これまでに、一口食べた瞬間「これは!」と感動するような「蕎麦」に出会ったことがありますか?

もし、ただ何となく評判のよさそうなお店に入ってお蕎麦を食べるだけだとしたら、もったいないです。それだけでは、絶対に最高の一杯と巡り合うことはできません。おいしい蕎麦を知らずにいるのは、人生を大損しているのと一緒。お蕎麦にまつわる基礎知識を増やして、自分の中で革命を起こしましょう。

今回、蕎麦通でホームページ『蕎麦の旅人』の主宰もされている福原 耕さんから、最高においしい蕎麦の条件について教えていただきました。蕎麦麺の作り方・蕎麦屋の見つけ方・食べ方、の3つの観点から合計12の条件をご紹介します。これから蕎麦を食べるときは、ぜひこれらを意識してみてくださいね。

■職人が最高においしい「蕎麦麺を生む」3つの条件

蕎麦麺

最初は作り方から。どのように作られた麺がおいしいのでしょうか? 福原さんによると、蕎麦は(1)原料の蕎麦の実の品種、(2)蕎麦粉の挽き方、(3)蕎麦の打ち方によって、味に違いが出てくるとのこと。それぞれ満たすべき条件は、以下の通り。

(1)原料は希少な「国産在来種の蕎麦の実」がおいしい麺になる

蕎麦の花

現在、日本で流通している蕎麦粉の約8割は、中国などから輸入されたもの。ただ、輸入品は輸送中に品質の劣化が懸念されるため、味のよさを追求するなら国産がおすすめです。

なかでも、ぜひ食べてみたいのは在来種の蕎麦。在来種とは、品種改良されず昔からその土地で自生してきた種のことで、国産の1割にも満たないといわれています。栽培が難しく、収穫量が少ないため高価ではあるものの、小粒で味・風味が強く、そば愛好家の間では珍重されているのだとか……。

「在来種は100種類ほどあり、たとえば長野県の”奈川在来”や福井県の”丸岡在来”などが有名です。昭和20年代までは全国各地で在来種が栽培されていましたが、現在は多収化などを目的に品種改良された育成種が普及しており、在来種は存続が危ぶまれています。

村おこしの一環として、地域のバックアップによってようやく栽培されているという状態で、在来種の蕎麦は現地まで行かなければ、なかなか食べられません。それゆえ、奈川在来には“幻のそば”という異名があるほど。

それほど希少性のある在来種ですが、育った土地に応じてさまざまな個性があります。また、蕎麦に限らず米でもパスタでも、穀物は総じて味が淡白ですが、在来種では比較的、味も香りも感じられるという印象です。ある程度、蕎麦を食べ歩いたうえで在来種を口にすれば、その違いをはっきりと認識できるのではないでしょうか」(福原さん)

奈川在来や丸岡在来だけでなく、全国各地にあるという在来種。わざわざ現地に足を運んででもその味・風味を確かめたいものですね。

(2)蕎麦粉は機械ではなく「石臼で挽いたもの」がおいしい麺になる

蕎麦の実を挽いて蕎麦粉にする方法は2種類。ロール式と呼ばれる機械によって製粉する方法と、石臼による方法です。このうち、現在では機械によって大量に製粉するのが一般的。

ただ、こだわりの蕎麦屋ではこれに満足しないで石臼による製粉を行います。というのも、ロール式は量産には向くものの、粒を高速破砕する際に高熱を発生させ、そばの風味を損なってしまうから。他方、石臼で丁寧に手挽きすれば、高熱の発生を避けることが可能。かつ、粗挽き・細挽きの微妙な調整を行うことで、そば職人にとって理想の蕎麦粉ができるのです。

昔から蕎麦は“三立て(挽き立て・打ち立て・茹で立て)”がおいしいといわれます。こだわりの蕎麦店では早朝からその日必要な分量の粉を石臼で挽き、蕎麦を打つそうです。

(3)最初の水回しで「水が蕎麦粉に行き渡ったもの」がおいしい麺になる

老舗の名店では、職人さんが蕎麦の生地を綿棒で延ばす作業を行っているイメージがありますよね。たしかに、これを手作業で行うのか製麺機に任せるのかで、食感などに違いはが生じ、後者は邪道という見方もあるようです。

