、バーカウンター、テレビやパソコンなどを収納。

バーカウンターには、クラフトジンがずらり

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2階のリビング&ダイニングの造作棚内にある、バーカウンターには、クラフトジンがずらり。「ワインも好きですが、後半はジンにシフト。キニーネ入りのトニックウォーターで割ると味が違います」

江戸時代の大きな欅の木鉢を使用

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大きな欅の木鉢は、京都のアンティーク店「Antiques&Art Masa」で購入した江戸時代のもの。

屋上のトイレのドアのイラスト

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屋上のトイレのドアには、イラストレーター小倉靖弘さんの愛らしいイラストが。  

マニュアル車「ポルシェ356」を運転

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2019年の春購入した「ポルシェ356」。「久しぶりのマニュアル車でとにかく手がかかりますが、その不便さが愛おしい。いっそう愛着がわきます」

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PHOTO :
長谷川 潤
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)