手のひらの上で愛でたい、それはもうアート【和菓子の小宇宙】

その歴史は、縄文時代までさかのぼるとされる和菓子。脈々と受け継がれた伝統や技術、日本の四季や風土を映す心を継承しながら、多様な素材やデザインを取り入れ、和菓子は今も、日々進化し続けています。

このうえない口福と美しい佇まいで、至福の時をもたらしてくれる麗しき和菓子たちを、その世界観と共にお楽しみください。

東京・富ヶ谷「岬屋(みさきや)」の晩秋の名菓『残菊(ざんぎく)』

東京・富ヶ谷「岬屋」の『残菊』
『残菊』1個¥378 11月中販売、事前に電話で確認を(電話番号は記事末に記載)。

晩秋の風情を慈しむ、静かで穏やかな時雨菓子

秋の終わりを惜しむように、枯れゆく菊の花を写したという『残菊(ざんぎく)』。茶席菓子を手掛ける東京・富ヶ谷の「岬屋(みさきや)」の、晩秋の名菓だ。

白あんにたっぷりの卵、新粉と上南粉を練り込んだ生地でこしあんを包み、菊の木型で成形して蒸し上げた “時雨しぐれ” 菓子。上南粉を使うことで、雨粒のような粒が現れ、生地のひび割れに流れ込むように見える。そんな姿の生地を “時雨” と呼ぶのだとか。

さらによく見ると、花びらの色は濃淡があり、うっすらと茶色を帯びた部分も見える。これは、白餡生地にわずかにこし餡を混ぜ “ぼかし” を入れることで、枯れゆく花を表現している、とご主人。割れも濃淡も、ひとつとして同じものがないのもまた、この菓子の景色だ。

しっとり、ほろり。口に入れると、上品なあんの甘さと卵の風味が優しく広がる『残菊』。決して派手さはないけれど、静かに、穏やかに佇む姿はこのうえなく美しい。まさに静謐(せいひつ)を味わう、秋の逸品といえる。

※掲載商品の価格は、税込みです。

 

◇お店DATA

住所/東京都渋谷区富ヶ谷2-17-7
営業時間/10:00~16:00
休み/日、月曜(節句、彼岸を除く。夏季休業あり)

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問い合わせ先

岬屋

TEL:03-3467-8468

PHOTO :
川上輝明(bean)
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)
スタイリング :
Chizu