セカンドハウスを探す前に、畑を耕してみた

気づけば主人に巻き込まれ、一蓮托生となった、東京の家と地方のセカンドハウスで過ごす人生。この記事を書くにあたり、改めて主人に事の発端を確認してみました。

堀江美希さんのセカンドハウス

「どうして、セカンドハウスを探すことになったのかしら?」

すると、こんな答えが。

「僕、このままじゃ死ぬと思ったんだ」

【連載第1回】私が東京と田舎の「二拠点暮らし」を選択するまで

当時、主人は新たな業界に身を転じ、連日出張に明け暮れていました。バッグはいつもパンパンで、ぎっしり詰まった資料をひきずって走ります。ひどいときは、予定が当日にならないとわからないハードなスケジュールをこなし、北から南へ飛び回っていました。私はのんきに「各地のおいしい名産品を土産に持って帰ってきてくれてうれしいなぁ」と感謝する毎日。一方で、彼のスーツという鎧の下に広がっていく蕁麻疹に薬を塗りこむのが役割になり、日に日に心配になっていきました。

そんな日々の中、この生活を続けていたら、身体が壊れてしまうという危機感を感じたそうです。そして、身体を動かす仕事で、身体にいいことがしたいと思い始め、「畑で野菜をつくる」を実践することに。折しも、日本のオーガニックを広めた第一人者・山口タカさんと出会ったのも、ターニングポイントでした。山口さんは安全で正しい食育の普及や啓蒙に関する、出版、イベント、セミナーの等を企画・主催されており、食をテーマにした人気コミック『美味しんぼ』第101巻“食の安全”シリーズでは、ご本人が主人公・山岡さんたちのガイド役として登場したほど。

この山口さんと私たち、友人たちで有機野菜を実際につくってみることになりました。セカンドハウスを購入する5年前のことです。

野菜を育てる畑は、身体を追い込んだ苦労が報われたのか、主人のクライアントが無償で貸し出してくださることに。つくばにあるその畑に出向いた日のことは、今でも鮮明に覚えています。

菜の花

梅雨が明けた夏の始まり、セミの声が聴こえ始めるころ。よく晴れた朝、友人を車に乗せ、どんな野菜をつくりたいか、それを使ってどんな料理をしようか?などなど、「その先」の収穫パーティーの計画を道中立てながら、畑に向かっていました。学園都市ならではの映画に出てくるようなおしゃれな景観を通り過ぎ、美しい山を越えると、次第に民家の数が少なくなってゆき、角を曲がり、舗装されていないデコボコ道をしばらく走った先に、目的地はありました。

見渡すばかり自然という景観に歓声を上げながら車外に出て、長時間のドライブで縮こまった体を伸ばし、土や濃い緑の香りを胸いっぱいに吸い込みました。目を凝らしてみると、目の前には、野球場がふたつくらいすっぽりと入ってしまいそうなほどの、広大な自然がただただ広がっています。

…畑と聞いていたのに、これはどうみても「原野」。びっちりと隙間なく生えている雑草が、膝の高さまでこんもりと茂っていました。

実際にこのときに使ったスコップと鎌

パートナーから「はい」と手渡されたのは、鎌とスコップ1本づつ。

こんな広いところを、たったこれだけの道具で挑むの? それがオーガニックなの!? 戸惑いながらも、新品の真っ白な軍手をはめ、友人たちと私の3人で作業開始。見えない足元にはどんな生き物がいるのか不安がよぎる未開拓の地を分け入り、扱ったことのない鎌で剛太な草を刈り、飛び乗らないと歯が立たない大地をスコップで掘り起こします。

スコップで地面を掘る

開始からほんの数分経つと、滝のように吹き出した汗でTシャツはみるみる色を変え、和気あいあいとしたムードも一変、みんなの顔から笑顔も余裕も薄れてきました。

堀江美希さん(中央)と友人たち

初回のこの日は、道具もそろっておらず、計画も曖昧というコトで、2時間くらいで引上げることになりました。成果は、60cm×250cmほどの畝を切り開いただけ。今考えると、畑の周りには何もなく、お手洗いも、シャワーを浴びられるような休憩場所もなかったので、もう少し体力と気力が残っていたとしても、作業を続行するのは難しかったように感じます。

ALTO BOSCOでお疲れ様会

久しぶりの全身運動は、身体が泥のように重たく、地球の底に沈んでしまいそうな疲労感に襲われました。けれども、労働のあと、近場のイタリアン「ALTO BOSCO」でいただいたランチはひと際おいしく感じられました。デスクワークの仕事では決して味わえない、クタクタになるまで体を動かして、大汗をかいて、腹ペコになる爽快感! とてもいいリフレッシュになりました。

