初めまして、堀江美希と申します。大学を卒業後、マスコミ業界に就職し、テレビ、雑誌、WEB、ラジオの企画や制作に携わり、20代後半からグラフィックデザインの勉強を経たのちに、美容業界でデザインや広報の仕事をしてきました。

新しい仕事にも慣れ、社会人として充実していた29歳の夏。自宅に戻ると、リビングに見慣れぬ雑誌が置いてありました。

二拠点生活を知ることになったきっかけは週刊ビジネス誌でした

「週刊 ダイヤモンド (2009年 8/1号)~特集 成功する「農業」入門~」

何気なしに一読してみたところ…農業が、こんなにもおもしろい商売、ビジネスだったなんて!「農作物を創りだす仕事って、とてもクリエイティブなんだ…。そして、こんなに利益が出るの?!」。これまでまったく縁がなかった農業の世界にとても衝撃を受け、特集記事を隅から隅まで精読しました。

もちろん、このさりげなさを装ったサプライズを仕込んだのは、パートナーたる主人です。独身男性の「ある日家に帰るとゼクシイが置いてあって」エピソードみたいなお話ですが、この成功に気をよくした彼は、『里山資本主義』(藻谷浩介著)をはじめとする、地域活性にまつわるテレビ番組を観せてくれたり、本を勧めてくれるなど、策略は継続的に続きました。

次第に私もまんざらではなくなり、自然が身近に感じられる場所で暮らすことを想像するように。漠然と思い浮かべたことがある「自分だけのローズガーデンと陶芸の窯を創りたい!」という憧れを、現実の未来予想図として、くっきりと意識するようになりました。

堀江さんセカンドハウス近くの田園風景

2015年10月、その夢が東京と田舎を行き来する、Dual lifeというカタチで現実となりました。

この連載では、その両立生活を実現するために私がしてきたこと、しているコツ、並びに、体験を通じて学んだ失敗や成功を、日程や資金なども具体的に織り交ぜながら、書き起こしてみたものです。

私と同じように、「地方と都会とで暮らしたい」「お庭を作りたい」「家を自分好みに改造したい」「趣味を増やしたい」などと少しでも考えている大人の女性の今後の参考になれば、こんなにうれしいことはありません。どうぞ末永くお付き合いください。

セカンドハウスとは? 別荘との違いは? お得なのは?

私たちが週末を過ごすセカンドハウスは、東京から車でおよそ1時間の距離に位置しています。

堀江美希さんのセカンドハウス外観

探し始めてから7年の歳月をかけてようやく巡り合えた、庭と畑付きの古民家。前の持ち主からうかがった話によると、3世代に渡って受け継ぎ、完成したという、築70年のお宅だそうです。四季折々の美しい変化を楽しませてくれる田園地帯にたたずむ我が家は、スタジオ・ジブリの映画に出てくるような古めかしさと、懐かしさがあり、日本人なら誰もが思い浮かべるような日本家屋です。

購入後、7か月かけてリフォームをした古民家は、主人と私にとって、今まで出合ったことがない、とても刺激的なカンフル剤となりました。

古民家をリフォーム中
リフォーム中の古民家

現在は、基本的に週の半分…毎週金曜日の午後から、月曜日いっぱいまでを、郊外の家で過ごしています。東京を出発する朝から、待ち遠しくてソワソワ。午前いっぱいで仕事を切り上げ、ダッシュで家に向かったら、ピンヒールからスニーカーに履き替え、レクサスNXに飛び乗ります!

ラジオから流れる、知らない曲に調子を合わせて口ずさみ、古民家で過ごす段取りの計画を練ります。いつの間にか、ビルがびっしりと立ち並ぶ景色は消え、鮮やかな色彩に染められた自然に包まれていました。この瞬間から、私の週末田舎生活が始まります。

セカンドハウスでは、朝から晩まで、東京ではできない、憧れだった畑仕事や、庭いじり、DIY、趣味などのやりたいコトを、目いっぱい楽しみます。いつもあっという間に感じられて、気づけば「もう明日、東京に戻るの!?」と驚くほど、濃密な時間を過ごしています。

ちなみに税法上では、「別荘」と「セカンドハウス」は扱いが異なるそうです。意味合い的に前者は、のんびりとリラックスをする空間で、ぜいたく品の扱い。後者は、定期的に住居として利用する第二の家と定義されています。税制面では固定資産税が別荘よりも安くなるセカンドハウスですが、その説明は、個人的になんだかしっくりきません。というのも、私たちにとっての「セカンドハウス」は、誰にも邪魔されず、自分たちの宝物をたくさん持ち込んで、ワクワクを楽しむ「秘密基地」に近いイメージなのです。

思い返せば、幼稚園の帰り道。仲よしのお友達と、東京の有栖川公園にある小さな滝の茂みを秘密基地と称して、落ち葉や小枝を集めて、門や入口を作って遊んでいました。そこで大人には内緒にして、こっそりとドキドキしながら食べるキャンディーが、いつもより甘くておいしく感じられました。

