「新しい生活様式」を実践しながら送る日常生活。「なんだか疲れる」と感じたり、ちょっとしたことが億劫になったりすることありませんか?

コロナ疲れとひと括りにしても、感じ方や原因は人それぞれ。住居史の視点でいえば、生活様式が変わるときは、間取りも家具も変容してきました。

例えば、ちゃぶ台がダイニングテーブルに変わったように、これからは家族の団欒を目的としたソファが、疲れた心を癒してくれるような椅子に取って代わるのかもしれません。そこで今回は、156cmのインテリア番外編として、精神科医・産業医の濱田章裕さんと一緒に「心の疲れに効く」家具選びをしてみました。

濱田 章裕さん 
精神科医、産業医、クリエイティブ・カウンセラー
(はまだ あきひろ)精神科臨床に携わりつつ大手企業常勤の産業医として、働く人の心の病の予防に医学的なアプローチで積極的に関わる。クリエイターやアーティストの生活習慣や発想のプロセスに着目し、よりよい状態で創作活動を続けられるよう支援する活動「六本木未来大学クリエイティブ・カウンセリングルーム」も行っている。CYPAR メディカルアドバイザー。東京代官山ロータリークラブ幹事。幼少期からヴァイオリンを嗜み、高校生まではカーデザイナーを目指していた。アート、デザインにも造詣が深く、雑貨屋巡り・猫好きという一面も。六本木未来大学クリエイティブ・カウンセリングルーム

心の疲れを椅子で癒やす!新しい時代の家具選びとは?

心の専門家といえば、精神科医。自分では原因がわからない心の疲れについて、カウチソファに横たわりながら、先生の質問に答えていくうちに気分が晴れるのだとしたら、それはどのような椅子がいいのでしょう。なんとなく椅子によって、話す内容が変わるような気もしませんか?

濱田先生「皆さん勘違いされるのですが、それはカウンセラーが行う心理療法(カウンセリング)に近いですね。精神科医もやらないわけではないのですが、MRIやCTを撮るなどして精神を脳の科学として捉えようとする部分と、問診でお話を伺ったりして、それを心や社会的な問題として捉えようとする部分とを総合的に判断して診断します。

日本の医療現場では薬やカウンセリングを処方するのが一般的ですが、もしかしたら家具を処方する、アートを処方するようなアプローチもあるのかもしれません。

睡眠など一部の分野では研究が進んでいるようですが、良い家具で過ごした時の生体の例えば温度変化や脳波のデータをとるなど、医学的な柱をどう立てるかというのを今後模索していけると、家具を選ぶ新しい根拠ができて説得力が増すのではないでしょうか。

空間デザインやアートが心理・生体に及ぼす影響に関しては徐々に研究され始めていますが、椅子や机といった家具に関する研究は見たことがないですね。

服の次くらいに触れる頻度が高いものですし、ストレス軽減や抗不安作用、良き睡眠を得られる……など心理のみならず身体的・精神的にも影響を及ぼしうるものだと思います。ぜひ何かしらの方法で研究+形にできれば嬉しいです」

精神・心理学的な視点で、心に効く家具の処方箋を探してみよう!

テリトリーの視点から選ぶ、安心感を得られる椅子3選

■1:「D154.2」|モルテーニ

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【商品名】「154.2」【ブランド】モルテーニ【デザイナー】ジオ・ポンティ【写真の仕様価格】¥700,000(税込)【サイズ】幅 1200×奥行 810×高さ 740mm 座面高410mm【材質】張り地:ファブリック/レザー  脚部:スチール ブラッククローム仕上げ
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存在感とベルベットの陰影が美しい「記憶に残る」ソファ。「HOTEL VIU MILAN」のロビーでも使われています。

濱田先生「写真で見た印象よりもずっと大きいですね。肘かけから背もたれにかけて高すぎず低すぎない、この包まれ感が『いい感じのテリトリー』を保持してくれています。

背の真ん中のカーブのへこみがちょっと面白い。花のような、唇のようでもある印象を受けました。

ぐるりと回った縁のディテールも効いています。重くて動かせない分、形状や大きさで自然と距離が取れるので、安心感が得られます」

土橋陽子「モダニズム最盛期の時代にデザインされたのに、カーヴィー。貝殻にインスピレーションを得たという、もともと個人邸用にデザインされた椅子を、モルテーニが復刻したものです。

編集者でもあった、ジオ・ポンティの考える居心地のよさや、生活の喜びが凝縮されています。座っている人を美しく見せてくれることで、優しく接してもらえる効果がある気がします。優美な見た目と、割としっかりとした座り心地のギャップも好きです」

■2:「TAPE」|ミノッティ

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【商品名】「TAPE」【ブランド】ミノッティ 【デザイナー】nendo【写真の仕様価格】¥858,000(税込)【サイズ】幅770×奥行760×高さ745mm 座面高400mm【材質】レザー、ファブリック、メタル
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kashiyama daikanyamaは、建築から家具までnendoのデザインを楽しめます。

