東京・江東区小松川にある「オブジェ デ アート」は、“海外から見た日本”らしいインテリアのスタイリングで定評があり、ほかでは手に入らないアイテムが見つかる稀少なお店として、インテリア業界では有名なギャラリーショップです。また、定期的に国内外のアーティストの個展を企画し共同で新作開発を手掛けているため、企画展のつど足を運ぶ価値のあるお店です。
前回の記事では、私たちの暮らしにあったアンティークやヴィンテージ家具の取り入れかたを探ってみました。そのひとつに「侘び寂び」といった概念を取り入れる方法として、経年した自然素材の表情、アンティークやヴィンテージ家具のもつ時間の厚みを取り入れ、それらを清廉に整えながら使うことをご提案しました。
本記事では海外の作家の作品から“日本らしさ”を感じるアイテムをピックアップ。遊び心を生活に取り込むことで感性を刺激し、未来のヴィンテージを育ててみませんか?
自然素材の在り方を再解釈したサステイナブルな家具
“海外から見た日本”の代名詞でもある「侘び寂び」のイメージは、素材そのものを生かし、経年する様子を使いながら慈しみ清廉に保つことで、現代の暮らしにも取り込むことができます。実は「侘び寂び」のイメージは、現代を生きるクリエイターが避けて通れない「サステイナブルの文脈」とも相性がいいのです。
たとえば、下の写真の大理石とメタル製クッションのコーヒーテーブル。こちらは採石場の片隅に積まれた規格外の大理石の端材の塊を用いたアートのような家具です。手掛けたのは、ベルギーのアーティスト、ベン・ストームズ。片面のみ磨き上げた大理石の荒々しい掘削面が、鏡面仕上げのメタルの表面に映り込み、まるで重力に逆らうかのような不思議な感覚をもたらしています。

素材特性として柔らかくないメタル素材を膨らませクッションのように仕立てたことで、本来は高級素材として珍重される大理石への敬意のようなものを感じさせます。さまざまなパラドックスを内包しながらも実際に家具として使用できる意欲的な作品です。
柔らかな金属で作る、現代の「陰翳礼讃」
海外の建築家の間で最も読まれている日本の書籍の一つに谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」があります。日本家屋の大きな屋根が作り出す影の奥に設置された金屏風の奥ゆかしくも華やかな輝きを思い浮かべてみてください。
ベン・ストームズの作る柔らかなメタルクッションのシリーズは、まさにそういった仄暗い空間やアンティーク・ヴィンテージ家具と合わせることで一層魅力を発揮します。


森で切り株に腰掛けるような自由な心を日常に取り込む

素朴さと洗練された両面の魅力を併せ持つ無垢の木のスツール。台形のベースに長方形の空洞、柔らかなエッジをもつ円形の座面といったシンプルながらも意思のある形をしています。
ベルギーのアーティスト、トーマス・セルイスは、ヴィンテージ家具のギャラリストとしてのキャリアをもち、優れたデザインの美学や機能、素材を追求した作品を制作します。インテリアに森の中の「切り株」をそのまま持ってきたような面白さがありますよね。

地層のような土のオブジェで悠久の時を日々の暮らしに取り込む

地層のような美しい縞模様を描く二つの花瓶は、特定の場所の土壌に一定期間に降った雨の量を詩的かつ親密に表現した作品です。手掛けたのは、綿密なリサーチを基にデザインの感情的な可能性を追求するコンセプチュアルな作品作りをするネル・フェルベーク。
データで測った水分量で土を練り重ねて作ったオブジェは、過ぎ去った時間を具体的に表現しています。それらを日々の暮らしで使うことで過去が今日と明日の一部となり、すでに過ぎ去った時間とまだ与えられている時間について考えるように鑑賞者を誘います。
毎日使う道具の「ズレ」を楽しむことで再認識する文化の深み

コロナ禍で海外との行き来が困難になった昨今。だからこそ新しいクリエイティブが生まれるきっかけになった、シグリット・ヴォルダーズによる茶器や花器をご紹介します。

シグリッドは、ベルギーのアントワープを拠点として、主に雑誌やCMなどの媒体で活躍するヘアメイクアーティスト。趣味で始めた陶芸が人気を博し、注文を受けたそれぞれのギャラリーのイメージで制作する作家でもあります。「オブジェ デ アート」では3、4年前から取り扱いが始まり、彼女が興味を持ちそうな藍染や縄文土器の資料や図録を送るなどして制作をお願いしていたとのこと。
昨年コロナ禍で立ち上がった企画のために、「より日本らしいアプローチ」を模索してもらうことによって手掛けられたのが、私たち日本人に親しみのある茶器。
自然の木の棒や藍染を施した繊維を蓋のつまみに用いた急須、大名物・伊賀焼の「破れ袋」のシルエットのような花器などは、日本の伝統品のエッセンスを感じるとともに、見たことのない形と素材の使い方をしていてとても新鮮に感じました。
もしかしたら実際に来たことがない「今」だからこそ生み出されたコレクションになるのかもしれません。今後、彼女が実際に日本を訪れたら異なった茶器や花器を生み出すかもしれない、という想像を膨らませることができるのも、同じ時代を生きている作家の作品を手に入れる喜びです。
書院造や茶室に見る直線の構造美でつくる「ネオ和室」

オランダのデザインユニット「x+l」(エックス アンド エル)によるサイドテーブル、クッション、アートで作られた、まるで銀閣寺の書院造の内部のような荘厳な雰囲気のこちらのコーナー。
高さ違いのテーブルは組み合わせて使用することもでき、モダンな空間から和の空間まであらゆるシーンに映えるデザインです。もともと舞台や撮影のための美術にバックグラウンドを持つ「x+l」は、天然素材や染め、ハンドメイドによる不完全な美しさをテーマに作品を作っています。
今回は、「オブジェ デ アート」から“日本らしさ”を感じさせる現代アーティストの作品をご紹介しました。
ブランドもののバッグや腕時計のように身につけられるものではなじみのある“セルフヴィンテージ”の文脈を、インテリアでも楽しんでみませんか? サイズや重量や取り扱いなどに、ちょっと勇気がいる面は確かにあると思います。それでもたとえば30年間一緒に年月を重ねても飽きないばかりか、経年した美しさをまとえる魅力的なものに囲まれて過ごす毎日を想像してみてください。
「オブジェ デ アート」では、今後も従来通りアンティークからヴィンテージの家具のご紹介と並行して、取り扱い作家の新しい企画展やコラボレーションによる日本エディションの制作、日本国内の作家も含む新たな取り扱い作家の発掘に力を入れるとのこと。日本家屋の要素を残した空間でお気に入りを探しに行ってみませんか。住み慣れた自宅のインテリアにも新しい魅力を再発見できるいい機会になるかもしれません。
ぜひ、ギャラリーでその世界観の心地よさを味わってみてください。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
問い合わせ先
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Objet d' art(オブジェ デ アート)
営業時間/11:00~19:00
TEL:03-6807-0554 - 住所/東京都江戸川区小松川4-64
※ギャラリーは予約制です。来店希望の方はHPの「CONTACT」からご連絡ください。
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- TEXT :
- 土橋陽子さん インテリアエディター
公式サイト:YOKODOBASHI.COM