大人になっても、こんなふうにワクワクした気持ちを住みながら楽しめるセカンドハウス。私たちは愛情を込めて「ベース」と呼んでいます。

二拠点生活で、「時間の使い方」と「感じ方」が激変した

さて、2拠点を行き来するスタイルは、私の価値観を大きく変え、自分の生活習慣を見つめ直すきっかけにもなりました。

<1>シンクも机もすっきり、溜めない女になった

当然ですが、それぞれの場所にいられる時間に制約があります。そのため、物事の優先順位を明確にし、行動自体も取捨選択もはっきりしないと、楽しい田舎での時間を確保できなくなってしまうのです。

お恥ずかしい話ですが、東京だけで暮らしていたときは、食事作りは流しに溜まった食器を洗うことから始まっていました。これを悔い改め、食べ終えたら即食器を片付け、シンクをいつも空に。大好きな海外ドラマを見ながらダラダラしていたアイロンがけも、集中して片付けるようになりました。

仕事面でも、資料の山をかき分け、ギリギリまで先延ばしにしていた締め切りを、余裕をもって仕上げるようになり。軽い気持ちで誘われた会には、無理をしてまで参加しなくなりました。似合わなくなった洋服や、使わなくなった道具を手放したのと同じように、時間と行動の断捨離を意識するようになったのです。

私が目指す生き方は、詰め込みすぎずにシンプルで、飾り立てずに素朴な毎日と描いているのですが、この生活スタイルを通じて、豊かで丁寧な暮らしに近づけたのでは、と思っています。

<2>見るものへの感じ方が変わった

違う環境を、じっくりと観察できる機会のおかげで、いろいろなことへのアンテナが高まっていきます。

例えば、趣味の絵画鑑賞において。19世紀フランスの画家・ミレーに、当時の人々が引かれた理由が共感できるようになってきたんです。ミレーといえば、美術の教科書にも掲載されている、農民画『種をまく人』『落穂拾い』をはじめとする作品で、誰もが知る有名な画家です。名作のこれらは、宗教画といわれれば、荘厳な印象で名作に感じられますが、なんだか薄暗い色合いで、描かれているモチーフが地味だな…と以前は感じていました。

ところが最近は、農村で暮らす人々の生活がすぐ側にあり、自分もその中に入ったおかげか、かつて出稼ぎでパリに出てきた人々が、離れた故郷をミレーの絵を通じて抱いたノスタルジーのような感覚に、共感できるようになりました。

田園風景

自然と共に生活をしている人達の、何気ない日常の一コマが、よそから来た私にはとても新鮮で、美しく感じられるようになりました。早朝畑に出て、野菜を収穫する人の白い息。夕暮れ決まった時間に、田んぼのあぜ道を散歩するおばあちゃんと犬の、橙色に染まった背中。

田園風景

江戸っ子で、田舎を知らずに育った私ですが、根のどこかには、先祖の故郷の記憶が受け継がれていたのかもしれません。おまけに、東京から離れた非日常の場に身を置いていると、細胞ひとつひとつのレベルで、感度が研ぎ澄まされてくるように感じます。一年を通じて、絶え間なく活動し続けている自然界の小さな変化 ― 太陽の煌きを、大地を吹き抜ける風の香りを、漂う空気の重さを、そして動植物たちは息吹を — 直接、目で見て触れて感じられ、ささやかな美しさに心を震わせられます。

セカンドハウス近くの田園に降る雪

日常の反対をイメージすると、旅が浮かびますが、そんな大げさな感動ではなく、あくまでセカンドハウスで過ごす時間は、お菓子のおまけにくっついてきたものくらいの、ちょっとだけ特別なこと。けれど、その小さな愉快さが連なり、気づくと喜びと幸せに、いつも包まれています。

名前の知らない鳥達のさえずりで目を覚ますこと。
毎朝、丁寧に豆を挽き、美味しくコーヒーを淹れること。
自家製のジャムを控え目に塗って、焼きたてのパンをかじること。
畑のフィールドワークを兼ねて、カメラを片手にパトロールをすること。
1週間前に咲いていなかった、野花を見つけること。
元気に挨拶を返してくれる子供たちと、挨拶を交わすこと。
隣のおばあちゃんと、天気の話をすること。
畑でテントウムシを見つけること。

季節の移ろいで色鮮やかな美しい田園風景が楽しめ、流れている時間の早さまで違ってくるような、農村での暮らし。こんなにハマってしまうとは! 思ってもいませんでした。

都会の生活より、田舎のほうが「忙しかった」

遊びに来てくれたゲストはみんなそろって、「都心からこんなに近いのに、すごい田舎だね!」と驚きます。事実、2拠点目に選んだ場所は、見知らぬ人同志が密な間合いで行き交う都会の賑やかさもなく、額縁越しに仰ぎ見えるような空は浮かびません。昼夜がわからなくなるネオンや、いつでもニーズを満たしてくれる便利なお店とも無縁です。

