ロシア料理のボルシチに入っている真っ赤な野菜「ビーツ」。初めて見た時は、人参とは違う強烈な赤に驚きませんでしたか? 日頃、あまり馴染みはありませんが、江戸時代に日本に入ってきたと言われており、「火焔菜(かえんさい)」という和名があります。

火のように真っ赤な野菜、ビーツは食べてみると、その見た目ほどクセはないのですが、実は「奇跡の野菜」「食べる輸血」と言われるくらい栄養が豊富です。ボルシチは厳しい冬を乗り切るための、ただ温かいだけの料理というわけだけでなく、栄養満点の料理だったのです。もっと、もっと使いこなしたいビーツ、ここではその基礎知識や成分、健康効果などをご紹介していきます。

ビーツって何? スーパーフードと呼ばれるのはなぜ?

ビートルート、レッドビート、テーブルビートなどの呼び名もあるビーツ

ビーツの原産地は地中海沿岸から西アジア

ビーツは、ビートルート、レッドビート、テーブルビートなどの呼び名もあります。原産地は地中海沿岸で形がカブと似ているので、日本では「赤カブ」、英語でも古くは「Blood turnip(血カブ)」と呼ばれることもありました。ですが、アブラナ科に属するカブとは姿が似ているだけで、ビーツはほうれん草と同じ、アカザ科に属します。

砂糖の原料となる甜菜(テンサイ)と同じ仲間で、根菜としてはかなりの甘さを誇ります。輪切りにすると赤と白の年輪のような模様が現れます。この模様や、葉の軸と葉脈が赤いことから「火焔菜」という和名につながったようです。

日本ではロシア料理のボルシチに使われる根菜というイメージが強いですが、ヨーロッパでは昔から健康によい野菜として知られていました。古代ローマ人は発熱や便秘の治療にビーツを使ったと伝えられています。

ビーツの赤色は、赤い色素「ベタシアニン」と黄色の色素「ベタキサンチン」によるもの

ビーツと言えばその赤い色が特徴ですが、これは赤紫色を発色する「ベタシアニン」と黄色を発色する「ベタキサンチン」によるものです。この2つの色素は総称して「ベタライン色素」と呼ばれており、この2つの色素のバランスで、赤色以外にも黄色やオレンジをした品種もあります。しかも、ベタライン色素は高い抗酸化作用を持っています。

ビーツの産地や旬は?

ビーツは輸入ものが多く、主な輸入元はオランダ、オーストラリア、ニュージーランドなどです。国内では長野や茨城などで栽培されています。海外産はほぼ通年で手に入ります。国産のものは年に2回収穫が可能で、6月〜7月、11月〜12月が旬になります。


ビーツに含まれる成分

他の作物にはなかなかない成分が含まれているビーツ

ビーツはカリウム、ナトリウム、カルシウムなどのミネラルやナイアシン、パントテン酸などのビタミンB類、食物繊維などが含まれるほか、ベタシアニン、ベタインなどほかの作物にはなかなかない成分が含まれています。

さらに近年ではビーツに含まれる「ラフィノース」というオリゴ糖の働きや、ビーツの赤色を示すベタシアニン、ベタキサンチンが持つ抗酸化作用、さらに血管拡張作用のあるNO(一酸化窒素)の、体内での産生を促進する成分が含まれており、その生理作用に注目が集まっています。

注目を集めるビーツの成分「NO(一酸化窒素)」

最近、健康への関心が高い人たちの中で、特に注目を集めているのが、ビーツを摂取することにより体内で産生されるNO(一酸化窒素)です。NO(一酸化窒素)と言えば、感染や炎症により体内で慢性的に過剰産生されると生活習慣病の悪化にもつながりますが、実は私たちの生活の中(食事や運動)で、NOは体の中で一定量が産生され、大切な役割を担っています。

この産生されたNOには血行を改善すると同時に、血管をやわらかくする働きがあり、血管の中で血栓の発生を防ぐといわれており、動脈硬化の予防につながります。狭心症の患者にニトログリセリンが処方されるのは、ニトログリセリンが体内で加水分解により産生される、NOによる血管拡張作用を誘導するためです。

また血行を改善することは、持久力アップや疲労回復にも効果を発揮します。さらに基礎代謝のアップにもつながるので、運動能力のアップのほか、ダイエット効果も期待できる、注目の野菜なのです。

ビーツの成分「NO(一酸化窒素)」の働きが、ノーベル生理学・医学賞を受賞

体内におけるNO(一酸化窒素)の大切な働きの発見によって、3人の科学者、ルイス・J・イグナロ氏、ロバート・ファーチゴット氏、フェリド・ムラド氏は、1998年、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。この研究成果もあって、最近、スーパーフードとしてのビーツに注目が集まっています。


ビーツの健康効果

むくみ、高血圧、動脈硬化などを予防し、腸内環境を整え、肝機能を高めるビーツ

ビーツの健康効果1:むくみの解消、高血圧の予防

ビーツには、レタスやトマトの2倍以上のカリウムが含まれています。カリウムは体内の余分なナトリウム、すなわち塩分を排出する働きがあり、むくみの解消につながります。また塩分を排出して血圧の上昇を防ぐため、高血圧の予防にもなります。

ビーツの健康効果2:動脈硬化の予防

パントテン酸は血液の中のLDLコレステロール、いわゆる悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やす作用があります。動脈硬化の予防につながります。

ビーツの健康効果3:抗酸化作用によるがんの予防

ビーツの特徴的な色をつくり出している色素ベタシアニンは、ポリフェノールの一種。強い抗酸化作用を持っています。体の中の活性酸素を取り除いて、老化を防ぐとともに、細胞ががん化することを防ぎます。

ビーツの健康効果4:腸内環境を整える

ビーツには食物繊維のほか、天然の難消化性オリゴ糖「ラフィノース」が含まれています。腸内の環境を整えて善玉菌を増やし、悪玉菌の増殖を抑制する効果が期待できます。また便通を改善することで、老廃物を体外に排出しやすくします。

ビーツの健康効果5:肝機能を高める

甘味成分であるベタインには、肝機能を高め、肝臓に脂肪がつくことを防ぐ働きがあります。肝硬変や肝脂肪の予防につながります。


ビーツの効果的な食べ方

ビーツを加熱するときは、皮つきのままがオススメ

ビーツは皮を向いて加熱すると、色が抜けて白くなってしまいます。つまり、抗酸化作用を持った大切な色素であるポリフェノールがなくなってしまいます。加熱して使う場合は、皮のまま加熱してください。

ボルシチなどのスープに使い、ビーツの実はもちろん、スープもしっかりいただくと、ビーツに含まれるさまざまな栄養をしっかり取ることができます。

ビーツは生食やジュースにしてもOK

ビーツは、甜菜(テンサイ)と同じ仲間なのでショ糖が含まれおり、甘みが強いのも特徴。そのためボルシチなどに加えて茹でるとおいしくいただけます。サラダやピクルス、ジュースやスムージーなど、生のまま食べることもオススメです。ピクルスにしたり、あるいはジュースにすることもあります。最近では、ジュースに絞って、ビーツの栄養をそのまま取り入れることが、モデルなど健康に敏感な人の間で話題になっているようです。

ちなみにビーツの赤い色は、まな板につくと、なかなか取れません。調理する際は注意してください。


ビーツの下ごしらえの方法

ビーツのポリフェノールを逃さない下ごしらえ法

ビーツは根菜なので、いろいろなレシピに応用できます。メインディッシュ、スープをはじめ、サラダ、ピクルス、さらにはスイーツにもできます。ただし、かなり硬い野菜なので、メインディッシュやスープに使うときは、下ごしらえしてやわらかくしておくとよいでしょう。