2回目の「開墾」は、3週間後。前回の反省を踏まえ、野菜づくりの本に目を通してから、畑に出向きました。2時間ほどドライブし、現地に到着。見渡してみると、切り開いたはずの場所が、どこにも見当たりません。

「あらら? 確かここの草を刈って、掘り返したよね!?」

目印に突き刺していった竹竿は見つけられたものの、勢いよく育った雑草の中に埋もれて隠されており、その足元の地面は完全に元の状態に戻っていたのです。

前日は食事会を断り、早寝早起きをして、遠路はるばる訪れたというのに、私たちの初畑チャレンジは、無残にも完全敗北。畑仕事をするには「定期的に通わないとダメなのである」ということを痛感する、手痛い思い出となりました。

畑は、ネットでは見つからない

これを機に、東京から毎週行ける近場に畑を借りることを目標に掲げ、探し始めました。理想としたのは、クラインガルテン(Kleingarten)。ドイツでいうところの貸し農園です。その特徴は、ラウベ (laube) と呼ばれる小さな物置小屋が、それぞれのスペースに建っていること。自分たちの農機具を収納できたり、そこで休憩することができます。

さっそくクラインガルテンをインターネットで検索をするものの、都内から近い距離には空きがない状況でした。当時(2010年ころ)は、こういった情報自体が少なく、農家さんからの農地貸出し情報は、賃貸マンションのようにはなかなか見つけられませんでした。

唯一見つかったのは、参加者が共有して利用する「レンタル農園」。道具も借りられ、気軽に野菜づくりを始められるメリットがあるレンタル農園は、一方で、自分のやり方を押し通すと、周りに迷惑をかける心配があり、選択肢には入りませんでした。

ちなみに「自分のやり方」なんて、プランターでしか野菜をつくったことがなかった、ほぼ素人の私が言うには大げさですが、当時『奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』という本に感銘を受け、「無農薬・無肥料・不耕栽培」な野菜の栽培を夢見ていました。いわゆる「ほったらかし栽培」と呼ばれるもので、雑草もそのままにしておきたかったのです。

セカンドハウス近くの田んぼの間の道

なるべく、化学や人の手を使わずに、野菜が持つ力だけで自然に育った物を食べたい!という共通の目標を追った木村さんですが、本には雑草を伸ばしっぱなしにしていたせいで、周りの農家さんから白い目で見られてしまった、と書かれていました。これを受けて、みんなで区画を分け合って借りるタイプの農園では、私たちの挑戦は認められないだろうな…とあきらめたのです。

どこに住もうか、エリアの絞り方

「野菜をつくりたい!」という夢をかなえるために、畑を借りようとしても、なかなかうまくいかない現実の壁に当たった私たち。次なるステップとして、「畑付きの家を探そう」という方向に話を切り替えていきました。

畑付きの家、といってもさまざまなタイプがありますが、この時点で主人は「田舎×畑、イコール、渋い古民家がいいな!(私の趣味である)陶芸のアトリエにもぴったりだ」と考えていたようです。

私はといえば、ぼんやりと、集めていた海外のインテリア誌や写真集を引っ張り出してきて、新たにおしゃれな小屋のような家を建てても面白そうだな…とひそかに夢想していました。

また、ちょうどその時分から、古きよきものを受け継いで大切にする、パリジェンヌのファッションやライフスタイルに憧れを抱き始めていたこともあり、主人のいう古民家も面白いのかなと、賛同するようになりました。

ふたりの意見がかみ合ったところで、悩んだのは「場所選び」です。

セカンドハウス近くの桜。2017年4月

必須条件は、東京から毎週通える範囲であること。しかし選択肢は、交通手段によって、大きく変わります。飛行機、新幹線、高速バスetc.…。

憧れのセカンドハウス、いっそのこと常夏の島、沖縄!?なんて意見も出たのですが、出張に疲れていた彼から、大げさな乗り物に乗って移動するのではなく、もっと気軽に車でぶらっと行ける距離にしようと提案があり、思い直すことに。

キーワードを絞った後に起こした行動は、積極的なゴルフと温泉巡りです。もとから両方、私たちの趣味でもあったのですが、これが畑付きの家探しをするにあたり、とてもよい「下準備」になりました。