濱田先生「シートの真ん中のやわらかさと、周辺の硬さのつくる座り心地に感動。起立時には自然と腰が持ち上がり、億劫なときでもストレスなく立ち上がれますね。サイドがこれくらいの高さだと、威圧感がなく、適度にパーソナルな空間を演出し、ちょうどいいテリトリー感があります」

土橋陽子「TAPEの寸法体系が大好き。ぎっくり腰になったときに、腰痛持ちの方用の椅子を選ぶためにさまざまな椅子に試し座りしたのですが、ベストチョイスでした。

愛らしさのある見た目と、ミノッティ の世界観・シーティングへのこだわりのバランスが素晴らしい。kashiyama daikanyamaのカフェでも使われているので、ぜひお試しいただきたいです」

【記事はこちら】腰痛持ちでもくつろげるひとり用ソファを発見!ミノッティの「テープ」の魅力とは?

■3:「TAPE CORD OUTDOOR」|ミノッティ

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【商品名】「TAPE Cord OUTDOOR」【ブランド】ミノッティ【デザイナー】nendo【写真の仕様価格】¥1,763,000(税込)【サイズ】幅1600×奥行830×高さ740 座面高420mm【材質】ファブリック、メタル
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インテリアブランドのなかで唯一、毎年オリジナルファブリックコレクションを発表するMinotti(ミノッティ)

濱田先生「アウトドアというのは開放感があっていいですよね。日光を浴びることで生活リズムが整い、気分転換にもなる。これはアウトドア向けとは思えない繊細な肌触りで、なおかつ他者と近すぎず遠すぎず、適度な距離感もとれる点もいいと思います」

土橋陽子「同シリーズの室内家具とのつながりで、家の外でもインテリアのような安心感が得られるのも魅力です。ミノッティのアウトドアのコーナーは、植栽もとても素敵なので参考になると思います」

母性の視点から選ぶ、安らぎを感じられる椅子3選

■1:「GUSCIOALTO LIGHT(グッショアルトライト)」|フレックスフォルム

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【商品名】「グッショアルト ライト」【ブランド】フレックスフォルム【デザイナー】アントニオ・チッテリオ【写真の仕様価格】¥1.523.500(税込)【サイズ】幅900×奥行920×高さ980mm【材質】フレーム:ポリウレタン、牛革・ファブリックの張り分け バックレストクッション:ダクロン クッション:グースダウン・ウレタン 脚:スチール・サテン仕上げ
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空間のなかに置いたときには、シャープなたたずまいでいてくれるのが嬉しい。

濱田先生「座ったときのクッション感覚や質感によって、精神が安定し、リラックスしている状態になるかどうかは、人が安らぎを感じる『母性の視点』が重要な指標になるでしょうね。母性といっても、性別とは無関係です(笑)。丸っぽい、包容感がある、湿った感じ、やわらかい、流動感があるなどいくつかの要素があります。

こちらのパーソナルチェアは、なにかしら懐かしい感覚がある。衣服の延長線上のような、優しく包まれる感じですね」

土橋陽子「フレックスフォルムの特徴でもある、フワッと受け止めてもらえてから、空気が抜けるにつれ沈み込み、ちょうどいい高さでお尻のどこにも圧力を感じない、『物語のある座り心地』が思う存分味わえるパーソナルチェア。

ヘッドレストクッションとシートクッションには、最高級の羽毛布団に使われるグースダウン(ダチョウの胸のあたりに生えたタンポポのような軸のない毛)が使用されていて、包み込まれる座り心地でリラックスできます。美しい巣のようなパーソナルチェアです」

■2:「マラルンガ」|カッシーナ

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【商品名】「マラルンガ」【ブランド】カッシーナ【デザイナー】ヴィコ・マジストレッティ【写真の仕様価格】¥1,606,000(税込)※オットマンは別売【サイズ】幅970×奥行895×高さ730〜1030mm【材質】本革、スティールフレーム内部構造・モールドポリウレタンフォーム・ポリエステルパッディング
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ひと目でわかる、巨匠・マジストレッティがデザインした名作ソファ「マラルンガ」

濱田先生「背もたれを畳んで、両手を左右に伸ばすと肩甲骨を広げてくつろぐことができるのがいい。脱力感のある愛らしいデザインにも惹かれます」

土橋陽子「マラルンガは、実は色々な映画にも出てくる名作ソファです。クッタリとした形状は生き物みたいですし、着座の感触を楽しんだあとに、自由に形を調整して、自分好みの心地よさをつくれるのが最大の魅力です。マラルンガにどんな風に座るかで、なんとなく人柄がわかるような気がします。