言い換えると、家が建つ小さな集落には、両手で数え切れるほどしか人は住んでおらず、頭上の空はどこまでも青く広がっています。夜になると黒い緞帳が村に降りたような暗さになり、小さな家の灯りがまばらに点在するだけで、いちばん近くにあるスーパーには車で15分かかります。

時に、都心の暮らしに慣れた感覚からすると、何もない田舎生活はとても不便に感じられます。例えば外食文化の違い。街と違い、畑仕事でどんなに疲れた日でも、外食をできる環境は整っていないので、基本的に自炊が当たり前。お店が、車で行く距離にしかなかったり、車で行ったとしても、どちらか一方はお酒が飲めないという理由で、外に食べに行くのが億劫になったり。

出前をお願いしようにも、街から離れた農村は、デリバリーに対応していなかったり(町と村の途中にある、コンビニエンスストアまでは届けてくれると言われました! でもそこまで車で20分!!)。おかげさまで、簡単に作れる料理のレパートリーが増えました。近くにお店はなくとも、インターネットショッピングで、必要なものは翌日しっかり手に届くし、1年たった今は、この手の不便さは受け入れられるようになりました。

それよりも、田舎暮らしをするなかで、未だに慣れない最大の発見は、「忙しさ」です。始めた当初は予想以上の仕事の多さに、非常に驚きました。もとより、自分で何かを作るのが好きで、なんでもやってみたい性分も理由のせいかもしれません。

古民家のリフォームをはじめ、ローズガーデン造りも、畑仕事も、DIYもキリがなく、一年中、作業に追われています。

タイルを張り替え中の堀江さん

ひとつ例を挙げると、始めて着手した、洗面所のタイル張り。4日間、朝の5時から夜の19時まで計18時間、めいっぱい働きました。

真剣にタイルを貼る堀江さん

休憩時間は、10時と15時のお茶休憩がそれぞれ15分、ランチは30分で切り上げました。気づけばずっと立ちっぱなし。

電気まわりのタイルも丁寧に貼ります

次第にタイルが重たく感じられ、作業後半はパートナーとの掛け声なしでは拾い上げられませんでした。

タイルの貼り替え前
張り替えたタイル
タイル貼り替え後

途中ひと段落したり、接着剤を乾かしている間などは、畑に出て雑草むしり。

畑仕事をする堀江さん

10年間耕作放棄されていた畑なだけあって、40~50cm伸びた頑固な雑草がはびこっています。最初の目標とした1㎡を切り出すのに、3時間もかかりました。この時は、草刈り機も耕運機もない時代、農地を開拓した昔の人の苦労が想像できました。

住み始めてから1年たった今でも、悩みすぎて、夢の中でまでペンキを塗る作業にバタバタと苦しい思いをしていますが、だいぶペースは落ち着いて来ました。

まだまだ、好きな読書をゆっくり楽しむ余裕はありません。でも、前向きに考えると、終日の肉体労働で、夜にはクタクタになるおかげで、熱~いお風呂と、満天の星空の下で乾杯するビールが格別においしく感じられます。

採れた野菜を前に、ビールを飲む堀江さん

さらにうれしいのは、畑仕事をするようになってから、筋力がつき、サイズダウンし、デニムに余裕ができるようになりました(畑と美容の小話はまた今度)。余談ですが、ご近所の皆さんも、そろいにそろって働き者なので、村を見回すとダイエットが必要そうな方は、男女ともに皆無です。

この2重生活をスタートさせてから、1年。いちばんうれしいのは、家族との時間が増えたことです。この家がなかったときは、毎週末、何をして過ごしていたんだろう?と主人と振り返ったことがありました。今は、常に互いの予定を確認し合って、週末はずっと一緒に過ごしています。互いの夢を膨らませて、協力し合い、目標に向かって一歩一歩カタチにしています。

ゴールは、どこにあるんだろう…。先のことを考えると、壮大な夢と妄想に気が遠のきますが、これから、セカンドハウスをお持ちになろうと計画している方の参考になるような、また、ちょっと田舎生活も楽しそうだな、と刺激を感じていただけるような情報をお届けしてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

東京⇔田舎で二拠点暮らし。シリーズ「セカンドハウスライフ」

この記事の執筆者
TEXT :
堀江美希さん 会社経営
2017.6.22 更新
<プロフィール> 1980年、東京生まれ。大学を卒業後、マスコミ業界に就職。テレビ、雑誌、WEB、ラジオの企画や制作に携わったのち、20代後半からグラフィックデザインを学ぶ。美容業界でデザインや広報の仕事をする傍ら、2015年9月に関東圏の古民家をセカンドハウスとして買い取り、東京と地方を行き来する生活を始める。 好きなものは、本、カメラ、花、ティファニーとTシャツ。趣味は、読書、アート鑑賞、カメラ、陶芸、料理、ピラティス、ゴルフ。「たくさん、よりも、自分に合う、永く愛せる物や人間関係を大切にしたいと思います。また、そういったものに巡り合っていきたいです」
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