ゴルフの予約には「楽天のゴルフ場予約」サービスを使っているのですが、このサイト、とても便利なことに、コースを見比べる際に「高速道路」という項目があり、「高速を降りてから、どのくらいの距離でゴルフ場に着くか」を教えてくれるのです。一見東京から近い距離でも、高速を降りてからの距離が長いと、下道を走る時間が長くかかってしまうため、結果的に、全長の距離は遠いけれど、高速を降りてから近い場所にあるコースのほうが、時間的には近くて便利だったりします。

もちろんコースのレベルはチェックしていましたが、この高速距離も見比べ、どこでプレーをするか選んでいた経験が、家選びに思った以上に役立ったのです。

ゴルフ後はリサーチを兼ね、付近の散策を楽しみます。花の名所を見つけたり、道の駅で特産物を購入したり、日帰りだったり宿を探して、大好きな温泉も巡りました。

埼玉、千葉、神奈川、などへ実際に各地へ足を運んでいくと、徐々に繰り返し訪れるエリアが絞れてきて、まったく知らなかった場所でも、土地勘が備わってくるようになります。ここのインターから降りたところは賑やかだな、とか。この町とここは隣り合わせだから生活に必要なものはそろいそうだな…とか。ネットの情報だけではわからない「周辺の雰囲気情報」が集められ、暮らしたときのイメージが湧いてくるのが大きなメリットでした。

実際、地方に移住した方とお話してみると、皆さん口をそろえて「何度も来たことがあった場所だった」とおっしゃいます。

ツーリングが好きで、ここにドライブに来ていた。 サーフィンが好きで、よくここの海に通っていた。 トレッキングが好きで、毎年この山を訪れていた。

などなど、第二のマイホームは、いつの間にか好きになっていた場所だった方が多いようです。

皆さんの中にも、いつかあの場所で暮らしてみたいと感じる繰り返し訪れている場所があったら、そこがあなたのセカンドライフの入り口かもしれません。

「畑付きの家」は、不動産市場にほとんど出ていない!?

さて、ざっくりと通えそうな範囲が絞れたところで、物件情報を収集していきます。情報は、インターネットと田舎暮らしに特化した雑誌『田舎暮らし』(宝島社)などを通じて集めました。

繰り返しになりますが、探し始めた7年前の当時は、WEBで古民家情報はなかなか出てこなくて苦労しました。

近所の畑の朝焼け

気持ちばかりがはやる中、テレビで見た「空き家バンク」という制度を調べてみたり、畑付きで借りられる物件がないか、行政に直接聞きに行ってみよう!と、お役所に直談判してみたり。残念なことに結果は空振りで、私たちが訪ねたこじんまりとした役場は、「そういった活動があったらいいと思うが、うちの地域ではない」と回答されてしまったり…。付近の地元に根差した不動産屋さんに足を運んでみてもハズレ。どうやら田舎では、一軒家の賃貸というサービス自体、供給が少ないそうです。町中を車で走ると、確かにアパートの前に「入居者募集」ののぼりが旗めいていますが、古民家や戸建てにはそういったサインが見当たりませんでした。

 

同時に、日々田舎暮らしにまつわることを検索していくと、不安になるエピソードも目にするようになってきました。移住したものの、その地に馴染めず、せっかく買った家を手放し、東京へ戻ってきてしまった人の悲しいお話など…。

だからこそ、この地と自分たちとが「いい相性」なのかどうかを見極めるためにも、お試し住まいをしてみたかったのですが、八方ふさがりに。畑選びに失敗し、畑付きの家選びができず、ここでツーアウト。「畑付き古民家の夢とはお別れするしかないのか…」と思っていた最中、しぶとい主人がユニークな不動産屋さんのサイトを見つけ出し、話は大きく前進することになります。

次回3回目は、いよいよ巡り合ったいくつかのセカンドハウス候補のレポートです。

東京⇔田舎で二拠点暮らし。シリーズ「セカンドハウスライフ」

この記事の執筆者
TEXT :
堀江美希さん 会社経営
2017.7.5 更新
<プロフィール> 1980年、東京生まれ。大学を卒業後、マスコミ業界に就職。テレビ、雑誌、WEB、ラジオの企画や制作に携わったのち、20代後半からグラフィックデザインを学ぶ。美容業界でデザインや広報の仕事をする傍ら、2015年9月に関東圏の古民家をセカンドハウスとして買い取り、東京と地方を行き来する生活を始める。 好きなものは、本、カメラ、花、ティファニーとTシャツ。趣味は、読書、アート鑑賞、カメラ、陶芸、料理、ピラティス、ゴルフ。「たくさん、よりも、自分に合う、永く愛せる物や人間関係を大切にしたいと思います。また、そういったものに巡り合っていきたいです」
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