しかし、福原さんによれば、製麺機を使うかどうかは味の善し悪しの決め手にはならず、より重要なポイントは木鉢の作業とのことです。

「木鉢の作業とは“水回し”ともいい、木製の鉢でそば粉と水を練り上げる作業のことです。水回しは蕎麦打ちの基本で、蕎麦粉の一粒一粒にまで水を行き渡らせることがもっとも大事だといわれています。蕎麦職人の大御所、故・藤村和夫さんも著書において、おいしい蕎麦屋は機械を取り入れていても、木鉢の作業は省略していないと指摘しています」(福原さん)

つまり、生地を手で延ばすか機械で延ばすかよりも、その前段階でそば粉と水をしっかりなじませることが、蕎麦のおいしさのキーポイントになるということです。

■最高においしい「蕎麦屋に共通する」2つの条件

蕎麦

蕎麦屋について情報収集する際はまず、上記3つの「蕎麦麺を生む」条件に留意してお店を探してみてください。蕎麦粉の原料については、お店のホームページや店内に表示されていることもありますが、もしなければ、どこの産地のものを使っているのか、直接聞いてみるといいでしょう。

また、ひとつひとつの作業を丹念に行う手間を考えれば、蕎麦以外の料理にまで労力を割くことや、たくさんのお客を受け入れることはほぼ不可能。おいしい蕎麦屋を見つけたいなら、以下の2つの条件にも着目です。

(1)メニューの「種類が限られている」お店がおいしい

メニューは蕎麦中心でうどんをサブで出す程度。丼物やラーメンにまで手を広げる何でも屋は避けましょう。

(2)「規模の小さいお店」がおいしい

老舗で、お弟子さんを何人も取っているような名店の場合は別ですが、店主がひとりで切り盛りしている場合は、客席数は20未満を目安としましょう。

以上の2つは客観的でわかりやすい基準。ただ、蕎麦にはさまざまな種類があり、何をおいしいと感じるか、その日どんな蕎麦を食べたいかは人それぞれ、主観によりますよね。ですから、情報収集だけでわかったつもりになるのではなく、実際にお店に足を運んでどんどん食べ歩きましょう。福原さんは以下のように強くすすめています。

「例えば、一軒目では“二八そば”を、二軒目は“十割そば”を、三軒目では“粗挽きそば”を、といった具合です。最近は二種盛りとか三種盛りといった組み合わせのメニューもあります。そうやって自分好みのお蕎麦を見つけてはいかがでしょう。

また、お味だけでなく、雰囲気やもてなしの具合・お値段なども加味して絞るとよいと思います。そして、気に入ったお店は何度も通うこと。常連になれば違ったサービスもきっと出て来るはずです」(福原さん)

■最高においしく「蕎麦を食べる」ための7つの条件

蕎麦の食べ方

そして、肝心なのは食べ方。最高においしい蕎麦屋を見つけることができても、間違った食べ方をしていれば、台無しですよね。蕎麦本来の味を堪能したいなら、以下の7つを取り入れてみてください。

(1)もりそばを注文する

何を注文するかはお好みしだいですが、蕎麦本来の味を堪能したいなら、もっともシンプルなもりそばがおすすめ。

「これまで複数の店主から聞いたことがあるのですが、お客さんがもりそばを注文すると、お店の側は“この人はうちの味を確かめにきたのだな”と身が引き締まるそうです」(福原さん)

お店渾身の一枚を味わうためにも、ぜひもりそばを!

