KRUG最高醸造責任者ジュリー・カヴィルさんが働くメゾンの歴史とエスプリを継承する場所 

ジュリー・カヴィルさん
KRUG最高醸造責任者
17歳からワインの勉強をはじめ、パリ・ソルボンヌ大学で2年間経営学を専攻。リールの高等専門スクールで3年間ビジネスを学び、パリの広告代理店での経験を経て、2002年家族でランスへ移住。専門学校「BTS」でワインを学び、2006年KRUGに入社。2020年1月、女性として初のシェフ・ド・カーヴに就任。2児の母。

「一歩足を踏み入れるとメゾンが語りかけてきます。歴史を受け継ぎながら挑戦する。私の役割を再確認させてくれます」

シャンパーニュ地方の中心地、ランス。老舗メゾン「KRUG」の初代創業者、ヨーゼフ・クリュッグがヨーロッパ中を旅した末、1848年に居を構えたのがその始まりです。当時はまだ野原だったこの場所にシャンパン工房と住居を建築。その後、2代目、3代目が隣接する建物を買い取り規模を拡大しました。現在、この地で働くジュリーさんは2020年1月、女性初のシェフ・ド・カーヴ(最高醸造責任者)に就任。

「主な仕事場は、ブドウ畑や地下のカーヴ、デスクがあるライブラリーです。敷地内には、ゲストの方をもてなすサロンや離れの瞑想ルームなどもあり、メゾンの世界観を体感できると同時に、長い歴史とエスプリを継承する場所でもあります」

常時250種類以上のリザーブワインが眠る、地下のカーヴ。
常時250種類以上のリザーブワインが眠る、地下のカーヴ。
メインサロン。インテリアを手がけたのはデザインオフィス「AW2」を率いる、建築家ステファニー・ルドゥー。1970年代の木工家具にモダンアートを組み合わせるなど、温もりと大胆さ、伝統と現代性の調和が見事。
メインサロン。インテリアを手がけたのはデザインオフィス「AW2」を率いる、建築家ステファニー・ルドゥー。1970年代の木工家具にモダンアートを組み合わせるなど、温もりと大胆さ、伝統と現代性の調和が見事。
2005年のリノベーションの際、4つの建物をひとつに。黒い屋根とレンガを随所に用いたランスらしい建築様式。6代目オリヴィエ・クリュッグが幼少期まで住居として使っていた建物は、現在ゲストハウスに。
2005年のリノベーションの際、4つの建物をひとつに。黒い屋根とレンガを随所に用いたランスらしい建築様式。6代目オリヴィエ・クリュッグが幼少期まで住居として使っていた建物は、現在ゲストハウスに。
地下のカーヴ。区画ごとに異なる樽で熟成される。定期的にボトルの角度を変えるが、それらはすべて熟練の職人による手仕事。
地下のカーヴ。区画ごとに異なる樽で熟成される。定期的にボトルの角度を変えるが、それらはすべて熟練の職人による手仕事。

とりわけ「サル・デ・キャトルソン・ヴァン(400本のワインという意味)」名付けられたテイスティングルームは大切な空間です。

「メンバーたちと真剣にテイスティングを行い、究極の味を探求します。壁一面に配されたボトルはコンテンポラリーアートのようで、音楽を聴きながらイマジネーションをふくらませます。シャンパンづくりはオーケストラの演奏に似ています。各楽器が調和してひとつの音楽となるように、シャンパンも土壌、ブドウ、天候、つくり手によって毎年の味が違う。

それらをどんな割合で配合させるか。半年後、7年後の風味をイメージしながら、アッサンブラージュする=クリエイションすることは、まさにオーケストラと同じ。キャラクターの強いワインを合わせて、色、香り、味、すべてが調和する瞬間こそが、仕事の醍醐味です」

壁一面にずらりと400本のボトルが配されたテイスティングルーム。美しくアーティスティックな空間。
壁一面にずらりと400本のボトルが配されたテイスティングルーム。美しくアーティスティックな空間。

30年以上使用されている古い小樽に入れ、低温で長期発酵させることでほかのシャンパンにはない複雑でダイナミックな味わいが生まれることから「交響曲」と異名をとるシャンパーニュ「KRUG」。また、館内のインテリアも「ミュージカル」がテーマ。素材や色合わせ、古きよきものとモダンなアートなど多彩なエレメントを調和させた趣のあるミックススタイルです。