国内でライセンス生産も行なっているので、カッシーナのなかでも納期が短いというのも助かりますね」

■3:「ソレント」|バクスター

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【商品名】「ソレント」【ブランド】バクスター【デザイナー】パオラ・ナヴォーネ【写真の仕様の価格】¥1,512,000(税込)【サイズ】幅1150×奥行き1050×高さ840 座面高420mm【材質】シート:レザー、回転台付き
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「お姫様抱っこされるみたいなソファ」

【記事はこちら】お姫様抱っこされている気分!バクスターのソファー「ソレント」

濱田先生「かなり大きいですね! でもパイピングがほどこされていることで、全体的にまとまりがあり、品が保たれている。ヌバックの革のしっとり具合、湿り気というのは人肌を連想させ、リラックス状態に導くとても重要な要素のひとつです。くつろぐには最高ですね」

土橋陽子「サイズやメンテナンス等、通常の家具に求める機能は度外視の、恋人のような存在になり得る唯一無二のソファです(笑)。最高級の牡牛の革のみを使用しているバクスターだからこその香りと肌触り、それに引っ張りたくなる小さなフリンジも好き。回転式なので、軽やかに向きが変えられるのも便利だと思います」

木がもつ素材の力で、クリエイティブな活動が促進される椅子2選

■1:「チャンディガールの椅子」|カッシーナ

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【商品名】「キャピトル・コンプレックス・オフィスチェア」【ブランド】カッシーナ【デザイナー】CRSカッシーナ オマージュ ア ピエール・ジャンヌレ【写真の仕様価格】¥385,000(税込)※クッション別売【サイズ】幅510×奥行580×高さ810mm 座面高430mm【材質】オーク、籐
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「ベルベットのクッションがあるのもいいですね」

濱田先生「このような、しっかりとした感じの木の椅子に惹かれます。インテリアに木を用いることで、副交感神経が亢進しリラックス効果を生み出し、思考作業や創造作業が捗るとも言われています。ジャンヌレのダイニングテーブルは他では復刻していなかったので、カッシーナから登場した、こちらのオマージュアイテムは嬉しいですね」

土橋陽子「この無骨な魅力は唯一無二ですよね。オリジナルはインドのチーク材を用いて、現地の伝統的な手加工で仕上げられる仕様でした。カッシーナが復刻したものには、現代のインテリアに合わせやすいイタリアのオーク材仕様もあります」

■2:「D.R.D.P.」|チェコッティ

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【商品名】「D.R.D.P.」【ブランド】チェコッティ 【デザイナー】ロベルト・ラッツェローニ 【写真の仕様価格】¥3,245,000(税込)【サイズ】幅1650×奥行800×高さ820mm 座面高420mm【材質】フレーム:アメリカンウォールナット材(ナチュラル塗装仕上/ダーク色染色塗装仕上/ブラウン染色塗装仕上/モカ色染色塗装仕上) シート:ポリウレタンフォーム トレー:フロストガラス

濱田先生「ずっと撫でていられる気持ちのいい形状と質感。男女が手をつないでいるようなロマンチックで詩的な印象をもちました。どこか近づきやすく、そして一度触れると離れたくなくなるような愛着を感じる椅子です」

土橋陽子「アートのような無垢材の3Dパズルでできた贅沢な家具が特徴の『チェコッティ』らしい、ほかでは見たことがないような優美さと軽快さをもった美しいカーブ。アール・ヌーヴォーのようでありながら、現代的な印象です。

間にテーブルがあるので、ふたりで座ったときに安心できる距離感が生まれます。『Double rve de printemps(春の二重の夢)』というフランス語の頭文字をとって名づけられたというネーミングも、語りたくなる魅力のひとつです」

気軽に訪れてOKなショールームで、贅沢なひとときを!

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根津美術館の緑を借景に切り取る「モルテーニ」のショールーム

濱田先生「インテリアのショールームで、こんなに自由に過ごしていいんだ! ということを、もっと知ってもらえるといいですよね。

リラックスするのはもちろん、体感から始まることって多いと思うので、何か新しい発見があったり、自分では意識していなかった不調に気がついたり、実際に家具に触れて感じることがきっとあるはず。メーカーさん側の悩みなども、改めて聞いてみたいと思いました」

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やわらかなクッションが心地よい、モルテーニ東京の一角

いかがでしたか? 心の専門家の濱田先生と一緒にさまざまな椅子に座ると、想像もしていなかった見識や感想をうかがえて、とても新鮮でした。

皆さんも、ぜひショールームに行って、実際に座ってゆったり過ごしてみてください。家具は数多く所有できるものではないですし、家は自分のお城です。皆さんは、今後どんなライフスタイルを送りたいですか?

私の公式サイトまで教えてくださったら光栄です。濱田先生とも共有しながら、ウィズコロナ時代の癒しや心地よさ、ラグジュアリーを、今後も模索していこうと思います。

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM