スーパーフードの代表格と言える「キヌア(Quinoa)」。キヌアと人類との関わりは意外と古く、15世紀頃南米に栄えたインカ帝国の食物事情を支えたのは、キヌアと言われています。約500年近く忘れ去られた存在となっていましたが、近年、その優れた栄養成分が再び注目を集めています。
今回はキヌアの基礎知識、歴史、その優れた栄養成分などをご紹介していきます。
【目次】
【1】キヌアって何?どんな食べもの?
アンデス文明を育んだ“穀物の母”、キヌア
キヌアの原産地は、南米のコロンビアからボリビアにかけてのアンデス山脈一帯です。その歴史は古く、紀元前7,000年〜5,000年頃には、現地の人たちは自然に生えている野生種のキヌアを食べ、さらに紀元前4,000年〜3,000年頃には、人の手による栽培が始まっていたのではないかと考えられています。
空中都市などと呼ばれる遺跡「マチュ・ピチュ」を築いたインカ帝国では、キヌアは“穀物の母”と呼ばれ、トウモコロシと並んで貴重な作物とされてきました。毎年、皇帝が黄金のくわを使って、種まきの儀式を行っていたと伝えられています。
NASAの研究で再注目されたキヌア
16世紀、スペインがインカ帝国を征服すると、キヌアの栽培は禁止されてしまいました。長く現地の人々の暮らしを支えてきたキヌアは、歴史からその姿を消し、忘れ去られてしまったのです。
それから約500年、キヌアは思わぬところから再び注目を集めることになりました。NASA(アメリカ航空宇宙局)です。1993年11月、NASAは「Quinao: An Emerging “New” Crop with Potential for CELSS(キヌア:閉鎖生態系生命維持システムのための可能性を秘めた注目の“新”穀物)」と題したレポートを発表しました。NASAは世界中のさまざまな植物を幅広く調査し、その栄養の高さはもちろん、育てやすさ、利用のしやすさなどから、キヌアを「閉鎖生態系生命維持システム」、つまり宇宙船や宇宙ステーション、さらには月面や火星などの基地で宇宙食として活用しようと考えたのです。
レポートには、「ある食物だけで、人間に必要なすべての栄養素を摂取することは不可能。だがキヌアなら、それが可能かもしれない」と記されています。
このレポートをきっかけに約500年の間、アンデスの高地でひっそりと忘れ去られていたキヌアは、再び歴史の表舞台に登場することになったのです。
2013年、国連が「国際キヌア年」を制定
キヌアの持つ力に注目したのは、NASAだけではありませんでした。国連は2013年を「国際キヌア年」と定めたのです。国際キヌア年は、キヌアは食料危機の重要な解決手段になり得るとして、ボリビアの大統領が提唱。その提案に南米を中心とした多くの国々が賛同し、2011年6月のFAO(国連食糧農業機関)総会を経て、2011年12月に国連総会において承認されました。
国連は、キヌアには、次の3つの優れた特性があるとしています。国連の資料から抜粋してご紹介します。
キヌアの抜群の適応力
キヌアは、−8℃から38℃の気温変化に耐え、40%から88%の湿度にも順応できます。海面から4000mまでの高地でも育つなど、干ばつや高塩分濃度にも強く、痩せた土壌等様々な環境条件に適応する能力をもっています。
このことはどんな環境に対しても適応することができる能力を持っていることの証明であり、世界各地で栽培が可能であることを示しています。キヌアの持つ優れた栄養バランス
キヌアは他の穀物に比べて、各種栄養成分がバランスよく含まれています。
・必須アミノ酸を網羅した高濃度のタンパク質
・高濃度のカルシウムやマグネシウム、鉄、亜鉛
・高濃度のB群ビタミン、ビタミンE
・高濃度のリノレン酸(コレステロール値の改善効果がある不飽和脂肪酸)
・グルテンを含まない(小麦アレルギーの人でも摂取可能)キヌアのおいしさ、食品としての素晴らしさ