ライブラリーの壁には、歴代当主や家族、シェフ・ド・カーヴ、生産者などの写真が飾られている。
ライブラリーの壁には、歴代当主や家族、シェフ・ド・カーヴ、生産者などの写真が飾られている。
館内の花は、契約しているランスのフローリストにより、毎週季節の花材でアレンジ。KRUGの頭文字Kをデザインしたパターンアートは、ガラス職人クレール・ペギスが制作。
館内の花は、契約しているランスのフローリストにより、毎週季節の花材でアレンジ。KRUGの頭文字Kをデザインしたパターンアートは、ガラス職人クレール・ペギスが制作。
ライブラリー前の廊下にあるアートは無限のループがテーマ。アーティストのエリー・イリッシュの作品。
ライブラリー前の廊下にあるアートは無限のループがテーマ。アーティストのエリー・イリッシュの作品。
創設者ヨーゼフ・クリュッグが書き残したシャンパンづくりのノウハウが書かれたノート。メゾン・モワナにオーダーしたレザーケースに収めてサロンに展示。
創設者ヨーゼフ・クリュッグが書き残したシャンパンづくりのノウハウが書かれたノート。メゾン・モワナにオーダーしたレザーケースに収めてサロンに展示。

「一歩足を踏み入れると、メゾンが語りかけてきます。歴史、リュクスの本質、エレガントなディテール。メゾンのヘリテージを継承しながら、モダンなアプローチへの挑戦…。私の役割がなんなのか、再確認させてくれるのです。

新しく建築された「瞑想の小屋」。ゲストが音楽を聴きながらゆっくりとシャンパンを楽しむことができる(室内は撮影禁止)。
新しく建築された「瞑想の小屋」。ゲストが音楽を聴きながらゆっくりとシャンパンを楽しむことができる(室内は撮影禁止)。
プチサロン。床のパッチワークのタピはパリの若手インテリアデザインチーム「Dix sur Dix」。
プチサロン。床のパッチワークのタピはパリの若手インテリアデザインチーム「Dix sur Dix」。
取引先とのアポイントメントがあるときはモノトーンの着こなしと12㎝のヒールのシューズがジュリーさんの仕事スタイル。
取引先とのアポイントメントがあるときはモノトーンの着こなしと12㎝のヒールのシューズがジュリーさんの仕事スタイル。
階段の照明はフィレンツェ発のシャンデリア&照明メーカー「Terzani」の『MIZU』シリーズ。
階段の照明はフィレンツェ発のシャンデリア&照明メーカー「Terzani」の『MIZU』シリーズ。

とくに、館内にある歴代当主や家族、シェフ・ド・カーヴの写真は、私に勇気をくれます。かつて、戦争でランスの街が焼け野原になったとき、創設者ヨーゼフ・クリュッグの孫、ヨーゼフIIの妻ジャンヌ・クリュッグは女手ひとつでブドウを育て、シャンパンづくりを再開、メゾンを存続させました。彼女の写真を見るたびに『KRUG』の強さを感じ、インスピレーションがあふれてくるのです」

ゲストをもてなすランチやディナーは3ツ星シェフのアルノー・ラルモンが監修。
ゲストをもてなすランチやディナーは3ツ星シェフのアルノー・ラルモンが監修。
リビングには、庭でくつろぐゲストのためにブランケットが。
リビングには、庭でくつろぐゲストのためにブランケットが。
庭の一角には木の幹や多肉植物を飾ったテーブルも。
庭の一角には木の幹や多肉植物を飾ったテーブルも。
高い天井と多くの窓が開放的なライブラリー。ジュリーさんのデスクもこの一角に。
高い天井と多くの窓が開放的なライブラリー。ジュリーさんのデスクもこの一角に。
メインサロンのダイニングテーブル。天板にはKパターンと呼ばれるKモチーフが。1970年代の工芸作家、ジャン=ピエール・メスマンが立ち上げた木工工房「Biobject」が制作。
メインサロンのダイニングテーブル。天板にはKパターンと呼ばれるKモチーフが。1970年代の工芸作家、ジャン=ピエール・メスマンが立ち上げた木工工房「Biobject」が制作。
PHOTO :
篠 あゆみ
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)