人生を重ねた大人だからこそ見えてくる、豊かな暮らしとは?をテーマに、雑誌『Precious』編集部が総力取材する連載「IE Precious」。1月号でご紹介していた、デザイン事務所「キュリオシティ」共同設立者・宮元玲子さんのご自宅の様子をお届けします。削ぎ落とされた空間の居心地のよい、お住まいです。

「情報量はできるだけ少なく好きなモノだけを配置。モノが見えないことがいちばん心地よく、くつろげるのです」

宮元 玲子さん
「キュリオシティ」共同設立者 
(みやもと れいこ) 1969年、石川県出身。神戸の大学を卒業後、東京で6年間広告代理店に勤務。1998年、夫であるグエナエル・ニコラ氏とともにデザイン事務所「キュリオシティ」を設立。「ギンザ シックス」やフェンディ、モンクレールなどのストアデザイン、話題の東京・立川「ソラノホテル」や、フルリノベーションによる麻布「オパス有栖川」のコンセプトルームなどを手がける。事務所のマネジメントをはじめ、デザイン以外のすべての業務を担当。
デザイン事務所「キュリオシティ」

モノがないのに殺風景じゃない。むしろ、温もりとくつろぎを感じる空間。すっきりと整っているのに、ちょっとごろん、としたくなるような不思議な居心地のよさがある…。

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廊下の壁一面は収納とトイレ。扉の縦のラインとあえて設けた天井と床のスリットが空間に軽やかさをもたらす。床のスリット部分に設置した温かい色の照明も広さを演出。左の大きな絵はハワイ在住の女性作家Yvonne Cheng(イヴォンヌ・チェン)のもの。おおらかな女性の姿とシンプルな額装が気に入り、ハワイのギャラリーで購入。

「視界に入ってくる情報量をできるだけ少なくしたいので、徹底的に収納して見せないようにしています。逆に、好きなモノは厳選して見せる。私はモノが見えないほうが落ち着くタイプですが、モノに囲まれているほうが幸せな人もいます。家に長くいるのは、ほかでもない自分と家族。自分や家族が心地よいと感じることがいちばん大切だと思います」

そう語るのは、ホテルやクラスブランドのストアデザインなどを手がけるフランス人デザイナー、グエナエル・ニコラ氏の妻であり、彼のデザインスタジオ「キュリオシティ」の共同設立者でもある宮元玲子さん。

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リビングの真ん中に置かれた正方形のソファは4.5畳。
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リビングにある4.5畳の正方形ソファは家族だんらんエリア。大きさの違う天板を特注してテーブル代わりに使用。写真の天板(80×80㎝)はお茶の時間用。

「もともと私の母がモノを捨てる人で、実家もすっきりとした場所でした。その影響もあって、よけいなモノがない=煩わされない、思考がクリアになるという感覚がしみ付いているのかもしれません」と玲子さん。

一方、夫のニコラ氏の実家は大家族ゆえ、敷地内には多いときでテーブルが20卓、椅子は60脚(!)近くあったそうで、その反動でモノがないすっきりとした空間を好むようになったとか。

「夫婦ともに、居心地がよいと感じる価値観が似ているので、この家をフルリノベーションした際は、とにかく収納にこだわりました。机やカウンターにモノが出しっぱなしになっていると『すごくイヤだな〜』と私が猛アピールするので、娘たちはしぶしぶ片付けています(笑)。ただ、彼女たちは、海外ドラマのティーンが住んでいるような、カラフルなアイテムがあふれた、ごちゃっとした部屋に憧れがあるようですが…」

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3.2mもあるダイニングテーブルと、セットのベンチは特注。優しい風合いのオーク材。
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キッチンの床はウッドのようなタイル。
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キッチンカウンターにも大容量の引き出しが。「普段使いの器のほか、ゲスト用の食器もたっぷり収納できます。ただ、主人が気に入った器は毎回、家族+ゲスト+割れたとき用として14点購入するので置き場所に悩みます(笑)」。
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キッチンのカウンターはモンゴルからやってきた御影石。朝食などは、このカウンターで。後ろの棚もすべて収納。
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バスルームは黒で統一。湯桶と椅子は檜。
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黒いタイルにグレーのタオルやバスローブ。ホテルのような美しい洗面所。
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一見、モノが何もないように見えるが、水栓の黒いアルミバーの中に歯ブラシやコスメなどを収納できるつくり。イタリア・アガペ社の『SEN』という商品。デザインを手がけたのは「キュリオシティ」。
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「寝室には黄色い絵が欲しくて友人の画家・平松麻さんにオーダーしました」。ベッドカバーやシーツなどはすべて麻。グレーやパープル、イエローなど色で遊ぶ。スピーカーはバング&オルフセン。