・キヌアは「スーパーフード」として認識されており、健康食品や医薬品、その他にも様々な用途に対応しています。
・伝統的料理だけでなくグルメ料理としても偉大な美食可能性を秘めています(調理して、スープに加えたり、穀物やパスタとして利用、更にはビールや「チチャ」と呼ばれるアンデスの伝統的な飲み物に発酵させることもできます)。
・貧困が原因で不可欠な基礎栄養素を十分に摂取できない人々を栄養不良から脱却させることができます。
・キヌア栽培は世界中に拡大していて、現在はリビアとペルーが世界のキヌア生産を先導しています。国連も、地元農家の有機農業の支援策として、キヌア栽培を奨励しています。
NASA、そして国連も注目しているキヌア。歴史を振り返ると、キヌアの原産地であるアンデス地方からは、ヨーロッパにじゃがいも、とうもろこし、トマトなどの作物が持ち込まれ、その後、ヨーロッパから世界中へと広がり、世界中の人たちの食生活を支え、彩ってきました。
そして今、歴史の中で一度はその存在が忘れ去られてしまったキヌアも、21世紀を生きる私たちの支える、文字通りスーパーフードとして蘇ってきたと言えるでしょう。
【2】キヌアは、穀物ではなく「擬穀類(ぎこくるい)」
キヌアは植物学的に見ると、ヒユ科アカザ属の一年草です。ホウレンソウやテンサイ(砂糖ダイコン)の仲間で、正確には穀物ではなく、擬穀類(ぎこくるい)です。
穀物とは米、麦、トウモロコシなどのイネ科の植物のことを指します。キヌアは分類上は、イネ科でもマメ科でもないので、穀物ではないのですが、その種子がイネ科の種子とそっくりで、古くから食用に利用されてきたため、擬穀類と呼ばれます。
キヌアの実、つまり種子は品種によって赤、白、黄、紫、黒などの色をしています。キヌアの草丈は1〜2mほどで、直立の茎に直径2mmほどの小さな種子が、かたまりになってつきます。外皮をむいた種子を乾燥させると、長さ2ミリ前後になります。加熱すると4倍にふくれあがり、真珠のような透明感が出ます。
【3】キヌアに含まれる成分は?
アンデスの高地に発展したインカ文明を支え、NASAが宇宙食として関心を寄せ、国連も21世紀の地球の食糧事情を救うものとして期待を寄せるキヌア。それはひとえにキヌアが栄養面で見た時に、素晴らしい作物だからにほかなりません。アンデス地方の厳しい環境を生き抜く驚異の生命力、それがキヌアを21世紀を代表するスーパーフードにしています。
具体的に、キヌアの栄養成分と米(精白米)を、文部科学省「食品データベース」より比較してみましょう。
※以下数値は、それぞれ100gに含まれる成分量
単位 | キヌア | 精白米 | |
エネルギー | kcla | 359 | 358 |
炭水化物 | g | 69 | 77.6 |
タンパク質 | g | 13.4 | 6.1 |
脂質 | g | 3.2 | 0.9 |
食物繊維 | g | 6.2 | 0.5 |
以下ミネラル | ─ | ─ | ─ |
ナトリウム | mg | 35.0 | 1.0 |
カリウム | mg | 580 | 89 |
カルシウム | mg | 46 | 5 |
マグネシウム | mg | 180 | 23 |
リン | mg | 410 | 95 |
鉄 | mg | 4.3 | 0.8 |
亜鉛 | mg | 2.80 | 1.40 |
以下ビタミン | ─ | ─ | ─ |
B1(チアミン) | mg | 0.45 | 0.08 |
B2(リボフラビン) | mg | 0.24 | 0.02 |
ナイアシン | mg | 1.2 | 1.2 |
B6 | mg | 0.39 | 0.12 |
葉酸 | μg | 190 | 12 |
精白米と比較して、キヌアのタンパク質は「2倍以上、カルシウムは9倍以上」
私たち日本人にとっての主食である精白米と較べると、炭水化物はほぼ同じくらい(精白米の方が少し上回っています)ですが、タンパク質は2倍以上、脂質は4倍近くになっています。ミネラルを見ると、カリウムは7倍近く、カルシウムは9倍以上、マグネシウムは8倍近く、リンは4倍以上、鉄は5倍以上となっています。
ビタミンに至っては、B1は50倍以上、B2は10倍以上、B6は3倍以上、葉酸は15倍以上の数値です。
必須アミノ酸を多く含み、良質なタンパク質が豊富なキヌア
優れた栄養成分のなかで、まず最初に注目したいのがタンパク質です。その含有量の多さはもちろんですが、キヌアには、牛乳に匹敵するほど良質なタンパク質が含まれています。
タンパク質は約20種類のアミノ酸からできています。私たちの体を構成する大切な栄養素であることは言うまでもありませんが、約20種類のアミノ酸のうち、9種類のアミノ酸を、私たち人間は体内でつくることができません。つまり、私たちはこの9種類のアミノ酸を食べ物から摂取しなければならないのです。この9種類のアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼びます。
一般的に、食べ物に含まれるタンパク質の栄養価を表現するときも、この「必須アミノ酸」を多く含むものを「栄養価が高い」「良質なタンパク質を含む」などと表現します。肉や魚、卵などの”動物性タンパク質”は必須アミノ酸をバランスよく含んでいます。「畑の肉」と言われる大豆も、必須アミノ酸をバランスよく含んでいます。
一方、”植物性タンパク質”は、9種類の必須アミノ酸を含んでいても、一部のアミノ酸の含有量が少ないものが多いのです。ですがキヌアは、9種類の必須アミノ酸をバランスよく含んでいる、稀有な植物なのです。
アミノ酸スコアが高いキヌアは、動物性タンパク質の代わりになれる!?
食べ物から摂った必須アミノ酸を使って体内でタンパク質をつくるには、9種類の必須アミノ酸がすべてそろっていなければなりません。例えば9種類のうち、8種類のアミノ酸が豊富にあって、1種類だけ少ないと、この一番少ないアミノ酸に応じたぶんしか、タンパク質をつくることはできません。せっかく取った8種類の必須アミノ酸の多くは、無駄になってしまうのです。
必須アミノ酸がバランスよく含まれているかどうかを示す数字が「アミノ酸スコア」と呼ばれるものです。豚肉、卵、牛乳、大豆などはアミノ酸スコアが「100」、つまり必須アミノ酸がバランスよく含まれています。
一方、精白米のアミノ酸スコアは「61」、トマトは「51」、りんごは「56」。トマトやリンゴはビタミンやミネラルが豊富で健康によい食べ物ですが、アミノ酸スコアの観点からは、優れた食べ物とは言えません。
キヌアのアミノ酸スコアはと言うと、なんと「85」。魚介類や畜肉には劣るものの、高い数字と言っても間違いないでしょう。必須アミノ酸をバランスよく含む優れた食べ物のひとつで、動物性タンパク質の代わりとなるとも言われています。
グルテンフリーのキヌアはアレルギーの方にも安心
良質なタンパク質、豊富なビタミンやミネラル、特に葉酸は葉ものにも匹敵するキヌアが、最近注目を集めていることがあります。そのひとつがグルテンフリーであることです。グルテンは小麦に含まれるタンパク質で、パンや麺類をつくるときに欠かせない成分ですが、その一方でアレルギーの原因になります。
キヌアは「擬穀類」なので、グルテンを含んでいません。ですから安心して食べることができます。
低GI値のキヌアは、肥満や糖尿病、脳梗塞や心筋梗塞などのリスク緩和が期待できる
GI値、グリセミック・インデックスも最近、注目を集めている言葉です。簡単に言うと、何かを食べた後、血糖値が上昇する度合いを示したもの。具体的には摂取後2時間までに血液中に入る糖の量を表したものです。