下ごしらえには、次の2つの方法があります。ただし、先にお伝えしたように、大切なポリフェノールを逃さないようにするために、どちらも皮のまま行うことがポイントです。

ビーツの下ごしらえの方法1:皮付きのまま茹でる

水に塩と酢を加えて、皮付きのまま茹でます。茹で加減は、レシピに合わせて調整してください。

ビーツの下ごしらえの方法2:皮付きのままオーブンで焼く

皮付きのまま塩をふり、アルミホイルで包んで、120度〜140度くらいいの温度でじっくり時間をかけて焼きます。焼きイモのような、ホクホクとした食感と甘味を楽しむことができます。

手軽にビーツを使った料理をつくりたいときは、水煮にした缶詰のビーツを使うと便利です。


ビーツを使ったレシピ

ボルシチ、リゾット、スープ、ピクルス、スムージーなど、ビーツのレシピがたくさん

ビーツを使ったレシピ1:ボルシチ

ビーツを使ったロシアの代表的な料理。ロシアの厳しい冬を乗り切るための知恵が集まった料理と言えるでしょう。ビーツの缶詰(水煮缶)を使って調理する場合は、水煮缶の汁も使うようにしてください。

ビーツを使ったレシピ2:ビーツのリゾット

イタリアでは、ビーツを使ったリゾットも一般的な料理です。真っ赤なリゾットは見た目にも楽しいので、ホームパーティーなどにも似合います。

ビーツを使ったレシピ3:ビーツとトマトのパスタ

いつものトマトソースにビーツを加えると、彩りもより鮮やかになります。またビーツの甘みがトマトの風味とよく合います。

ビーツを使ったレシピ4:ビーツとじゃがいもの冷製スープ

温かいスープもおいしいですが、夏の暑い時期に、ビーツを使ったスープは見た目も楽しくて、食欲を刺激してくれること間違いなしです。

ビーツを使ったレシピ5:ビーツのお漬物/ピクルス

お漬物やピクルスは、淡い色のものが多いですが、ビーツのピクルスは色鮮やかに仕上がります。

ビーツを使ったレシピ6:ビーツのスムージー

スムージーにするのが、いちばん手頃なビーツの食べ方かもしれません。ビーツといろいろなフルーツや野菜との組み合わせを考えるのも楽しいですね。


ビーツを使った商品

ビーツの加工品も健康意識の高い人たちに人気

「食べる輸血」と呼ばれるビーツ。スライスした水煮缶や、ピューレ、酢漬けなどの商品のほかにも、ビーツを使ったアイテムが、アスリートや健康意識の高い人を中心に人気を集めています。

そのまま飲めるビーツジュースやビーツスムージー、濃縮還元されたビーツやビーツパウダー、ビーツ入りグラノーラやクッキー、ドライビーツやビーツティー、ビーツジャムなどがあります。


ビーツを食べるときの注意点

難消化性オリゴ糖や食物繊維、葉素が多く含まれるビーツ

ビーツには難消化性オリゴ糖が含まれています。また食物繊維も豊富なので、食べ過ぎるとお腹が緩くなることがあります。

特に妊婦に必要とされる葉酸も、ビーツには豊富に含まれています。葉酸は熱や水に弱いため、なかなか取りにくい栄養素でもあります。水に溶けやすく、体の外に排出されやすいので、適切に摂りましょう。

また、日常的にはこれが一番、気になるポイントかもしれません。実はビーツをたくさん食べると、人によってはおしっこ(尿)が赤くなることがあります。健康には影響ありませんが、ちょっとビックリしてしまいますね。ビーツを食べるときには、覚えておくとよいでしょう。

監修者PROFILE
東京農業大学 上原万里子(うえはら まりこ)教授
東京農業大学 大学院農学研究科 食品栄養学専攻 指導教授/東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科 教授/東京農業大学 応用生物科学部 部長(学部長含む)
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東京農業大学 吉田穂積(よしだ ほずみ)教授
東京農業大学 教授/東京農業大学 生物産業学部 生物産業学部学生部長
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東京農業大学 遠藤明仁(えんどう あきひと)准教授
東京農業大学 生物産業学部 食品香粧学科 准教授
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東京農業大学 田村倫子 (たむら ともこ) 准教授
東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科 准教授
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東京農業大学 井上博文(いのうえ ひろふみ)助教
東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科 助教
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この記事の執筆者
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