世界の伊達男たちのスーツ姿を眺めていると、ひとくくりにスーツスタイルといっても、スーツそれ自体の選択からアクセサリー、着こなしの細部にいたるまで、実に明快に着る側の意志が反映されているなあと感心してしまう。

キーワードは「MAT」!

英国史上最も軽やかにスーツを着こなした男

ノエル・カワード/1899~1973年。ウィットに富んだ喜劇を多数製作した、イギリスの俳優、作家、脚本家。'20年代以降の若者文化に多大なる影響を与えた彼は、「アンダーソン&シェパード」のビスポークスーツを愛用する稀代の洒落者としても有名。映画『007』シリーズ開始時にはあのショーン・コネリーが、ジェームズ・ボンドの衣装の相談に訪れたという。写真:Shutterstock/アフロ

それは彼らのナリワイであり、能力・才能であり、趣味であり、出自であり、美的感性であり、人生観や社会観であり、それらを総じて自分は他人にこう見られたいという自己イメージだ。

スーツスタイルに浮かび出る彼ら伊達男たちの自己イメージ! それはいくつかのキーワードが美的造形となってあらわれたものだ。

精悍スーツスタイルでリーダー像を確立!

J・F・ケネディ/1917~1963年。第35代アメリカ合衆国大統領。そのテレビ時代を見すえたダークカラー、2つボタンの若々しいスーツスタイルで、米国民の心を強くとらえた。ファッション界においてはアメリカントラッドの象徴と言われているが、実はスーツはサヴィル・ロウ仕立て、シャツはフランスのシャルベ製で、スノッブな着こなしを好んだ伊達男。写真:ZUMA Press/アフロ

たとえばJ・F・ケネディなら、「若きリーダー」「革新性」「アメリカンエリート」だ。全体に細身のシルエットのスーツは行動的で潑剌として彼の若さがずばりあらわれている。ふたつボタンのジャケットはそれまでの長老政治家の三つボタンと手を切った新しさの象徴と捉えられる。そしてスーツではないが、ヨットを操る彼のポロシャツ姿は、まさに’60年代アメリカ王朝の貴公子登場という絵だ。 

イタリア伊達男界最大のカリスマ!

ジャンニ・アニエリ/1921~2003年。あのフィアット社のオーナーとして、イタリアの実業界に君臨した男。名実業家としての顔のほかに、ミラノの名門サルト「カラチェニ」をひいきにする、ヨーロッパを代表するダンディとしてもその名を轟とどろかせた。ネイビーやグレーのスーツにソリッドタイを合わせる凜々しいスタイルは、彼一流のトレードマークになっている。写真:アフロ

今回取り上げられている何人もの伊達男たちのスーツスタイルに共通して、なぜか日本のメンズファッションプレスが気がつかないキーワードが「MAN ABOUT TOWN」(以下MAT)である。辞書によると「社交家」「遊び人」「粋人」などといった意味をさす。

MATは社交界の華である。政治家やビジネスマンのシンプルなスーツスタイルと、ボー・ブランメルに代表されるナルシシズムの極致「ダンディ」の間を揺れ動いている存在。社会常識を逸脱しない範囲でスーツを遊ぶ人をイメージするといい。

その多くは作家、映画関係者、アーティストで、ケーリー・グラント、フレッド・アステア、ノエル・カワード、セシル・ビートンなどのスタイルを語る上で欠くべからざるキーワードだ。

イタリアンスーツの究極の格好よさを体現!

アル・パチーノ/1940年~。現代のハリウッドを代表する名優。『セルピコ』('73年)をはじめ膨大な代表作のなかでも、シチリアのマフィア役を熱演した『ゴッドファーザー』シリーズのスーツ姿は映画史上に残る格好よさ。重厚なダークカラーのスリーピースを見事に着こなした姿は、クラシック業界のみならず、モードブランドからもいまだに絶賛されている。写真:Photofest/アフロ

彼らのスーツは最上質の素材と仕立てが大前提。つまりオーダーメイドだ。無地よりもアソビのあるチェックやストライプの柄物で、前合わせはダブルが多く見受けられるのだ。

だれにもまねできない軽妙さが真骨頂!

フレッド・アステア/1899~1987年。'30~'50年代に全盛を誇った、ハリウッドのミュージカル映画を象徴する俳優、ダンサー。「アンダーソン&シェパード」をひいきにする当代きってのウェルドレッサーとしても知られており、そのスーツスタイルは若かりし頃のラルフ・ローレン氏も参考にしたという。写真:GRANGER.COM/アフロ

アステアが好きなピンホールカラーのシャツ、グラントのブートニエール、セシル・ビートンのソフトなロングポインテッドカラーのシャツ、ノエル・カワードはシガレットホルダーをトレードマークとした。これらのスーツ、アクセサリーに晩餐会用のタキシードを加えればMATになる。

アービン・バーリンの’30年代のヒット曲『プティン・オン・ザ・リッツ』を地で行く社交紳士のエレガントスーツ術は、現代でも通じるスタイルであろう。

※2012年春号取材時の情報です。

この記事の執筆者
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