異例づくめのトニー賞
2021年9月下旬、コロナ禍に対する一応の対処ができたと踏んだニューヨーク演劇界で、劇場が次々に再開し始めた。
そのタイミングで「2020年」のトニー賞授賞式も開催(現地時間2021年9月26日夜)。ノミネーションの発表が例年より半年近く遅れての現地時間の昨年10月15日。そこから数えてもほぼ1年、前回の授賞式から数えると2年4か月ぶりだった。
開催時期も変則なら中身も変則。以下、ミュージカル部門について書き出すと……。
まず、候補資格が2020年2月19日までに正式オープンしていること(例年なら5月初旬が締め切り)。それをクリアしたのが次の4本。
■:『ムーラン・ルージュ(Moulin Rouge!: The Musical)』
■:『ジャギッド・リトル・ピル(Jagged Little Pill)』
■:『ティナ(Tina: The Tina Turner Musical)』
■:『盗まれた雷撃~パーシー・ジャクソン・ミュージカル(The Lightning Thief: The Percy Jackson Musical)』
この内、一昨年秋から昨年初頭までの期間限定公演だった『盗まれた雷撃~パーシー・ジャクソン・ミュージカル』が全くノミネートされなかったので、残る3作での賞争いとなったが、この3作、いずれも既存の楽曲を使っているので(細かく言うと『ジャギッド・リトル・ピル』には新曲が2曲あるが)「楽曲賞」の候補にミュージカル作品が入らなかった。「リヴァイヴァル・ミュージカル作品賞」も該当作品がないので候補ゼロ、「主演男優賞」の候補は1人だけ(1人でも不戦勝というわけではなく、6割以上の賛成票が必要とのこと)。異例づくめだ。
そんな2019/2020シーズンのトニー賞。ミュージカル関係の受賞結果は次の通り。
『ムーラン・ルージュ』=作品賞/主演男優賞(アーロン・トヴェイト)/助演男優賞(ダニー・バースタイン)/編曲賞(ジャスティン・レヴァイン、ケイティー・クレセック、チャーリー・ローズン、マット・スタイン)/演出賞(アレックス・ティンバーズ)/振付賞(ソニア・テイエ)/装置デザイン賞(デレク・マクレイン)/照明デザイン賞(ジャスティン・タウンゼント)/衣装デザイン賞(キャサリン・ズーバー)/音響デザイン賞(ピーター・ハイレンスキー)
『ジャギッド・リトル・ピル』=助演女優賞(ローレン・パットゥン)/脚本賞(ディアブロ・コーディ)
『ティナ』=主演女優賞(エイドリアン・ウォーレン)
量のバランスは違うが一応3作に振り分けられたので、いずれにとっても再開後の好材料にはなったはず。『ムーラン・ルージュ』はすでに再開。『ジャギッド・リトル・ピル』は10月21日から、『ティナ』は10月8日から再開予定。
他に、『劇場街に新風を吹き込む刺激的な音楽パフォーマンス2本!!』で紹介したパフォーマンス公演『デイヴィッド・バーンズ・アメリカン・ユートピア(David Byrne's American Utopia)』と『フリースタイル・ラヴ・スプリーム(Freestyle Love Supreme)』が特別賞を受賞している。映画化も話題になった前者はすでに再上演中。後者は10月7日からの再開が予定されている。
新シーズンのブロードウェイ・ミュージカルの予定
さて、遅ればせながら2021/2022シーズンが幕を開けたニューヨーク演劇界。上記5作品以外のブロードウェイ・ミュージカル再オープン/新オープン情報を挙げておこう。
まず、ロングラン中の作品から
9月時点で再開している作品リスト
■:『アラジン(Aladdin)』
■:『シカゴ(Chicago)』
■:『カム・フロム・アウェイ(Come From Away)』
■:『ヘイディズタウン(Hadestown)』
■:『ハミルトン(Hamilton)』
■:『ライオン・キング(The Lion King)』
■:『ウェイトレス(Waitress)』
■:『ウィキッド(Wicked)』
10月以降に再開予定の作品リスト
■:『エイント・トゥー・プラウド(Ain't Too Proud—The Life and Times of the Temptations)』
■:『オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)』
11月以降に再開予定の作品リスト
■;『ブック・オブ・モルモン(The Book of Mormon)』
■:『ハリー・ポッターと呪いの子(Harry Potter and the Cursed Child)』
12月以降に再開予定の作品リスト
■:『ディア・エヴァン・ハンセン』(Dear Evan Hansen)
そして、コロナ禍以前に上演を開始していたものの今回のトニー賞の締め切りに間に合わなかった作品を含めて、2021/2022シーズンの新作扱いとなるミュージカルの再開またはプレヴュー開始予定は次の通り。盛りだくさんだ。
10月にプレヴュー開始予定の作品リスト
■:『キャロライン、オア・チェンジ(Caroline, or Change)』
■:『北国の少女(Girl From the North Country)』
■:『ミセス・ダウト』(Mrs. Doubtfire)
■:『シックス(SIX: The Musical)』
11月にプレヴュー開始予定の作品リスト
■:『カンパニー(Company)』
■:『ダイアナ(Diana)』
■:『フライング・オーヴァー・サンセット(Flying Over Sunset)』
12月にプレヴュー開始予定の作品リスト
■:『MJ(MJ: The Musical)』※MJはマイケル・ジャクソンの略
■:『ミュージック・マン』(The Music Man)。
あと、年内だが時期未定としている『トミー(The Who's Tommy)』の他、来年の予定には、『1776(1776)』、『ビートルジュース(Beetlejuice)』、『パラダイス・スクエア(Paradise Square)』、『シング・ストリート(Sing Street)』、『お熱いのがお好き(Some Like It Hot)』といったタイトルが並んでいる。
以前〈挑戦的手法で「今」を描こうとする新たな『ウエスト・サイド・ストーリー』〉として紹介した画期的なリヴァイヴァル版『ウエスト・サイド・ストーリー(West Side Story)』は、残念ながら再オープンしないようだが、その他の作品が無事にオープンを迎えられることを祈りたい。
- TEXT :
- 水口正裕 ミュージカル研究家
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」