(2)出されたらすぐ食べる

蕎麦は生き物。乾燥もするし伸びもします。蕎麦が出てきたら、おしゃべりは一旦中断して、食べることに集中しましょう。また、蕎麦屋で一杯やるのも乙なものですが、飲みながら食べていては、どんどん麺が伸びる一方。お酒と蕎麦は同時に注文するのではなく、まずお酒を飲んでから、シメに蕎麦をいただくようにしましょう。

(3)はじめは麺だけ味わう

蕎麦の風味を味わうために、はじめの一口はツユには漬けずに麺だけで。

「味に自信があって、店側が“はじめはツユを漬けずに召し上がってください”とすすめてくれることもあるでしょう。ちなみに、私の経験では、一口目の蕎麦があまりにも美味で、そのままツユをまったく使わずに最後まで食べてしまうこともあります」(福原さん)

いつかそんな”奇跡の一枚”に巡り合いたいものですね。

(4)ツユは味の濃さをみて、漬け方を決める

江戸っ子はツユを3分の1だけ漬ける、という説がありますが、これは有名店『並木藪蕎麦』のツユが濃かったことが影響しているといわれています。どの蕎麦を食べるときも3分の1という決まりがあるわけではありません。
どれくらい蕎麦をツユに漬けるのが適量なのかというと、それはツユの濃さしだいです。濃いツユには少し、淡いツユには多く。それを見極めるために、漬ける前にツユの味見をしましょう。

(5)麺は空気とともに一気にすする

適量のツユを漬けたら、麺は一気にすするべし。ワインのテイスティングと同様、口に空気を含ませると蕎麦の風味をより感じることができます。

「なお、蕎麦をすするときに大きな音を立てるのは、落語の影響だという説があります。ラジオで『時そば』などの落語を流す際に、音声だけでは蕎麦を食べていることが伝わらないので、ことさらにすする音を立てたのが由来のようです」(福原さん)

ときどき“音を立てて食べるほうがいい”と勘違いしている人もいるようですが、必要以上にうるさくしないようにしましょう。

(6)薬味は味のさっぱりしたものから使う

薬味をいっぺんに猪口に入れてしまうと、味の変化を楽しむことができません。はじめは、大根おろしやねぎなどさっぱりしたものを。それから、わさび、しょうが、七味唐辛子など刺激の強いものをお好みで試すようにしましょう。

「おそらくメニューに書いていると思いますが、大根おろしでも辛味大根を使っている場合は、かなり辛いので後回しにしたほうがいいかもしれません。また、最近、蕎麦屋で塩を勧められるケースが増えました。塩は蕎麦の甘みを引き立ててくれます」(福原さん)

(7)蕎麦湯を飲む

蕎麦湯

まだまだ肌寒いこの時期、冷たいもりそばを食べた後、温かい蕎麦湯をぜひ味わいたいところ。

「蕎麦にはビタミンBや食物繊維などの栄養素がありますが、それらは水溶性のため、茹でる際に流れ出てしまいます。茹で汁の蕎麦湯を飲むことによって、失われた栄養素を摂ることが可能です。蕎麦湯まで飲んで初めて“蕎麦をまるごと味わった”といえるでしょう。蕎麦湯をより堪能するために、自分のお好みの薬味を少し残しておくことをおすすめします」(福原さん)

蕎麦は身近でシンプルだけど、実は奥が深い食品。まずはお住まいの地域で食べ歩き、そしていずれは自分にとって理想の在来種を求めて旅に出るのもひとつ。今年は、最高の一枚を探してみませんか?

福原 耕さん
蕎麦通
(ふくはら つとむ)昭和10年(1935年)大阪府出身(旧満州に生まれ、昭和21年帰国)。昭和29年 大阪府立・春日丘高校卒業。昭和33年 大阪大学・法学部卒業。昭和33年 松下電器産業株式会社(現Panasonic社)入社。昭和63年 同社取締役。 平成8年 同社代表取締役専務。平成12年 同社を定年退職。現在、同社終身客員。大阪府在住。ホームページ『蕎麦の旅人』主宰(平成19年〜)
『蕎麦の旅人』福原耕・著 文芸社刊

おいしく食べる条件シリーズ

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
中田綾美
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