「血糖値スパイク」という言葉も登場していますが、食後、血糖値が急上昇すると血管にダメージを与え、肥満や糖尿病、さらには脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが高まります。キヌアはGI値が低く、こうしたリスクを下げると期待されています。
植物性エストロゲン(大豆のイソフラボンと同じ成分)が含まれるキヌアは、更年期障害、骨粗しょう症、乳がんなどのなどのリスク軽減が見込まれる
さらに最近、キヌアには女性ホルモン(エストロゲン)に似た植物性エストロゲン(大豆に含まれているイソフラボンと同じ成分)が含まれていることもわかりました。エストロゲンの減少によって起こる更年期障害、骨粗しょう症、動脈硬化、乳がんなどのリスクを減らす効果が見込まれます。また脂質も、そのほとんどがコレステロールを抑える不飽和脂肪酸のリノレン酸、オレイン酸。抗酸化・抗炎症、抗肥満、抗糖尿病効果や皮膚の健康にも寄与することが期待されるなど、文字通り完全無欠のスーパーフードなのです。
【4】キヌアを使ったレシピ
擬穀類であるキヌアはご飯のように炊飯器で炊く、あるいは茹でて使うのが一般的です。キヌアの種子は苦味成分のサポニンで覆われています。サポニンは脱穀時に取り除かれますが、一部、残っている場合もあります。サポニンは水溶性なので、使う前には水で洗ってください。
またキヌアは茹でると透明になりますが、周りに白い縁取りのようなものが現れます。キヌアの胚芽です。中には寝グセの髪の毛のように飛び出すものもあります。
■キヌアレシピ その1:ご飯のように炊く
キヌアを炊飯器に入れて炊くだけ。炊いている時に、キヌア特有の匂いがすることもありますが、炊き上がるとほとんど気にならないはずです。
■キヌアレシピ その2:キヌアサラダ
茹でて使うのもお勧め。ポテト、海藻、アボカド......。さまざまな食材と一緒にサラダにして食べると、プチプチした食感も楽しめます。
■キヌアレシピ その3:ミネストローネ
パスタの代わりにミネストローネに使うと、グルテンフリーなミネストローネのできあがり。キヌアは水洗いして加えてください。
■キヌアレシピ その4:フライの衣に
茹でたキヌアをフライの衣にすると、カリッとした食感が楽しめると同時にヘルシーに仕上がります。
■キヌアレシピ その5:パン粉の代わりに
パン粉の代わりに、ハンバーグに混ぜるのもオススメです。
■キヌアレシピ その6:茹でたキヌアを冷蔵庫でストック
茹でたキヌアは冷蔵庫で3〜4日間保存できます。茹でてストックしておけば、いろいろな料理に手軽にアレンジできます。
【5】キヌアを使った商品
脱穀したキヌアはさまざまな商品が、インターネットや自然食品のストアなどで販売されています。その他、ユニークな商品としては大豆を使わず、キヌアを使った「キヌア醤油」や「キヌア味噌」が開発されています。
【6】キヌアを食べる時の注意点
インカ帝国の繁栄を支えてきたキヌアには、特に目立ったデメリットはありません。唯一、キヌアの種子はサポニンという苦味成分で覆われており、これは脱穀、精製した際にほぼ取り除かれますが、一部、残っている場合もあります。サポニンは水溶性なので、使う前には水で洗ってください。この苦味成分はキヌアが何千年、何万年という進化の中で、鳥や虫などの外敵から、身を守るために獲得したものと考えられています。
最近、キヌアのDNAがほぼ完全に解読されたというニュースが伝えられました。NASAや国連が注目するキヌアの食糧としての利用は、これからが本番と言えます。今後、DNAの解読により、この苦味成分を持たないキヌアが開発され、より手軽に利用できるようになるかもしれません。
監修者
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- TEXT :
- Precious.jp編集部