また、モノがなくても殺風景だと感じないのは、絵画や骨董、インテリアの存在も大きいようです。

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東京・二子玉川のアンティークショップ「南方美術店」で玲子さんが見つけた狛犬。「本来は2対必要ですが、鏡に映れば2対かなと思って(笑)。なんだか愛らしくて、気に入っています」
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珍しく(?)ずらりとモノが並んだ1角。「夫婦そろって大きいものが好きなんですが(笑)、唯一、私は香合、夫は水滴を、ちょこちょこと気に入ったモノがあれば集めています。いずれはそんな小さいモノを並べる飾り棚が欲しいかな」
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りんどうを生けているのは経筒(仏教の経典を入れるもの)。「大平新五さんという陶芸家の方が見つけた古陶です。ちょうど蓋の部分が割れていて、花瓶に使えるかも、と思って購入」
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寝室のアートは現代美術家・池田浩氏の作品。
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リビングにある球体オブジェは、作家・松永圭太氏のもの。「形と素材のおもしろさにひと目惚れ。一見、和紙のように見えますが実は焼き物で漆をかけているんです。ずっしりと重いですが、視覚的に直線が多いわが家に、癒しをもたらしてくれます」

「アートや器、インテリアは、旅先やギャラリーで、主人と一緒に『これいいね!』と選ぶことが多いですね。眺めるたびに好きだなぁ、いいなぁと思えるモノが家にあると、気持ちが上がります。

それから、購入するときは、好き! という気持ちをいちばん大切にしています。自分が好きだと思って選んだモノを、どこに置いてどう飾るのかあれこれ考え、そのために空間を整えていくのも楽しい時間です」

「実際の広さよりも『広く感じる』ことが大切。居心地のよさにもつながります」

廊下や壁の天井高いっぱいに設けられた収納のほか、この家には広く見せる工夫が随所に見られます。

「床や壁、扉などの色と質感にはこだわりました。壁や収納扉はほぼ白に見える薄いグレー、床板は木の質感を残しつつ、何度も脱色して微妙な風合いを出してもらいました。面積の多い部分には白を使わず、グレーやベージュなどを用いることで、温もりがあってくつろげる空間に。ソファやダイニングテーブルなども、色味や素材をそろえています」

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壁のアートはフランス人作家・Catia Pessoa(カティア・ペソア)作。「ポルトガルの工房で購入。小さな陶器の花をピンで留めた繊細な作品で、花がみっちり並んだ質感がおもしろく、空間を盛り上げてくれます」

さらなるポイントは、照明。暖色系の明かりで色の世界観を統一することはもちろん、壁に沿って下から照らすことで、より広がりと落ち着きを感じる空間に。

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中国の画家・Chen Jiang-Hong (チェン・ジャン・ホン) の絵画は「この壁にはこの絵がいい!」と夫婦で決定。1枚だけ買うつもりが、搬入時に「2枚持ってきちゃいました」と言われ、飾ってみたらぴったり。「商売上手ですよね(笑)」。手前の椅子は工芸作家・羽生野亜の作品。
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収納は、天井までぎっしりと、ムダなく使用。

「実際のサイズより『広く感じる』ことが大切です。くつろぎや居心地のよさにもつながりますから。そのためには、できるだけ収納スペースを増やし、色や照明の色にこだわるといいと思います」

また、リビングの中央に置かれた4・5畳の正方形のソファも印象的。

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「夫がデザインを手がけたもので、ソファというより部屋そのもの。大きな天板を持ってきて、ここでゆっくりご飯を食べることもあります。ひとりでも家族とでも、ここでくつろぐのが至福のとき」

「テーブル代わりの天板を置いて家族で食事をしたり、川の字に寝転んでテレビを観たり。私も夫もできるだけ家には仕事を持ち込まないようにしています。家では家族とリラックスした時間を過ごしたり、ボーッとしたり読書をしたり、完全オフモードでいたいんです」

宮元さんのHouse DATA

●間取り…3LDK
●家族構成…夫と娘ふたり
●住んで何年?…9年

PHOTO :
川上輝明(bean)
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)